パリ・リヨン駅12時59分発TGV、ユーロ2016特別列車。サンテチエンヌで行われるイングランド対スロバキア戦を取材観戦するために、いまその車内に乗り込んだところだ。

 両軍サポーターが9割を占有するサッカー観戦列車。少しうるさいのが難点だが、雰囲気、旅情とも満点だ。

 ユーロは今回2016年大会から本大会出場枠が16から24に増大。開催期間も1ヶ月間に伸びた。94年W杯までと同等のスケールだ。拡大された中で行われているが、それに伴う弊害、すなわち散漫な印象はない。コンパクトさをいい感じで保っている。

 フランスという国の大きさとそれは深い関係がある。欧州にあってフランスは大国だが、国土面積は例えば、ブラジルほどではない。ロシアほどでも南アフリカほどでもない。コパアメリカ開催中のアメリカほどでもない。ロケーションも上々だ。欧州のド真ん中。日韓でもなければ、カタールでもない。辺地ではない本場欧州のド真ん中。最近のW杯開催国で匹敵するのは2006年ドイツぐらいだ。

 開催期間の1ヶ月間、現地に滞在し、各会場に足を運ぶ。旅は思いのほか快適だ。会場間のアクセスに優れているので移動をスムーズに行えるところがいい。寝不足になりながらもフランス国内を右往左往している。ほぼ毎日観戦できるところが、貧乏性の僕には何よりありがたい点だ。疲れるけれど快適。風邪気味で、お腹も緩めとは言え、サッカー好きには極楽気分。長いことこの職業を続けているのは、この快感を味わいたいためだと言っていい。

 この手の旅行を初めて経験したのは、まだ大学生の時だった82年スペインW杯。しかし当時、僕のようなお馬鹿なサッカーファンは思いのほか多くいた。少なくとも各種ツアーには、500人〜1000人程度、参加していた。日本が出場していないにもかかわらず、だ。

 日本人のW杯観戦者はその後も飛躍的に膨らんでいく。86年、90年、94年。そして日本が初出場を決めた98年フランス大会で、その数は爆発的に増大した。フランスを訪れた日本人観光客は10万人に達したと言われる。

 日本はその時、初戦でアルゼンチンと戦った。場所はトゥールーズ。TGVの始発駅であるパリ・モンパルナス駅の構内はその朝、おびただしい数の日本人で溢れそうになっていた。

 それから18年が経過した。僕がいまいるユーロの現場で、日本人の観戦観光客を見かけることはほとんどない。正確に言えば1人だけ。パリ・リヨン駅で、サンテチエンヌ行きのこのユーロ2016特別列車に乗車してきた日本人はメディア関係者以外ゼロだったと思う。

 今回のユーロ2016の観戦環境は、繰り返すが抜群だ。一週間その気になれば7試合観戦可能。世界のトップレベルの試合を短期間で効率よく、しかも本場の気分を味わいながら観戦する絶好の機会だ。

 2018年ロシア大会、2022年のカタール大会では堪能できそうもない味わいだ。ユーロも次回から集中大会ではなくなる。すなわちユーロ2016フランス大会は貴重な機会なのだ。

 この厳然とした事実に敏感になれている日本人は、かなり少ない。かつての熱はいったいどこへ行ってしまったのだろうか。

 テレビも放映権を持つWOWOWが、今回は現地ナマではなく、東京のスタジオで解説者と実況がモニター画面を見ながら音を入れるオフチューブで放送している。姿勢を従来から大きく後退させている。

 そして協会。フランス国籍を持っているハリルホジッチの姿こそ現地でたびたび見かけるが、日本人のスタッフの姿は確認できずにいる。今回に限った問題ではないが、貪欲に何かを吸収しようとする姿勢の低さ、その体制の脆弱さは大いに気になる。

 98年当時の熱気はどこへやら、だ。18年後、フランスを訪れて改めて痛感する。日本サッカー界の好ましくない傾向について。

 本大会出場国が16から24に増えたことで、日本に接近したレベルの国もそれに応じて増加。彼らが、強国に向かう姿はとても参考になる。日本人にとってのグループリーグ最大の見どころになるが、そうした視点は、東京にいてはおそらく湧いてこないと思う。

 パリ・リヨン駅を12時59分に発ったユーロ2016特別列車は、15時47分、定刻通りサンテチエンヌに到着。

 試合後は試合後で、ここからパリに戻る特別列車が何本か増発される。僕の列車は午前1時半発、パリ・リヨン駅到着は午前5時。パリのアパートで少し休んで夕方の列車でランスを目指す。ユーロ2016観戦取材旅行は、なかなか楽しいーーとあえて声を大にしていいたくなる。