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今回のテーマは「クラウド」だ。クラウドとは、ファイナルファンタジーVIIの主人公のことである。

これを、単なる冒頭の小ボケと思ったら大間違いだ。私にとってクラウドと言ったらこのクラウドしかいない。もし他にも存在すると言われたら、全員抹殺するぐらいの気持ちで言っている。覚悟が違うのだ。

ファイナルファンタジーVII(以下FFVII)、歴代FFシリーズのみならず、RPGジャンルにおいて、ひいては当時のゲーム業界にも革命を起こしたといえる作品であろう。前作までシリーズ通して幻想的な作風のキャラクターデザインを手がけた天野喜孝氏をイメージイラスト担当として続投させつつも、よりポップな絵柄の野村哲也氏をキャラクターデザインに起用。世界観も従来のファンタジー色の強いものから現代的なものへと変化した。一言で言うとスタイリッシュになった。

そして、このFFVIIをプレイした時、私はリアル中二であった。こんなのイカれてしまわないわけがない。クラウドとは、そんなFFVIIの主人公である。他には存在しない(俺が闇に葬ったから)。

クラウドはいわゆる「ヤレヤレ系主人公」だ。クールで何事にも無関心、ヤレヤレと言いながら色んなことに巻き込まれていき、女にモテて、ついでに世界も救ったりする。三十を過ぎると、こういうグチャグチャ言っている二十歳前後の男よりも、50ゴールドと「どうのつるぎ」だけ渡されて世界を救いに行くドラクエの勇者の方が超クールに思える。だが、やはり中二の時は、これがカッコよかったのだ。

クラウドは当時他の女子ゲーマーにも大そう人気を博したキャラで、彼を題材とした同人誌を発行するのに、森一つ消滅したのではないかと言われている。しかしここで勘違いしてもらっては困るのが、私がFFVIIで一番好きなのはクラウドではなくシドだということである。

このように「クラウド」と聞いて「オウフ! 懐かしいですなあ! 拙者の青春そのものでござるよwww」と、嬉々としてFFVIIの話をしようとしている30代のオタクに、「いやそのクラウドじゃなくて」と片手でiPhoneをいじりながら冷や水をぶっかけるなど、もはや人間のすることではない。つまり担当は人間ではない。

○FFじゃないクラウドの話

結論が出たところで「じゃない方」のクラウドの話をするが、クラウドとはクラウドコンピューティングの略で、簡単に言うと、データを自分のパソコンなどではなくWeb上などに保存する方法やサービスのことを指すらしい。

一番わかりやすいのはGmailなどのWebメールだろう。インストールが必要なメールソフトではなく、Web上にあるメールなので、ネット環境さえあれば、自分のパソコンからでなくても、メールの送受信が可能だ。

また、Web上に保存されたデータを、他の人間と共有することができる。クラウドストレージといって、有名なところだとDropboxとか、いろいろあるらしい。私が漫画の制作に使っているソフト「CLIPSTUDIO(通称:クリスタ)」にも、素材やマンガのデータをクラウドに保存する機能がついたという。

従来なら、出先で自宅のパソコンにあるデータが必要になってもどうにもならなかったが、クラウドの登場により、外出先でもネット環境さえあればWeb上にあるデータを取りだし、作業することができる。つまり、いつどこでも仕事ができるというわけである。

全く嬉しくない話だ。こちとら、いついかなる時も仕事をしたくないのである。環境が整ったというより、外堀を埋められたに近い。つまり、クラウドの普及により、また俺たちが仕事から逃げる理由が一つ減ったというわけである。クラウドを使うのが普通になったら「出先だから無理です」が通じなくなってしまうので、「拘留中です」「今あの世です」等、言い訳がさらに苦しくなってしまう。

これは「携帯電話が普及したことにより、いつどこでも連絡がつくようになってしまった」ことに近いが、携帯の場合は折ってはいけない方に二つ折りしてしまえば全て解決するし、スマホだって爆破すれば同じだ。

しかし、クラウドコンピューティングの場合、データが保存されているのは自分のパソコンではないため、パソコンを爆破しても何の解決にもならない。逆に言えば、自分のパソコンがダメになってもデータに影響がないとも言えるが、爆破で解決できないというデメリットに比べれば小さなメリットな気がする。

漫画家にも作業場の外でネームなどをする人はいるが、本格的にデジタル作画をしようとしたら、クリスタなどの漫画制作ソフトが入ったパソコンが必要になる。しかし、もしGmailのようにインストール不用のWeb上で使える漫画制作アプリケーションが開発されたなら、逃げた漫画家を取り押さえ、手近なネットカフェに監禁。その場で原稿を描かせ、データを共有フォルダに保存すれば、編集部が即、原稿データを受け取ることができるというわけである。

「いつどこでもできる」というのはあたかも利点のようだが、ある意味「退路を断つ」と同じことである。「どう頑張っても今は無理」という状況に救われることだってあるのだ。

<作者プロフィール>
カレー沢薫
漫画家・コラムニスト。1982年生まれ。会社員として働きながら二足のわらじで執筆活動を行う。デビュー作「クレムリン」(2009年)以降、「国家の猫ムラヤマ」、「バイトのコーメイくん」、「アンモラル・カスタマイズZ」(いずれも2012年)、「ニコニコはんしょくアクマ」(2013年)、「やわらかい。課長起田総司」(2015年)、コラム集「負ける技術」(2014年、文庫版2015年)、Web連載漫画「ヤリへん」(2015年)など切れ味鋭い作品を次々と生み出す。直近では、猫グルメ漫画「ねこもくわない」単行本が4月28日に発売された。

「兼業まんがクリエイター・カレー沢薫の日常と退廃」、次回は2016年6月21日(火)掲載予定です。

(カレー沢薫)