空中のヘリコプターから地上にばらまくように国民に直接資金を配る「ヘリコプターマネー」論が浮上している。時事通信の佐藤亮経済部長は新聞通信調査会の講演会で「アベノミクス限界論を背景としたものだ」とし、その仕組みと問題点を解説した。写真は同講演会。

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2016年6月22日、空中のヘリコプターから地上にばらまくように国民に直接資金を配る「ヘリコプターマネー」論が浮上している。時事通信の佐藤亮経済部長は、6月中旬に開かれた新聞通信調査会講演会で「アベノミクス限界論を背景に、『ヘリコプターマネー』についての議論が活発化している」とし、その仕組みと問題点を解説した。

連邦準備理事会(FRB)のバーナンキ前議長がFRB入りする前のプリンストン大学教授時代の1999年に、デフレ不況が深刻だった日本での実験を提唱している。さらに今年3月に自身のブログで、世界的にデフレ状況から脱却できず、日欧でのマイナス金利も効果を上げていないと指摘。ヘリコプターマネーの効用に再び言及した。ヘリコプターマネー論は減税などで国民に直接マネーを配分し、財政の欠落は中央銀行が負担することで、究極的に国の借金までも帳消しに出来る、という夢のようなストーリーだ。

安倍晋三首相の経済ブレーンの一人で、リフレ(インフレ)派の論客である若田部昌澄早稲田大教授が日本経済新聞紙経済教室に寄稿した論考によると、このたとえ話を最初に用いたのは、新自由主義経済学者のフリードマン。1969年の論文「貨幣の最適量」で、「ある日、ヘリコプターが飛んできて空から1000ドルの紙幣を落としたとしよう。もちろんこのお金は人々がすばやく拾うだろう。さらに人々はこのことが1回限りのものであると知っていたとしよう」。フリードマンは貨幣が経済に追加され、それが回収されないなら、物価は確実に上がるだろうと分析している。

通常の財政政策では、税収が足りない分を国債発行収入によって補い、財政支出を拡大する。発行した国債は将来の増税で償還することになるが、国債発行の代わりに貨幣を発行して支出に充てる。国債発行の場合と違って債務残高は増えず、家計は将来の増税を心配することなく消費することが可能となるという。

ヘリコプターマネー論は、貨幣を増やし、増えた貨幣が恒久的に残る仕組み。政府が直接貨幣を発行したり、政府債務を貨幣発行によって償還したり、中央銀行が家計に直接貨幣を供給するなど様々な形態が考えられるという。

巨額軍事支出に伴う財政赤字を戦時国債など大量の貨幣発行で埋め合わせたドイツや日本では世界大戦後、異常なハイパーインフレに陥り、貨幣は紙切れ同然となった。こうした経験からヘリコプタ―マネー論はタブー視されてきた。

ヘリコプターマネー論の広まりを警戒するのが、日米欧の政府・中央銀行。日銀の黒田東彦総裁は6月16日の記者会見で、日本を含む先進各国では財政政策は政府、金融政策は中央銀行が独立して行う仕組みとなっていると指摘、「現行の法制度の下では実施できない」と述べた。麻生財務相も「現在、問題はカネがないのではなく、需要が不足していることだ」とマネーを大量に供給しても効果はないとの考えを示した。

米連邦準備制度理事会(FRB)のイエレン議長も6月15日の会見で、中央銀行が金融政策で政府の財政を支えるような事態は「極めて異常で極端だ」と語った。イエレン氏は「通常は中央銀行の金融政策と政府の財政政策を区別することが重要だ」と強調。ヘリコプターマネーによって、「ハイパーインフレに陥った国はあまりにも多い。物価の安定は中央銀行の独立性によって支えられている」と訴えた。

アベノミクスの行き詰りとともに、その推進派から、窮余の一策として「ヘリコプターマネー」という奇策が浮上したとも言えそう。現実世界ではリスクが大きすぎるため「禁じ手」とされ、この構想はずっと封印されてきた。アベノミクス行き詰まりの打開を狙ったものと言えるが、実施されれば超インフレになり、政府日銀は信用を失いかねない。(八牧浩行)