ロンドン五輪で女子が団体・銀メダルを獲得したのに対し、男子は準々決勝で敗退し、メダルにあと一歩届かなかった。石川佳純や福原愛らの活躍で卓球人気が高まるなか、男子の巻き返しはあるのか。日本人初のプロ選手となり、ドイツのブンデスリーガでもプレーした松下浩二氏に話を聞いた。

◆日本人初のプロ選手・松下浩二が語る「リオ五輪戦士」@男子編

 男子はロンドン五輪でメダルを有力視されながら、シングルス・団体ともに獲得はなりませんでした。しかし、リオデジャネイロ五輪は日本に追い風が吹いています。ライバルだったドイツはエースのドミトリ・オフチャロフが故障を抱え、状態面は今ひとつ。しかも今年3月、世界選手権で日本は39年ぶりの団体・銀メダルを獲得しています。いい流れでリオ五輪を迎えることができるので、団体ではかなりいい色のメダルを狙えるのではないでしょうか。

 今回のリオ五輪で、もっとも心に期するものがあるのは、エースの水谷隼選手でしょう。ロンドン五輪の水谷選手は、シングルス4回戦で敗退。団体でも準々決勝で敗れ、メダルに届きませんでした。あれから4年――。水谷選手はロンドン五輪のときと比べて、安定感が増しています。苦手な選手が少なく、世界ランキングも高いので、リオ五輪では第3シードか第4シードをもらえる可能性が高い。普通に考えれば、準決勝で中国人選手に当たるまでは負けないはず。今回のシングルスでは、かなりの高確率でメダルを手にできると思います。

 唯一の懸念材料としては、彼が負けるときのパターンに陥らないこと。誰もが「勝ちたい」と必死になるのが、五輪です。たとえ格下の選手であっても、想像以上に好調だったり、勢いがある場合は多々あります。そんなときに動揺し、「こんなはずじゃなかった」と思っていると、立て直す間もなく押し切られてしまいます。水谷選手が敗れる場合、そういったケースが非常に多い。ですから、想定外の展開になったとしても受け身にならず、どう気持ちを切り替えるか、どう戦術を変更するかを、あらかじめ準備しておけるかがポイントになるのではないでしょうか。

 私は正直、水谷選手は世界チャンピオンになっていいポテンシャルを持っていると思っています。その才能を開花しきれていないもどかしさがありますが、それは水谷選手本人というより、周囲の環境作りの面で中国に水をあけられている結果だと思っています。現に水谷選手は、ジュニア時代には負けなかった中国人選手に追い抜かれているのですから。

 中国がなぜ50年間も世界の頂点で居続けられるのか? それは、競技人口の多さはもちろんですが、それだけが理由だとは決して思いません。中国は、今日までに120〜130人もの世界チャンピオンを輩出していますが、それはつまり、素材として突出していなくとも、世界の頂点に育て上げるシステムやノウハウを持っていると考えたほうが自然ではないでしょうか。

 とにかく新しい技術、スタイル、用具を考え、常に他国より一歩リードしてきたのが中国です。ライバル国がマネして追いついてきたときには、また一歩先の何かを見つけています。つまり、そこまで真剣だということ。「勝てたらいいな」というレベルではなく、「絶対に勝つ!」という信念のもとに選手を育てているからです。

 中国の上に行くには、最低でも彼らと同じ目標、考え方、決意を持たなければ難しいでしょう。中国以外からも世界チャンピオンを生み出すことが可能であることを証明するためにも、水谷選手にはぜひ、リオ五輪で結果を残してほしいです。

 五輪2度目の出場となる丹羽孝希(にわ・こうき)選手は、私が社長を務めるヤマト卓球とスポンサー契約をさせていただいているので、話をする機会も多いプレーヤーです。

 丹羽選手をひと言で言えば、安定感はないが(笑)、サプライズのある選手。掴みどころがない選手で、格下にコロッと負けたかと思えば、強豪の中国人選手を倒したりもします。ハマれば水谷選手が勝てなかった選手にも勝つ可能性があるので、リオ五輪でダークホースとなる可能性は十分にあるでしょう。

 台に近いところで速い卓球をするスタイルなので、何よりも大事なのはタイミング。相手に合わせず、常に自分のタイミングで卓球をできるかが、勝負の分かれ目です。いうならば、自分勝手な卓球を貫けるかどうかです。

 また、ご存じの方も多いかもしれませんが、彼は感情をあまり表に出さない珍しいタイプの選手です。ある意味、クールというか、何も考えていないようにも見えます。先ほど言ったように、負けるときは簡単に負ける。それでいて、悔しそうな顔ひとつせず、相手選手と握手して無表情のままスタスタと帰ってくる。すると翌日、ウチの会社には、「もっと声を出すべき!」「最後まであきらめないでプレーすべき!」と苦情の電話がくるんです(笑)。

 もちろん、彼はやる気はありますし、勝ちたい気持ちもあります。ああ見えて、まだまだ若い(21歳)こともあり、批判を受けると、「もう少し変えたほうがいいんでしょうか......」と悩み、私に相談してきたこともありました。しかし僕は、「君は君だよ。あんまり考えないほうがいい」と言っています。だって、自分のスタイルを変えて試合に負けたとして、それで「頑張ったね!」と言われても、気持ちは晴れませんよね。

 勝負の世界ですから、勝つことがすべて――。何を言われても、勝てばいい。極端な話、やる気なんてなくても勝てばいいんです。何が一番大事かというと、「自分が勝つ方向を向いているかどうか」ということ。声を出して勝てるなら出せばいいし、出さないほうがいいパフォーマンスを発揮できるなら出さなくていい。彼には彼のやり方がある。

 ただし、もちろん負けたときはその分、批判を受けるのはしょうがない。彼には、「空港で生卵をぶつけられるくらいの覚悟を持たないと」と伝えてあります(笑)。僕も現役時代、感情を出さないポーカーフェイスの選手のほうが何を考えているのか読めず、やりにくかったものです。彼は彼のスタイルのまま、ぜひリオ五輪で大物食いをしてほしいと思います。

 自分のプレーができるか――ということが大事なのは、五輪初出場となる吉村真晴選手も同じです。彼は世界選手権の銀メダルメンバーではありますが、世界選手権と五輪では雰囲気がまるで違います。選手村で有名選手に遭遇したりすると、どうしても舞い上がってしまいがち。普段どおりの卓球ができるかが、ポイントになるでしょう。

 彼は超攻撃型で知られ、世界トップクラスの選手も手を焼くサーブが武器です。ハマったときの試合は、本当に強い。丹羽選手と同じく大物食いの可能性を秘めています。それでいて最近は安定感も向上し、コンスタントに成績を残せるようになっているので、リオ五輪はもちろん、今後も非常に楽しみな選手です。

 男子も女子と同様に、個人と団体、両方でメダルが獲れる可能性は十分にあると思っています。私たちの時代は、五輪に出ては負け、出ては負けの連続でした。やっているほうも、見ているほうも楽しくなかったはずです。しかし今は、メダルを獲ってもおかしくないレベルの選手が複数います。見ている人はもちろん、選手自身もプレッシャーはあれども、やりがいのある時代なのではないでしょうか。

 最後に、リオ五輪に出場する6人の選手へメッセージを送りたいと思います。これだけ、「メダル、メダル」と言った後で申し訳ないのですが、メダルや勝利にこだわるのではなく、自分のベストパフォーマンスを発揮すること、いつもの自分を出すことに集中してほしいと願います。そうすれば、リオ五輪に出場する6人の選手のレベルであれば、結果は自ずとついてくるはずですから。


【profile】
松下浩二(まつした・こうじ)
1967年8月28日生まれ、愛知県出身。1993年、日本人初のプロ卓球選手となり、全日本選手権シングルス4度優勝。スウェーデン、ドイツ、フランスの欧州3大リーグでプレーし、2009年に現役を引退。オリンピック4度出場(1992年〜2004年)。シェークハンドのカット主戦型。現在は卓球用品総合メーカー「ヤマト」の代表取締役社長を務めるかたわら、卓球の発展のためにさまざまな活動をしている。

水野光博●構成 text by Mizuno Mitsuhiro