イングランドで行なわれた昨年のラグビーワールドカップでは、ラグビー日本代表のトライゲッターとしてW杯3勝に大きく貢献。トップリーグのパナソニックでは3連覇を達成し、さらに今年2月、世界的なプロリーグ「スーパーラグビー」に参戦したサンウルブズでも、持ち前のステップと嗅覚でトライを量産。今季これまで9トライを挙げて、現在、トライ・ランキングでトップに立っている。

 山田章仁――。今やラグビー界だけでなく、日本のスポーツ界を引っ張るアスリートのひとりへと成長した。

 だが今年6月、山田は15人制の日本代表に参加することなく、北海道の大地を駆けていた。男子セブンズ(7人制ラグビー)の日本代表として、リオデジャネイロ五輪への出場を目指しているからだ。2009年にセブンズがオリンピック種目に決まった瞬間から、「出たい!」と思ったという山田。その心境に迫ってみた。

―― 15人制の日本代表に選ばれる前は、セブンズの日本代表として2006年アジア大会に出場して金メダルを獲得したこともあります。そんな山田選手が6月からセブンズに専念した理由とは?

山田章仁(以下、山田):もともと2015年はワールドカップ、2016年はオリンピック出場のために7人制に専念しようと思っていました。セブンズの経験はゼロでないですし、感覚もわかります。また、それを上回る経験と自信もありました。大学生のときに初めてセブンズの日本代表に選出されましたが、「日本代表」というカテゴリーに選ばれて嬉しかったですし、世界と戦うことも楽しかったですからね。

―― 2月にはセブンズ日本代表としてワールドシリーズに出場し、サンウルブズでもプレーしました。7人制と15人制の「二刀流」を選択した理由は?

山田:そうするつもりはなかったのですが、ワールドカップで(15人制の)日本代表が3勝して、日本国内でラグビーが認知されてきたので、日本ラグビーのためにサンウルブズでやらないといけないという思いになりました。サンウルブズの船出は大変だったし、選手として昨年もスーパーラグビーのチーム(フォース)に在籍していたので、自分の経験を生かせる環境があると思いました。だから、瀬川(智広/セブンズ日本代表ヘッドコーチ)さんと話したうえで、両方でプレーすることを決めました。

―― 現在、スーパーラグビーのトライ王です。残りは3試合。「もったいない」と思うファンも多いと思いますが?

山田:スーパーラグビーのトライ王に関しては、何とも思わないですね。そうなりたくてチャレンジしたシーズンなら、「少しもったいない」という気持ちになるかもしれませんが、今年のターゲットはオリンピック。サンウルブズでプレーできたことは、言い方は悪いかもしれませんが、オリンピックに行くためにいい経験になりました。また、9つのトライを獲れたことは、新しい引き出しを9個増やすことができたかなと。トライを狙うとき、「前にもあったな」と思うことができれば、自分自身、迷いがなくなります。

―― 2015年のワールドカップの経験が今、生きていることはありますか?

山田:南アフリカ代表に勝つことができたのは、僕だけでなく、すごくみんなの自信になっていると思いますし、大きかったと。ワールドカップに出て、ラグビー選手としてレベルを上げることができ、大舞台の経験は何ものにも変えられない。プレーに余裕が出てきました。また昨年は、ワールドカップで全力を尽くすことが、オリンピックに対しても全力を尽くすことにつながると認識してやっていました。

―― 他のセブンズの日本代表候補選手は、今年に入ってから試合と合宿と繰り返しています。山田選手は6月からの本格合流ですが、15人制から7人制にすぐに慣れることはできましたか?

山田:すぐに慣れることができましたね。ただ、足の状態が少しよくないので、徐々に調整しています。いくらセブンズだと言っても、フィジカルが必要なコンタクトスポーツ。時間の許すかぎり、筋肉トレーニングはしていますし、関節や筋肉を強くするには15人制と共通するトレーニングもあると思います。

―― 15人制ではWTB(ウイング)のポジションですが、セブンズではスクラムを組むHO(フッカー)として出場していることについて。

山田:相手のFWの選手とミスマッチが起こりやすいし、準備期間が短いということ、BKよりも馴染みやすいということで、HOでプレーすることになりました。サインによっては、WTBのように外にいる場合もあります。自分は周りの力を借りながら力を出すタイプなので、もう少し時間が必要だと思います。

―― 15人制と並行してセブンズをプレーするのではなく、選手はセブンズに専念すべきという意見もあるなか、山田選手がオリンピックで活躍できれば、両方をトップレベルでプレーできると証明できるのではないのでしょうか?

山田:そういったことを証明するためにプレーしているというよりは、自分のなかでは「2016年はリオデジャネイロオリンピックに専念する」、そこしか見えていませんね。

―― 2016年以降は2019年のワールドカップ、そして2020年の東京オリンピックも視野に入れているのでしょうか?

山田:2019年や2020年も意識しています。他のアスリートが野球やサッカーなどで海外挑戦しているなか、自分も世界で勝負できますし、世界と戦っている選手のほうがスタンダードは上がると思います。(年齢は30歳ですが)メンタル的には日本代表に選ばれたのが遅かったので、ラグビー人生は始まったばかり。まだまだこれからなので、1日1日、(レベルを)上げていきたいです。

―― 2013年に15人制で初キャップを獲得してから、山田選手のラグビーキャリアは上昇曲線を描いているように感じます。ワールドカップ、スーパーラグビーで実績を残したうえで、リオデジャネイロ五輪に出場することについて。

山田:オリンピックが頂点だとは思っていません。ラグビーキャリアが終わった後も人生は続きますので、オリンピックを経験してアスリートとして枠を広げていきたい。そのためのオリンピックだと思っています。そんな状況のなか、今はすごく充実していますよ。楽しいですね。ただ、一番失ってはいけないのは、「自分が成長するには何が必要か」ということだと思っています。

―― そういった意味ではオリンピック終了後の来シーズン、ふたたびサンウルブズ以外のスーパーラグビーチームに挑戦したい思いなのでしょうか?

山田:そうですね。よりレベルが高いチームに挑戦したい。スーパーラグビーだけでなく、ヨーロッパでもプレーしたいですね。(フランスのトゥーロンに移籍することが決まった)五郎丸歩は、スーパーラグビーよりヨーロッパのラグビーのほうが向いていると思いますね!

―― 山田選手はどちらが向いていますか?

山田:スーパーラグビーも、ヨーロッパも、どっちでもいけるんじゃないですかね? 同じラグビーですから(笑)。

―― 最後に、オリンピック出場に向けての抱負を聞かせてください。

山田:(オリンピックは)話に聞くのと、やるのは全然違いますので、今までの経験を大切にしたいですね。15人制も、セブンズも、トライを獲るスポーツという点では変わらないので、スキルや嗅覚は誰にも負けたくないですね!

 男子セブンズ日本代表チームは、6月16日から24日まで北海道・札幌で合宿を行なっている。山田は20日の練習中にふくらはぎを痛め、ひと足はやく合宿地を離れた。現在、日本代表候補は20名いるが、6月末に14人に絞る予定(オリンピックにはそのうち12人が試合に出場する)。果たして山田章仁は、これまで世界で戦ってきた経験と自信を武器に、リオデジャネイロで世界のラグビーファン、スポーツファンを魅了するようなプレーができるか――。


【profile】
山田章仁(やまだ・あきひと)
1985年7月26日生まれ、福岡県出身。5歳からラグビーを始め、小倉高校を経て慶應義塾大学に進学。大学時代は1年から試合に出場し、U19日本代表、U23日本代表にも選出される。2008年にホンダと契約し、2010年にパナソニックへ移籍。2013年11月のロシア戦で代表初キャップ。2015年のW杯・サモア戦ではウイングとして先発し、W杯初トライを挙げた。2016年はサンウルブズの一員としてプレーしたのち、7人制ラグビーのリオ五輪日本代表メンバー入りに挑戦。182cm・90kg。

斉藤健仁●取材・文 text by Saito Kenji