写真提供:マイナビニュース

写真拡大

○AMDのCPU開発の歴史

さて、昨年3月から始めた私の連載記事は間断なく9カ月も続いたが、年明け以来、しばらく怠けていたらもう初夏になってしまった。編集部から、続きをというありがたいお話をいただいたので書き進めることとする。

ちょっと前にスターウォーズの最近作が久し振りにリリースされ話題になった。最新作を私自身は見ていないが、私が21歳であった1977年にリリースされた第1作を観た時には、本当にとんでもないものが出てきたなという新鮮な驚きを感じたのをよく覚えている。

聞けば、この第1作は実際にはエピソード4で、現在リリースされている最新作はエピソード7だそうだ。という事は、第1作のエピソード4公開から、5、6と続いた後、1、2、3が公開され、今回のエピソード7と言う順番になる。全体の構成的にはストーリーを時系列に綴るのではなく、第1作のエピソード4から始まる作品群の後にエピソード1、2、3がサンドイッチのように挟まれた形で挿入されているのが面白い。

私の連載もちょっと間が空いてしまったので、ここでAMDのCPU開発歴史と連載記事の順序を振り返ってみたい。この連載はK7(Athlon)から始めた、というのもK7が私の24年にわたるAMD社での経験で一番エキサイティングな製品であり、思い出深いイベントであったからだ。K7の話の後はAMDとインテルの確執の起源から始め、80286、386、486、K5、K6と続けたが、今回のシリーズで書くのはK8である。スターウォーズの壮大な物語(スペース・オデッセイ)に関係つけるのはあまりにもおこがましいと自分でも思うが、K7から始まった私の回想録も、時系列でストーリーを展開せずにいきなりK7から始まったという事で、図らずもスターウォーズのような構成になった。

ここでAMDの開発したCPUとその概要についておさらいしたい。

私のこれまでのAMD回想録は、K7からスタートし、386のリバースエンジニアリングの話に戻り、K5、K6までを綴ったものだ。今回お話したいのはK8である。いよいよ終盤にかかってきた。

上の表のビット幅という欄でお分かりのようにK8は32bitから64bitに進化している。K8の話に入る前に、ここで少しCPUのビット幅について簡単に述べる。

○CPUとビット幅

現在のCPU(コンピューター)のすべては2進法によって演算をしていて、1ビットが2進数の一桁を意味している。CPUが演算する時に一時に扱えるデータ、あるいはプログラムのビット数を"ビット幅"、あるいは"データパス幅"と言う。

よくメモリ容量でビットやバイトという言葉が出て混同されるが、ここで言うビット幅とは、どちらかと言うと高速道路の車線数のようなイメージである。車の速度はほぼ一定だとすると、道路の幅が広い(車線数が多い)ほうが一気に流れる交通量が多いのと同じように、ビット幅が広ければ広いほど(8ビット<16ビット<32ビット<64ビット)CPUの処理能力は高くなるといってよい。もっとも、高速道路との比較と違いCPUの場合は動作周波数も上がってゆくので、厳密に言えば個々の車の走る速度も上がっては行くが。

メモリの総容量の話になると、高速道路よりサッカー場のイメージのほうがぴったりくるだろう。サッカー場の座席数をイメージしてみよう。当たり前の話だが、サッカー場では座席数が大きければ大きいほど多くの観客を収容することができる。ただし実際のサッカー場の場合と半導体メモリが違うのは、サッカー場では物理的な座席のサイズは一定なので、座席数を増やそうとすれば、自然とサッカー場全体のサイズが大きくならざるを得ないが、半導体メモリでは、記憶素子数(座席数)が16ギガバイトから64ギガバイトに増えるのに、チップサイズ(サッカー場の大きさ)は変わらない。という事は、全体のサイズが変わらないサッカー場により多くの座席数を詰め込んだ状態である。これを可能とするのが半導体微細加工だ。

さて、CPU(コンピューター)のビット幅であるが、最初に固体半導体素子(1つのシリコンチップ)のCPUとして開発されたのはインテルの4004である。これはビット幅4ビットのCPUである。この4ビットのCPU4004は日本の電子計算機会社の要望で設計された。1970年のことである。それから50年弱の間にCPUは高速化し、小型化し、汎用化され今では我々の身の回りにあるスマートフォン、電子機器、白物家電など電気製品のほとんどすべてに制御用のCPUが使われている。既に4ビットのCPUはほとんどなくなってしまったといってよい。

用途別のCPUのビット幅は次のとおりである。

・8ビット・16ビット:一般的な家電製品(エアコン、洗濯機、電子レンジ、それらのリモコンなど)、および、自販機、券売機、工業用の組み込みシステムなど。
・32ビット:スマートフォン、セットトップボックス、ゲーム機器、薄型テレビ、デジタルカメラ、ネットワークシステムなど。
・64ビット:PC,高性能ゲーム機器、ネットワークサーバ、ワークステーション、高性能ルータ、スーパーコンピューターなどの大量データを高速で処理するものなど。

要するに、高い処理能力を要求されるコンピューターほど幅広のビット数を備えたCPUを要求されると考えてよい。もっとも、最近韓国人の囲碁プロ棋士(9段)を打ち負かして世界的ニュースとなったグーグルのシステム"アルファ碁"にはグーグルが独自にAI(人工知能)用に開発したCPU(グーグルはTPUと呼んでいる)が搭載されていて、それは8ビットの超並列コンピューターであるらしいという報道があった。コンピューター、CPU開発の最前線では今でも日進月歩の発達を遂げていて、筆者には想像もつかなないレベルに達してしまったようだが、ここではそのことは置いておこう。

(次回へ続く)

著者プロフィール
吉川明日論(よしかわあすろん)
1956年生まれ。いくつかの仕事を経た後、1986年AMD(Advanced Micro Device)日本支社入社。マーケティング、営業の仕事を経験。AMDでの経験は24年。その後も半導体業界で勤務したが、今年(2016年)還暦を迎え引退。現在はある大学に学士入学、人文科学の勉強にいそしむ。
・連載「巨人Intelに挑め!」記事一覧へ

(吉川明日論)