『好きにならずにいられない』 (C)Rasmus Videbæk

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【映画を聴く】『好きにならずにいられない』前編
ミュージシャン監督が描く
冴えない中年男の恋

このところ注目作が目白押しの北欧から、またひとつ愛すべき作品が届けられた。『好きにならずにいられない』は、シャイでオタクなデブだけど、ピュアで心根の優しい独身男、フーシの43歳にして初めての恋の行方を描いたオフビートなラブストーリー。

劇的な展開や涙を誘うような演出は皆無ながら、見終えた頃には誰もがこの大男のことを好きなってしまうような、魔法的な魅力が詰まった作品だ。フランシス・フォード・コッポラ監督やウーピー・ゴールドバーグも絶賛し、2015年の北欧映画ナンバー1を決める映画賞「第12回ノルディック映画賞」ほか、世界各国で栄誉ある賞を数々受賞している。

主人公のフーシを演じるのは、アイスランドを拠点とする“北欧のトトロ”ことグンナル・ヨンソン。監督はアイスランドとデンマークでこれまで5本の映画を発表しているダーグル・カウリ。かねてからヨンソン主演の映画を撮りたいと思っていたカウリ監督が脚本執筆中に偶然ヨンソンの出演するコメディ番組を見かけたことで、本作の話が具体的に進み始めたという。また、カウリ監督は映画制作の傍ら自身のユニット“SlowBlow(スロウブロウ)”を率いてミュージシャンとしても活動しており、本作のほか自身の映像作品の音楽のほとんどをこのユニットの名義で手がけている。

とはいえ本作には、いかにも映画音楽っぽいゴージャスなオーケストレーションの施された音楽があしらわれているわけではない。それに音楽が使われるシーンもかなり限られている。そのいっぽうで既成曲の使い方の気が利いていて、物語と密接にリンクしている。とりわけ有名なカントリー曲「Island in the Stream」が使われるシーンは印象的だ。

アイスランドの航空会社で乗客の荷物を運搬する仕事をしているフーシは、第二次世界大戦の有名な決戦をジオラマで再現することに一番の情熱を注いでいるが、いっぽうで若い頃にニルヴァーナのカート・コバーンの自殺に大きなショックを受けた音楽マニアでもあり、日頃はスラッシュメタルなどを爆音で聴いている。地元のラジオ番組に自分の好きな音楽を電話でリクエストすることが日々の楽しみのひとつだ。

ある日、不本意ながら通うことになったダンス教室で出会ったシェヴンという女性とデートすることになり、フーシはドライブのBGMに彼女の好きな「Island in the Stream」をリクエストする。いつもとはまるでタイプの違う選曲に、フーシに何かいいことがあったんじゃないかと勘ぐるDJ。そんなシーンを積み重ねながら、カウリ監督はフーシの高まる恋心をていねいに描いていく。

ちなみこの「Island in the Stream」という曲はカントリー・ミュージック界の大御所、ドリー・パートンとケニー・ロジャースが1983年にリリースしたデュエット曲で、カントリーとポップス両方のチャートで1位を獲得している。高揚感のあるメロディと希望に溢れた歌詞、2人の明朗な歌声は、この時のフーシの気持ちをうまく代弁しており、カウリ監督の音楽への造詣の深さが何気にうかがえる。(後編「音楽ファンが注目するアイスランド」に続く…)

【映画を聴く】後編/“北欧のトトロ”のピュアすぎる恋を描く『好きにならずにいられない』。さり気なく沁みる音楽も魅力

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