「ラヴソング」(フジテレビ 月曜 よる9時〜/6月13日終了)
脚本:倉光泰子  演出:西谷弘

「僕のヤバイ妻」(フジテレビ 火曜 よる10時〜/6月14日終了)
脚本:黒岩勉  演出:三宅喜重 国本雅広

今週は4月期連ドラの最終回ラッシュ。
月9史上最低視聴率(全話平均視聴率も)をとるという不名誉な伝説となった「ラヴソング」、パクリ疑惑がもちあがるというこれまた不名誉な話題で関心を高めた「僕のヤバイ妻」が続々終了。
簡単にまとめると、「ラヴソング」はびっくり展開もびっくり展開、「僕のヤバイ妻」はびっくりもあったが、おおかた予想どおりの安定感で、視聴率10.2%と同番組初の10%台で優秀の美を飾った。


度肝を抜かれた「ラヴソング」


「ラブソング」は、元はバンドをやっていて今は臨床心理士をしているさすらいの中年・広平(福山雅治)が、27歳下の吃音の女性・さくら(藤原さくら)と出会って、彼女の歌の才能に惹かれていく物語。
さくらは広平を好きになるが、男は音楽を通してしか見てくれない。悩むうち、喉に病が見つかって大事な声を失うかもしれないという深刻展開に。
さくらの声と恋がどうなるか気になる最終回は、いい感じにはじまった。

声をなくしてしまうかもしれないさくらは、その前に言っておきたい言葉をギターに乗せて弾き語る。
それは「おかえり」「ただいま」など何気ない日常の言葉のやりとり。
抜けのいい湖を背景に、ミュージシャンである福山雅治と藤原さくらが向き合って、語るように歌うのを、カメラがなめらかに撮影。この場面と歌を聞いていたら、そもそも、福山は臨床心理士設定の意味があったのかとか、吃音と喉の病気と二重苦にするよりは、奇跡の歌声をもった女がのちのち病気で声を失うかもしれなくなるという展開でも良かったのではないかとか、そんな“余計なお世話の小姑ダメ出し”を忘れてしまいそうなほど、いい場面であった。

これをラストシーンにしたら良かったんじゃないかと言うと実も蓋もない。良かったところはまだあるのだ。
さくらが手術して安静状態の時(出た、連ドラあるある、終盤の病院シーン!)、広平が青春時代やっていたバンド仲間と、ヒロインの持ち歌を演奏するのだが、そこで歌うのは、さくらに片思いしている青年・空一(菅田将暉)だ。さくらに代わり、彼女の大事にしている歌を情熱的に歌うその姿には、いろいろな感情を呼び起こす力があった。
結局、手術に成功するも、さくらは広平への恋心を断ち切るために姿を消してしまう。
そして2年後。音楽業界に返り咲いている広平は、あることがきっかけでさくらの行方を知ることになる。
はたして、広平とさくらの結末は・・・

今までの月9だと、ハッピーエンドなら「ロングバケーション」や「やまとなでしこ」、アンハッピーエンドなら「東京ラブストーリー」など、泣いたり笑ったり主題歌がかかったりとにかくハデに盛り上がった。ところが今回は・・・突然、是枝裕和映画みたいに淡々としたリアリティーを取り入れてみました、というような描写。
主題歌は使うが、画面に歌がかぶさっていくいつのもパターンではなく、ヒロインが歌っているパターン。そして、なにより、ハッピーエンドなのかアンハッピーエンドなのか想像にお任せみたいな感じに。月9としてはチャレンジだ。
菅田将暉演じる空一は年上のおねえさま(山口紗弥加)に「諦めない」ことを諭され、福山雅治演じる広平も仲間の夏希(水野美紀)に「音楽さえ続けていれば届くかもしれない」と励まされる。
いろいろあった後、福山雅治の最後の台詞は、これだ。
「(さくらは)まだ歌ってるんだよ 引退なんかしてない 現役なんだ」

なんという含蓄。
ドラマがはじまった時、さんざん、おっさんになったと言われたことへの抵抗にも思えるし、ダメになったと言われているフジテレビの気合いの表れにも思えるし、大きく言えば、世の中の諦めたくない人たちへのエールではある。
とはいえ、唐突過ぎて、新人アーティスト藤原さくらの楽曲プロモーションに事務所の先輩・福山雅治が協力したというイメージを拭いさることはできなかった。

やっぱり、臨床心理士設定とかモテ男描写とかいいから、もっと福山が傷だらけ泥だらけになって、さくらと音楽と格闘してほしかったけれど、先に終了した「奇跡の人」(NHK BSプレミアム)とかぶってしまいそうなのがネックになったのだろうか。奇しくも、この4月期に、ロックに挫折した中年と声の出ない少女の物語が2本あったのだ。なんでそんなことに。
残念ながらかぶっちゃって困っちゃったかもしれないという見方をしたとしても、きらり光るいい台詞が時折書ければいい、ともよく聞く話だとしても、制作の責任者はそれを生かす構成力と軸をもつことを疎かにし過ぎじゃなかろうか。
その点、「僕のヤバイ妻」は、がちゃがちゃいろんなネタをてんこもりに、周囲をなぎ倒すように猛スピードで駆け抜けながらも、軸がぶれず、最後、きれいに着地した。

「僕のヤバイ妻」は、結婚6年目、夫(伊藤英明)が浮気相手と共謀して妻(木村佳乃)の殺人を計画。妻も受けて立ち、夫婦の殺し合いがはじまる。やがてそれはたくさんの人を巻き込んで、身代金2億円の争奪戦に発展していくストーリー。後半、隣人夫妻(キムラ緑子、高橋一生)がぐいぐい攻めてきて、ヤバイ妻、ヤバイ夫、ヤバイ夫婦の王座争奪戦の様相を呈して行く。
隣人夫妻が木村佳乃を誘拐、それによって夫婦の仲が戻るかと思いきやーー。
莫大な誘拐保険の話が出て来た時の伊藤英明の顔の変化なんて最高に面白い。伊藤英明のおバカさ、木村佳乃の潔癖さ、キムラ緑子と高橋一生のコワさが期待を裏切らない。開き直ったバラエティー感覚のエピソードを書き続ける脚本家、それを最後まで全力でキレッキレに演じ続ける俳優たち。彼らのほうが、言葉にしないけど、諦めてない感じがしたのは、制作が「ラヴソング」はフジテレビ本体、「僕のヤバイ妻」は関西テレビであることの差なのか。

フジテレビの月9という伝統というやっかいな重たさから解き放たれたドラマはもう生まれないのだろうか。
(木俣冬)