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●AWSだけでなくAzureやGCPへの対応も予定
ANSYSの日本法人であるアンシス・ジャパンが、Amazon Web Service(AWS)のクラウドを基盤としたエンジニアリングシミュレーション「ANSYS Enterprise Cloud」の国内提供を開始して約1年が過ぎた。ANSYSのVP Enterprise Solutions & Cloud(クラウド担当バイスプレジデント)であるレイ・ミルヘム(Ray Milhem)氏に話を聞く機会をいただいたので、これまでの1年の振り返り、そして将来に向けた同サービスの展望について、話を聞いた。

ANSYSがこれまで進めてきた従来のビジネスモデルは、顧客のエンジニアリング部門に向けて物理モデルシミュレーション製品を販売する、というものである。一方で、Enterprise Cloudはプラットフォームの提供であり、そこはITの運用管理などを担う情報システム部門が担当することとなる。そのため、単にツールを提供して終わり、というわけにはいかない。「ベンダのサポートやクラウドホスティングパートナーのサポートも行う。もちろんパブリッククラウドのプロバイダ各社もだ」(Milhem氏)とのことで、現状、AWSに向けた提供を開始しているが、今後、Microsoft Azureへの対応を進め、その後、Google Cloud Platform(GCP)にも対応を図っていく計画であるとする。

実際のEnterprise Cloudの利用イメージだが、最初に顧客にAWSのアカウントを開設してもらった後、数時間程度で専用のバーチャルプライベートクラウド(VPC)を構築。そこには仮想のデータセンター(バーチャルデータセンター)が設置され、その上で各種のシミュレーションツールを自由に活用してもらう、といったものとなる。こうした用途については、以下の4つのニーズが特に大きいという。

1. 完全に機能するHPCをクラウド上で構築してもらい、必要とするすべてのバッチ処理を実行してもらいたい
2. リモートでの3D可視化といったビジュアル化
3. 計算途中のシミュレーションデータまで含めたすべてのメタデータ、ファイルシステムを保管したい
4. 数百TBクラスのストレージを保持したい

「こうしたニーズをユーザーは意識しないで活用することができるようにしたのがVPCであり、アクセスするためのゲートウェイとなる。これにより、ユーザーはブラウザとPC環境さえあれば作業を行うことが可能となった」(同)ということで、現状、オンサイトで提供されているマルチフィジックス解析ソリューションなどもクラウド上でまったく同じように利用できる環境が整備されているとする。

●新たに従量課金型のライセンスモデルをスタート
気になるライセンス形態だが、「クラウドでシミュレーションを行う、ということ自体が新しいことなので、徐々に取り組みを拡大していくことが必要だと考えている。また、既存の我々のライセンスモデルもあり、ビジネスモデルが継続できなくなるようなことは避けたい」との見方であり、新たなモデルとして、時間あたり、もしくは使用した分量あたりで支払いを行う従量課金型の「Elastic Licensing」の提供を進めているという。

ただし、同ライセンスを活用することで、ユーザーは使いたい時、使いたいだけ、クラウド経由でシミュレーションを実施することができるようになる、とは簡単にいかない。「同ライセンスは12カ月契約のリースや、売り切りといった従来型ビジネスモデルを補完する形態」と同氏が表現するように、あくまで、これまで同社の各種ツールを活用してきた顧客企業が、繁忙期だけ追加でシミュレーションしたい、この作業のためだけにあの製品(シミュレーションツール)を購入したくない、といったニーズを補完する意味合いが強い。

もう少し詳細に説明すると、ユーザーは最初に「ANSYS Elastic Unit(AEU)」と呼ばれるユニットを15000AEUを1つの単位として購入してプールする(最大12カ月の利用期間設定がある)。AEUは、例えばプリ/ポスト処理では1時間あたり4AEUが消費されるといった具合に、作業に応じて消費する量が決まっており、プールの中から順次消費されていくといった流れとなる。もし、15000AEUを使い切ってしまった場合、新たに15000を1単位としてAEUを追加購入することとなる。また、こうした前払い方式以外に、本当にすべて利用を終えた後、使用したAEUの総量に基づいて支払う、といった後払い方式もあるが、AEUあたりの料金は前払い方式に比べて割高に設定されることになるという。

「このライセンス方式はもともと大規模顧客を対象としたスキームであり、すでに活用してもらっている顧客からは、後1000AEUだけ欲しい、といった細かいリクエストは出てきていない。今後、中小規模の企業などからそうしたリクエストが出てくれば、対応を検討していく」(同)、ということで、現時点では、これまで価格などを要因として、導入を躊躇してきた企業がクラウド化したことだし、試しに使ってみよう、といったことはまだまだ先の話になるようだ。

ただし、同氏としても、「すべてをクラウド上で実現可能なシミュレーション環境環境を構築したい、といった顧客が来たら、それにマッチした対応を進めたい」と市場のニーズ次第ながら、柔軟に対応を図っていくとしており、決して、現状のライセンス形態のまま続けていく、というわけではないようだ。

なお、同ライセンスの提供については、北米にて特定のクラウドホスティングサービス上にてすでに始まっているほか、Enterprise Cloud上での提供を6月末から7月頭にかけて開始、第4四半期までにはオンプレミスでの提供も進めて行きたいとしているが、日本での提供についてはまだ検討を重ねていく段階とのことで、しばらく待つことになりそうである。

(小林行雄)