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●治療者不足で症状が悪化し、死に至ってしまうケースも
摂食障害に苦しむ人やその家族をサポートすることなどを目的とした「日本摂食障害協会」の設立発表会がこのほど、東京都内で開催された。同発表会では、同協会の理事長である生野照子さんら有識者が登壇し、日本の摂食障害患者を取り巻く現状などについて講演した。

○国内の摂食障害患者は20万人を超えている可能性

摂食障害には、体重が異常に減る「拒食症」、いくら食べても満腹感が得られずに暴飲暴食や嘔吐(おうと)、下剤の乱用などを繰り返す「過食症」、そのほか中高年の男性に多い「過食性障害」の3種類があり、全世界で7,000万人に影響を及ぼしているとされている。日本での認知度も広まりつつあるが、正しい知識と理解の普及にはいたっていない。

大阪メンタルヘルス総合センターのセンター長も務める心療内科医の生野医師は「現在、日本国内には摂食障害を患っている人は2万人以上と言われてますが、実際には治療を受けていない、あるいは、治療を希望しても治療者不足で受けられない『潜在患者』を含めたら、約10倍の20万人を超えると言われています」と現状を説明する。

日本の若い女性は「やせ願望」が非常に強く、摂食障害の有病率は、摂食障害治療の先進国のアメリカやイギリスと並ぶ高さである。それにも関わらず、治療・支援体制の整備は欧米と比較して著しく遅れているという。

「日本は深刻な治療者不足で、数少ない病院や医師の元に全国から患者が殺到している状況です。現在も膨大な数の当事者とそのご家族が適切な治療を受けられないまま、症状が悪化し続け、最悪、死に至ってしまうケースもあります」とさしせまった状況を訴えた。

摂食障害は重度の栄養失調が原因で、患者の7〜10%が死に至る病気であり、精神疾患の中では最も高い致死率である。また、発育停止や骨粗しょう症、無月経、歯の損失、抑うつなどの症状をもたらし、学業や社会活動、対人関係が著しく阻害され、社会の中で孤立してゆくという。親子関係も悪化し、当事者の家族も悩み苦しむなか、周囲の理解とサポートが切実に求められている。

○摂食障害には環境面と遺伝面の要因

過度のダイエットが摂食障害のきっかけと思われがちだが、実際はそうでない。ミュゼプラチナムが1,000人の20〜30代の女性を対象に摂食障害について実施したアンケート調査の結果をもとに、東京女子医科大学病院 附属女性生涯健康センターに所属する臨床心理士・小原千郷さんは次のように語った。

「摂食障害の原因が、ダイエットや家族(母親)であると思いこんでいる人が20%近くいましたが、これらはきっかけの一つであり原因ではありません。実際には、生まれ持った遺伝的要因と、生まれ育った環境的要因の両方が大きく関与しています」。

「自分の育て方が原因」と自責の念に駆られる母親も非常に多いものの、治療において家族は患者のなによりのサポーターとなりうる。

摂食障害はストレスをはじめ、生物学的要因が影響しているため、本人の意志だけで治すのは難しい。それでも、早期発見、早期介入・治療による完治が可能となるだけに「独りで悩まずに一日も早く受診してほしい」と、摂食障害に苦しむ人たちに向けて呼びかけた。

●世界的な肥満率増加に逆行してやせていく20〜40代の日本人女性
次に政策研究大学院大学教授で内科医の鈴木眞理医師が登壇し、「食に関わる、現代の日本が抱える健康問題」について解説した。鈴木医師は、1987年から2007年までの20年間にわたる「やせと肥満の比率」の推移について、20代から70代までを対象に調査した結果、ある事実が判明したと解説した。

「世界的には、経済発展が進んで栄養が豊かになるつれて肥満率が高くなっています。その中で、なぜか日本人の20代から40代の女性だけ『やせ』が増加しています」。

「やせ」の母親の増加に伴い、その子どもも「やせ」となる傾向にあるという。鈴木医師は、特に小学生といった低年齢での「やせ願望」を問題視しており、中高生の時期に拒食症になる女子が非常に多いことが、学校ベースの調査報告からわかっているとした。

日本の13歳〜18歳女子の摂食障害の有病率は、摂食障害治療の先進国・イギリスとほぼ同じ数値だ。それにも関わらず、日本では学校の保健教育などでの摂食障害に対する知識の普及や、治療を促す啓発活動も著しく遅れているという。

○女性アスリートが陥る無月経

健康という観点から考えると、拒食症が骨に与える影響も深刻。拒食症患者の腰の骨のカルシウム量の数値を調査したところ、若い女性でも80歳の老人と同じ数値だったという報告もある。

特に問題が根深いのがスポーツ界で、若い女性アスリートが「体重が増えると記録が下がるのでは」という不安で食べられなくなるのは決して珍しいことではない。そんな状態でも記録を出すために過酷な練習や食事・体重制限に励んだ結果、摂取エネルギーよりも消費エネルギーが上回る「エネルギー不足」が主な要因で無月経になっているケースが多いという。

「無月経が続くと骨を強くする女性ホルモンが減り、疲労骨折や卵巣機能が低下するなど、不妊のリスクも高まります。女性アスリート自身が『無月経のほうが楽でいい』と深刻に受け止めない現状もあり、選手の健康よりも記録優先のスポーツ界の意識を変えていかなければ」と訴えた。

○今の日本に求められる支援体制とは

翻って、他国はどのように摂食障害という難題に立ち向かっているのだろうか。白梅学園大学教授で精神科医の西園マーハ文医師は、イギリスの段階的治療システムや支援体制について紹介した。

「イギリスでは精神科医をはじめ、看護師、栄養士、カウンセラー、ソーシャルワーカーなどのさまざまな職種が連携しあい、外来診察、相談、情報や資料の公開・提供、デイケア、家庭訪問治療、社会復帰支援などに対応し、より多くの当事者が地域生活の中でよい状態を保てるよう支援する体制になっています」。

入院治療の専門医療機関とは別に、摂食障害支援センターやレジデンシャルホーム、地域ケースにデイケアケース、入院ケースと幅広く対応する「摂食障害ユニット」などの中間施設があるという。このユニットは、イギリスでは多いところでは人口100万人に対して1つ、少ないところでも200万に1つある。仮に東京ならば、人口からして5〜6個は欲しいという。

治療者不足という深刻な危機に直面している日本では、一つの専門機関に患者が殺到し、その間に多数の「待機患者」が早期治療を受けられないまま症状が悪化していくという負のスパイラルに陥っている。これでは患者が増える一方で、病院側も対応しきれずに互いに"パンク"する恐れがある。

そんな現状を打破するため、マーハ文医師は「イギリスのように一般のかかりつけ医、家庭医が摂食障害治療のトレーニングを受けて、重症ではない患者を各地域で対応できるような役割分担、段階的治療システムが日本にも求められています」と結んだ。

(浅田薫子)