キリンカップでA代表初招集を受けた大島は、リオ五輪代表でも主力を張るボランチだ。写真:小倉直樹(サッカーダイジェスト写真部)

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 不言実行は、いかにも大島僚太らしい。6月のキリンカップで日本代表に初選出されると、クラブを通じて「最初に聞いた時は驚きました」とコメント。言動は控え目で、大言を吐かないタイプだが、それでいて胸の内では密かに大志を抱いていた。
 
「1月のリオ五輪アジア最終予選が終わった後、もっと上でプレーしたいという気持ちが芽生え、今シーズンが始まる時に、『今年中に日本代表に入る』という目標を立てた」
 
 世代別代表の常連で、リオ五輪を控えるU-23代表でも主力を担うだけに、その実力は折り紙つきだ。

 ヴァイッド・ハリルホジッチ監督が「パス技術、パススピード、ビジョンが素晴らしい」と称賛したように、川崎の中盤でタクトを振るい、リーグ屈指の攻撃を支える。足もとの技術はチーム指折りで、中村憲剛が「自分が僚太と同じ年齢の時より、はるかに上手い」と認めるほどだ。
 
 プロ1年目からコンスタントに出場を重ねて攻撃センスを発揮した一方、球際の守備は長年の課題だった。
 
 しかし、今季は目に見えて守備意識が改善。11節の柏戦では、クロスのこぼれ球に素早く寄せて、顔からシュートブロックに飛び込んだ。ファウル覚悟で激しく潰しにかかる場面が格段に増え、競り合いでの粘り強さも向上。ハリルホジッチ監督も「ボールを奪う部分で、アグレッシブさが出るか見ていた。そこが伸びていた」と初招集の理由を明かす。
 
 今季、秘めた闘志に火をつけるある出来事が起きた。6節の鳥栖戦、大島は2ボランチの一角で先発するも、チームは開始20分頃にシステムを変更。トップ下の中村をボランチに下げた関係で、大島は玉突きのように右サイドハーフに回され、さらに41分で交代を命じられた。
 
 早々に主戦場から外されたうえ、前半での交代劇。右足首の負傷明けという弁解の余地はあったが、今季からクラブで日本人初の10番を背負う若武者は「上手くいかなかった」と声を絞り出し、肩を落とした。
 
 中村は「悔しい想いをして火がつくだろうね」と心情を慮おもんばかりつつ、あえて手厳しい要求を出している。
 
「僚太の課題は、(ボランチの)相方が誰であろうと、状況をコントロールすること。良くも悪くも、自分のリズムでプレーするから、良い時はハマるけど、悪い時は引っかかってしまう。そういうことを考えるきっかけになればいい」
 その効果はすぐに結果となって現われる。10節の仙台戦では、敵が嫌がるコースに縦パスを入れ続け、後半には状況を見極めてエリア内に侵入。12年9月の鹿島戦以来、リーグ戦で4年ぶりのゴールを叩き込んだ。

 中村は「ああいうプレーをどんどんしてほしい。僚太が高い位置に来た時、やっぱり面白いことが起きる」と、今後への期待を膨らませた。
 
 もっとも試合は引き分けに終わり、本人の口からはゴールの喜びよりも、反省の言葉ばかりがこぼれた。
 
「上手く押し込めなかった。どこから効果的に攻撃するか決めないといけないし、まだまだ課題は多い」
 
 試合後、奇しくも川崎の風間八宏監督は大島をはじめ若手に向けて苦言を呈したが、それは狠翅爾鯆兇┐〞というメッセージでもあった。
 
「グラウンドに立った瞬間、中心は自分だと考えるぐらいでないと。その刺激は監督から与えられない。自分の欲求を高めて、自分に期待し、自信を持ってもらうしかない」
 
 周囲が親身になって成長を見守るなか、念願の代表にまで駆け上がり、大島はひとつの確信を得る。「やってきたことは間違っていなかった」と。
 
 代表初選出は、あくまでスタート地点にすぎない。その一方で、大島の内部で新たな感情が芽生えつつある。それは、風間監督が言う猴澣瓩旅發泙〞となって形を成す。
「ここで終わりではないし、代表に定着できるように頑張りたい」
 
 不言実行から有言実行へ――。ポスト中村と将来を嘱望された男が今、ひとつの殻を破ろうとしている。
 
取材・文:大木 勇(本誌編集部)