「トヨタよ、敗者のままでいいのか?」というキャッチフレーズとともに、今年のル・マン24時間耐久レースに挑むトヨタ・GAZOO(ガズー)レーシング。

 そのル・マン24時間が6月18日土曜日、現地時間午後3時(日本時間18日午後10時)にスタートを迎える。

 トヨタ、ポルシェ、アウディの3メーカーによる「究極のハイブリッド・レーシングカー開発競争」が繰り広げられている近年のル・マン。

 この伝統の一戦に「エンジン+電気モーター」のハイブリッド技術を持ち込んだパイオニアのトヨタだが、昨年はポルシェに表彰台独占を許しただけでなく、アウディ勢にも後塵を拝す惨敗を喫した。

 その雪辱戦となる今年のル・マンに、文字通り「背水の陣」で向かう覚悟が、冒頭のキャッチフレーズには込められているという。

 そのため、今年はパワートレイン(エンジン+電気モーターのハイブリッドシステム)を一新し、エンジンをこれまでの自然吸気3.5リッターV8から2.4リッターV6ターボへと変更。

 回生エネルギーを貯蔵するストレージにも、従来の蓄電装置である「スーパーキャパシタ」(電気二重層コンデンサ)に代えて高効率のリチウムイオン電池を採用する、まったく新しいハイブリッドシステムでライバルたちに立ち向かう。

 6月15、16の2日間にわたって行なわれた公式予選では、ポールポジションをポルシェの2号車(ロマン・デュマ、ニール・ジャニ、マルク・リーブ組)、2番手を同じくポルシェの1号車(ティモ・ベルンハルト、ブレンドン・ハートレー、マーク・ウェバー組)に奪われたものの、トヨタ勢は予選3位にトヨタ・TS050HYBRIDの6号車(マイク・コンウェイ、小林可夢偉、ステファン・サラザン組)、4番手に5号車(セバスチャン・ブエミ、アンソニー・デビッドソン、中嶋一貴組)とまずまずの結果だ。

 ラップタイム的にもポールタイムの3分19秒733に対してトヨタ4号車が3分20秒737、5号車は21秒903をマーク。この予選結果に「予選は重視せず、決勝レースに焦点を絞ってここまでのプログラムを進めてきましたが、それでもポルシェとの差は思ったより小さいなという印象です。去年はライバルとの戦闘力に明らかな差がある中で「それでも、仮にライバルたちに『何か起きれば』自分たちにチャンスがないわけじゃと思いながら戦っていましたが、今年は真正面から戦えると思います」と中嶋一貴。

 一方、予選を終えて「自分としてやるべきことはすべてやった。あとは運が味方してくれるだけ」と語るのは6号車に乗る小林可夢偉だ。

「このレースでは変に気負ってしまうのが一番よくないんです。プロのレーシングドライバーとして自分に与えられた仕事を着実にこなす......。それをチーム全体でやれて、そのうえに運が味方しなければ勝てないのがル・マンですから......」(可夢偉)

 2014年のル・マンでは日本人初のポールポジションを獲得し、これが5回目のル・マン挑戦となる中嶋一貴と、今年から新たにトヨタのドライバーラインナップに加わった小林可夢偉。ともに10代の頃からトヨタのドライバー育成プログラム(TDP)で育ち、F1での経験を持つふたりの日本人ドライバーの存在と、それぞれの個性は一新されたパワートレインとともに今年のトヨタにとって、大きな武器となりそうだ。

 特に新加入の可夢偉はエンジニアへの的確なフィードバックで今季のマシン開発に大きく貢献しているだけでなく、F1時代から定評のあった、「天性のスピード」を感じさせる走りを披露している。

「予選2回目、3回目のように雨の中の難しい状況でも一発で好タイムを叩き出し、それを安定して続けられる可夢偉の能力はずば抜けています」とトヨタTS050HYBRIDの村田久武開発リーダーも舌を巻く。

 そんなトヨタを迎え撃つのは今年、84回目を迎えたル・マン24時間で最多の通算17勝を誇る、ディフェンディングチャンピオンのポルシェと、そのポルシェに次ぐル・マン通算13勝のアウディという強力なライバルたち。

 ポルシェは昨年と同じ構成の「2リッターV4ターボ+最大8メガジュールのハイブリッドシステム」の進化版。フリー走行から予選を通じて大きなトラブルもなく、着々とプログラムを消化する姿は王者の余裕すら感じさせる。

 一方、予選5位、6位のアウディはトヨタ同様にシステムを一新し「4リッターV6の直噴ターボ・ディーゼル+6メガジュールのハイブリッドシステム」を採用(昨年は4メガジュール)。

 こちらもエネルギー・ストレージをリチウムイオン電池に変更し、車体も「まったくの新設計」と言っていいほど大幅な改良を加えるなど大きな戦闘力アップを実現している。

 トヨタを含めた3メーカーのマシンがいずれも、エンジンと電気モーターを合わせた総合出力で1000馬力近いパワーを発揮する「究極のハイブリッドカー」となり、予選結果を見る限り、3メーカーの実力差はこれまでにないほど接近していると言っていいだろう。

 ちなみに、昨年は3台体制だったポルシェとアウディも今年は体制を縮小し、トヨタと同じ2台のみのエントリーであり、体制面でのハンディキャップもなくなった。

 1996年のル・マン初参戦から今年で30年目を迎えながら、最高成績が過去4回の2位入賞に終わっているトヨタ。今度こそ表彰台の真ん中に立つ姿を見せることができるのか? そしてその時、歓喜の輪の中にいるのは一貴か、それとも可夢偉か?

川喜田研●取材・文 text by Kawakita Ken