2016年6月15日
TEXT:ソシオメディア株式会社

ユーザーエクスペリエンス(UX)のコンサルティングを行うソシオメディアは、2016年5月27日に「UX戦略フォーラム 2016 Spring」を開催した。

今回のテーマは「イノベーション組織の推進」。米GE(ゼネラル・エレクトリック)のデジタル戦略を包括するGEデジタルでCXO(チーフ・エクスペリエンス・オフィサー)を務めるグレッグ・ペトロフ氏をキーノートスピーカーに迎え、国内外でUX推進のリーダー役を担う登壇者6名が組織的なUX戦略のあり方を議論。2014年に始まった同フォーラムシリーズ「UXの最新動向とUX戦略の実践」、「メトリクスの基本と応用」、「イノベーションのためのUXマネジメント」「メソッドの基盤」、「メトリクスの探求」に続く6回目として、組織的なUX推進活動全体を広くカバーする内容を扱った。

「GEにおけるイノベーションのためのUX組織戦略」グレッグ・ペトロフ氏


グレッグ・ペトロフ氏

GEグループ全体のUX戦略を推進するグレッグ・ペトロフ氏はキーノートスピーチのなかで、自社におけるUXを「人と製品やサービスの接点を作り出し、役に立ち、楽しい経験を提供するもの」と定義。組織的にUXデザインを実践することで、消費者が使いたくなるような製品を創出できるだけでなく、開発チームの生産効率も向上し、結果として企業利益にもつながると提起した。

ペトロフ氏はGEにおける推進活動のひとつとして、経営層を相手に「数字で」UXの価値を提示する取り組みを紹介。また、デザインシンキングの考え方に沿って「ビジネスモデル」「プラットフォーム」「UX」のバランスを保つアプローチの重要性に触れ、共同ワークショップなどを通じて部門横断的なUXデザイン啓蒙を進めた経緯を述べた。

「管理を超えた信頼の選択 - 不確実性の時代におけるリーダーシップスキルとは」ハナ・デュ・プレシ氏

「デザインとソーシャルイノベーション」をテーマにFit Associates 社の代表として活動するハナ・デュ・プレシ氏は、講演の冒頭で「組織にイノベーションをもたらすには "個人のなかにあるカルチャー" に着目する必要がある」と強調した。組織内で何かを恐れている人や不安・不満を持っている人、独自の価値観に縛られている人などの考えも受け入れることから始め、彼らと対話し、相互に影響しあう関係を築くなかでチームの安定がもたらされると説明。会話を通じた有機的なプロセスを経ることがイノベーティブな組織の実現につながると解説。

「UXの組織への浸透の取り組み 〜日立の実践事例〜」的池玲子氏

日立製作所でUX向上活動を実践する的池玲子氏は、自社におけるUX推進の観点として「プロダクト・ソリューションのUX向上」「バリューチェーン強化」「環境整備」の3つを提唱していることを説明した。また、UXの考え方を組織に浸透させるため、構想から実践に至るまで約3年をかけた一連の取り組みを解説。UXの浸透を阻害する多数の要因を分析・整理するために用いた社内観察の手法事例を具体的に示したほか、最終的にマネジメント層が自らUXへの取り組みを宣言し、開発者の意識に変化をもたらすまでの経緯を話した。

「NECのUX推進のための組織マネジメント」河野泉氏

NECでプロダクトやサービスのUX向上推進をおこなう河野泉氏は、同社のデザイン推進プロジェクトについて、組織マネジメントの観点から説明した。同プロジェクトでは、初期段階で「認識」「実践」という2種類の軸で課題を整理。社内のさまざまな立場の人に"共通認識"を与える施策を検討したとする。また、デザイン推進活動の効果測定について、実際に用いた多数の分析項目を具体的に提示しながら説明。これらの取り組みを社内教育プログラムや組織体制整備にも反映することで、社内にUX実践のサイクルを定着させた流れを解説した。

「UXの備えあれば『イノベーションのジレンマ』なし」平山智史氏

ソニーでUI改善やユーザビリティ向上活動を推進する平山智史氏は、自身のミッションについて「統一感をコーポレート単位で保つこと」であると言及。社内教育の観点を重視するUX戦略の事例をについて、製品やサービスのUX向上を「バリュープロポジション・キャンバス(価値提案キャンバス)」を使って「リーチ(顧客の需要にこたえること)」と「マッチ(顧客のコンテキストに沿うこと)」の関係性とともに解説。また、個性と統一感のバランスの問題をはじめ、実際に同社が遭遇した課題やジレンマのとらえ方とともに、それらの解決方策を説明した。

「UXカンバセーションの変革:組織的なUXリーダーシップは対話力にあり」マーク・レティグ氏

Fit Associates 社の創設者としてハナ・デュ・プレシ氏とともに広く活動をおこなうマーク・レティグ氏は、組織やコミュニティに意識の変化をもたらすことの難しさや「組織が本当に変わるためには、どのような意思決定が必要か」というテーマでスピーチを展開した。レティグ氏は、最初に組織が設定する問題(命題)が重要であると強調。例えば「どのような製品を作ればよいか」ではなく、「その製品はそもそも必要か」という根本的な問いを組織内でオープンに議論することでブレークスルーの瞬間が訪れ、ひとつのチームとしての創造的な活動につながると説明した。

パーティ 〜 対談「インダストリアル・インターネットの中核にUXあり - GEのCXOに聞くイノベーションのためのUX組織 - 」グレッグ・ペトロフ氏 × 篠原稔和

フォーラム後のパーティでは、当日のスピーカーと来場者の歓談の機会が提供され、来場者それぞれが抱える疑問や課題などについて積極的な意見交換が行われた。
また、キーノートスピーチを行ったグレッグ・ペトロフ氏とソシオメディア代表・篠原稔和によるトークセッションが設けられ、ペトロフ氏がGE社を包括する役職「CXO(チーフ・エクスペリエンス・オフィサー)」に至った経緯やその後直面した課題などについて、リラックスムードながらも深く突っ込んだ会話を展開。リーンスタートアップ手法を応用したGE版経営ツール「ファストワークス(FastWorks)」導入による用いた組織的な製品開発戦略や自身のミッション、産業界全体の動向などにも広く言及したほか、来場者からの質問を起点とした議論も広くおこなわれた。


グレッグ・ペトロフ氏と篠原稔和によるトークセッションの様子

関連情報:
・UXSFについて https://www.sociomedia.co.jp/uxsf

[筆者プロフィール]
ソシオメディア株式会社●2001年に設立されたUXデザイン・コンサルティングファーム。ユーザーインターフェース・デザインやデザイン・リサーチ、コンセプト・デザインを専門とする。同時に、企業組織やチームへのコンサルティング活動やITスタートアップにおけるリーンアプローチの経験などを活かし、ITとエクスペリエンスデザインに関わる包括的な専門性を用いながら、企業のイノベーションに向けた「UX戦略コンサルティング」の諸活動に注力している。
URL:https://www.sociomedia.co.jp/