国債市場特別参加者の資格を返上する三菱東京UFJ銀行本店。「国債の売買から手を引くわけではない」と言うが……(撮影/写真部・小原雄輝)

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 メガバンクと財務省の間で、内輪もめが表面化した。三菱東京UFJ銀行が、財務省から与えられた資格を返上するというのだ。どういう意味があるのか。

「昔だったら『バカなこと言うな』と一喝して終わったのに」

 旧大蔵省OBはこう嘆く。

 財務省にとって銀行は、国債を買っていただく出入り業者だ。大口の業者は「国債市場特別参加者」として優遇。情報交換の場を設ける代わりに、発行予定額の4%以上の応札を義務付ける。特別参加者22社だけで毎回、88%以上の「注文」が保証されるしくみは、歳入の3分の1を借金に頼る財政を支えてきた。

 その特別参加者の資格を、三菱東京UFJ銀行が6月中にも返上する見通しになった。

「1社が抜けるだけ。大勢に影響はない」と、財務省は表面上、強気を装うが、国内最大の銀行が国債から距離を置き始めたことに、心中は「一枚岩だった国債引き受けにヒビが入ることだけは避けたい」と、ほかの銀行への波及を牽制する。現状では、みずほ、三井住友両銀行とも追随しない。三菱UFJも、グループの証券会社は引き続き特別参加者にとどまる。

 ではなぜ三菱UFJは、「返上」などと事を荒立てたのか。

「国債のマイナス金利化が進行しているなかでは、落札の業務をすべて履行するのは難しい」

 三菱東京UFJ銀行の小山田隆頭取は6月10日の記者会見でこう述べた。

●ヒラメ「村長」に異議

 国債を買っても満期まで持つと損が出る。それが今、日本銀行が実施しているマイナス金利だ。預金者から預かるカネでそんな危ない運用はできません、というのである。筋論ではあるが、それだけではない。

「背景には日銀への疑念があります。金融秩序より政権に気を使う黒田総裁への不信です」

 と関係者は打ち明ける。マイナス金利の影響で、貸出金利は年1%を下回る水準まで下がった。一方、預金金利は預金者の反発を考えると、下げられる水準に限界がある。利ザヤは薄くなる一方で、銀行は来年3月期の決算で軒並み減益を予想する。

 黒田東彦(はるひこ)総裁の就任以降、「金融ムラの村長」であるはずの日銀が、「お代官様」の意向ばかり気にするようになったと言われる。黒田総裁がかつて「採用する考えはない」と繰り返し発言していたマイナス金利の導入に踏み切ったのはその典型だ。

 日銀の審議委員の人事にも異変が起きた。6月末に任期が切れる三井住友銀行OBの後任に、メガバンクの意向と違う新生銀行執行役員を提案。日銀との不協和音が高まった。

「背景にはもっと深刻なことがあります。国債への不安です」

 金融関係者は声をひそめて打ち明けてくれた。現状はマイナス金利でも国債は売れている。年間80兆円のペースで日銀が銀行から買い上げるからだ。

「そんな異常事態はいつまでも続かない。やがて金利は反転する。それが経済です。金利が上がれば国債は値崩れし銀行は大損する。いつまでも付き合っていられない、という思いはほかの銀行も同じです」というのだ。

●日銀内部にも理解の声

 日銀内部にも「政治主導」に従う黒田総裁への不満が渦巻いている。首相の考えに呼応する形で「異次元」緩和に踏み出したことを日銀職員の多くは異常と感じている。

「資格返上という『異議申し立て』は三菱UFJだけでなく、金融界全体の総意と考えるべきだ」との声が日銀内部にもある。

 同様の心配は財務省内部にもある。「金利が反転上昇すれば利払い費は膨張し、財政は破綻する。政権は近未来に訪れる危機を無視している」。多くの財務官僚は本音ではそう思っている。しかし、「人事権は首相官邸にある。公然と声を上げればクビ」という状況の中、静けさを保っているだけというのだ。

 今や円安・株高の流れは逆流し、アベノミクスの限界が見え始めた。そんな中で起きたトップバンクの異議申し立て。唐突に見えるが、背後には面従腹背する実務家たちの「総意」が秘められているかのようだ。(ジャーナリスト・山田厚史)

AERA 2016年6月27日号