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日立製作所(日立)、住商ファーマインターナショナル(住商ファーマ)、および住友商事は6月14日、尿中の代謝物を網羅的に解析することにより、健常者、乳がん患者および大腸がん患者の尿検体を識別する基礎技術の開発に成功したと発表した。

○尿でがん検診ができれば医療費の低減につながる

現在のがん検査は、医療機関での実施が必須であり、さらに部位ごとに異なる検査を行わなければならないなど、受診者に対して高い負担が強いられている。また、日立製作所 研究開発グループ 基礎研究センター 坂入実氏は「日本では、社会保障費の増大が問題になっているが、がん疾患の場合、医療費のような直接的な費用だけでなく、労働価値といった間接的な損失も非常に大きくなっている」とがんを取り巻く日本の現状について説明する。

このような背景のもと、日立製作所はがんを早期に発見し治療を受けられる社会システムを確立することで、医療費の低減を図るべく、2012年より尿を用いた新しいがん検査法の基礎研究に着手。2015年に日本医療研究開発機構(AMED)の「産学連携医療イノベーション創出プログラム」に採択され、住商ファーマインターナショナルとともに検査法の開発を進めてきた。

体外でのがん診断は、血液を用いて行うのが現在の主流だ。血液中の糖やタンパク質などの各種腫瘍マーカーをはじめ、マイクロRNAやアミノ酸濃度のバランスを調べるなど、いくつの方法が研究されているが、いずれにしても数cc程度の血液が必要となる。尿を用いた検査であれば、簡便であり、自宅での検体採取も可能となるため、受診者への身体的・精神的な負担が低減され、がん検診受診率の飛躍的な向上、ひいては医療費の低減が期待できるだろう。

○数百種の代謝物ががん患者で増加/減少していた

尿は血液中の老廃物(代謝物)を体外に排出するという役割を持っている。代謝物は栄養素を利用した際に発生する低分子物質で、その生体内における存在量は、健康状態により変動することが知られている。たとえば尿中のグルコースが多ければ糖尿病、尿酸であれば痛風、といったように、病気の診断に尿が用いられていることは読者のみなさんもご存知だろう。これらは尿の代謝物である。そこで、日立と住商ファーマが考えたのは、尿の代謝物中からがんの有無、種類を識別するという戦略だ。

日立と住商ファーマはまず、健常者、乳がん患者、大腸がん患者の市販の尿検体各15検体を対象に、液体クロマトグラフ/質量分析計による4つの手法を組み合わせた尿代謝物の網羅的な解析を行った。代謝物の水溶性や脂溶性の違いに着目して測定条件を最適化することで、それぞれの尿検体から1325種の代謝物を検出。さらに検出されたピークをデータベースと照合することで、代謝物名やその量を特定し、がん患者の尿で増減する代謝物をバイオマーカーとしてリストアップした。

この結果、数百種の代謝物が、乳がん、大腸がんで健常者と比べて増加または減少していることが明らかになった。これらの代謝物を代謝パスウェイ解析により一つひとつ精査することで、数百種のうちの多くが、がんの分子メカニズムと関連した代謝物変動であると確認されている。そしてこれらの候補代謝物の貢献度を精査し、重要なバイオマーカー候補をさらに10種程度に絞り込み、主成分解析を行うことで、健常者、乳がん患者、大腸がん患者それぞれの尿検体の識別に成功した。

坂入氏によると、「バイオマーカー数を減らした場合(5〜10種程度)は、乳がんと大腸がんの区別がつかなくなってしまうが、健常者とがん患者を区別することはできる」とのことで、将来的にはまず、がんかどうかを判別する第1のフェーズと、がん種を詳細に解析する第2のフェーズというように、2段階での検査を検討しているところだという。

坂入氏は今回の成果について、「尿で、いつでも、どこでも、簡単に、がん種別まで検査できる可能性が検討できた。また、受診者の尿検体を検査機関に送ることで、検査・受診を可能とする新しいスタイルができてくることが考えられる。これにより、がん検診の受診機会の増大に貢献し、医療費の低減につなげていきたい」とコメントしている。

今後は、がん患者および健常者の臨床データの収集・解析を進め、実用化に向けて研究を進めていく考えだ。

(周藤瞳美)