甘くない砂糖税と、コカ・コーラの甘いビジネス

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砂糖を含む飲料に課税する自治体が増え、砂糖自体の価格も不安定になっているなか、コカ・コーラは「砂糖からの離脱」を図っている。「砂糖飲料メーカー」であることを辞めようとしているコカ・コーラは、時代に合わせて会社のあるべき姿を模索し続けている。

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砂糖ビジネスに関わるのに、いまはよい時期ではなさそうだ。

砂糖を含む飲料に課税しようとしている都市は世界各地で増えており(日本語版記事)、米国では2015年に「ソーダ税」を開始したカリフォルニア州バークレーに続き、ペンシルヴァニア州フィラデルフィアもそのグループに入りそうだ。

また、米国食品医薬局(FDA)は最近、新しい栄養成分ラベルを決定した。これまで以上にカロリーと砂糖添加量を強調して表示したものだ。

その一方で砂糖は、ビジネス的に非常に不安定な食品になりつつある。砂糖の価格は2016年5月には、前年度と比較して30パーセント以上上昇している。

こうしたなかで、砂糖たっぷりのソーダ飲料の代名詞的存在となっている世界最大の飲料メーカー、ザ・コカ・コーラ・カンパニー(本社ジョージア州アトランタ。以下、コカ・コーラ)は2016年5月、同社の代表製品「Coca-Cola」のヴェネズエラでの製造を一時中止したと発表した。ヴェネズエラ経済が崩壊の瀬戸際にあり、深刻な砂糖不足が発生していることへの対応だ。

砂糖をめぐる駆け引きは、非常に不安定な状態へと変化した。そのためコカ・コーラは、ソーダメーカーとしては思いもよらない方向へと進んでいる。砂糖飲料メーカーであることを辞めようとしているのだ。

砂糖からのゆるやかな離脱

840億ドル規模の多国籍企業であるコカ・コーラが、現在のような事態を予見していなかったわけではない。「米国やその他の国々で増え続ける肥満の主な原因は砂糖だ」とする公衆衛生当局者たちの主張がFDAの新しいラベルによって後押しされるよりもずっと以前から、同社は砂糖からのゆるやかな離脱をもくろんできた。

おそらく、政治的な面でも経済的な面でも、砂糖をめぐる問題に最も目を光らせてきた飲料メーカーは、世界中でコカ・コーラ以外にはないだろう。同社は、コカ・コーラ・ブランドを積極的に拡大しようと取り組む一方で、伝統的な製法から砂糖含有率を下げる努力を続けてきたのだ。

例えば、コカ・コーラは英国で、主に砂糖含有量を減らすことにより、2020年までに同社製品の半数でカロリーを最大でゼロにまで低減することを明言。企業としての面目を保ちながらコストを節約しようと試みている。

「過去3年間に当社は、砂糖とカロリーの含有量を減らし、消費者に対してより幅広い選択肢を提供するための製造法改変プロジェクトに1,500万ポンド(約23億円)を費やしてきました」と英国とアイルランドにおけるコカ・コーラの統括マネージャーを務めるジョン・ウッズは言う。

コカ・コーラは、カナダでも飲料製品に含まれる砂糖の量を減らすと発表した。カナダで販売されているCoca-Colaの砂糖含有量は、米国のものと比べて約3グラム多く、さらに当初はより小さい缶で販売されていた。

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コカ・コーラが、社会における「砂糖への反発」を抑制しようと最初に試みたのは1963年。ダイエットソーダ飲料「TaB」を発売したときだ。これが女性を中心に流行したことを受けて、1982年には米国で「Diet Coke」が発売開始された。

そして2005年、Diet Cokeをさらに洗練させた「Coke Zero」が登場する。そのあとも、業界全体でソーダ飲料の売上げが失速する一方で、「ヴィタミンウォーター」系の飲料やOdwalla(オドワラ)社などのジュースが、ソーダ飲料に代替していった。

そうした市場の動きを見ていたコカ・コーラは、オドワラを2001年、「ヴィタミンウォーター」を販売するグラソーを2007年に買収したほか、アフリカやラテンアメリカなど発展途上国の市場において同様の製品を提供するブランドを買収してきた

その後、コカ・コーラは2013年、セージ・グリーン色の缶に入った「Coca-Cola Life」を発売。通常のCoca-Colaと比べて砂糖含有量が少なく、カロリーは6割に抑えられた製品だ。

この製品は、ミレニアル世代と呼ばれる新しい世代の市場をとらえようとして開発されたものだ。つまり、動物性食品に代わる植物ベースの代替食品を生産するスタートアップが増え、ヴェンチャー資本家たちも資金を投入している現代に向けてコカ・コーラ社が開発したのが、「Coca-Cola Life」なのだ。

コカ・コーラの未来

Coca-Cola Lifeを可能にしたのは、南米原産の多年草「ステヴィア」をベースにしてコカ・コーラとカーギルが開発した新しい甘味料「Truvia」(トゥルヴィア)だ。ステヴィアという素材はコカ・コーラの社内に興奮を巻き起こした。ファストフード業界の情報を伝える『QSR』誌によると、コカ・コーラは2007年、ステヴィアに関連する24の特許を申請したという。

Coca-Cola Life発売の際に、米コカ・コーラのアンディ・マックミリン副社長は、「わたしたちは、新興分野で先頭に立ちたいと思っています」と述べた。「サトウキビの糖とステヴィアの葉の抽出物で甘味をつけた、カロリーの低いソフトドリンクを求める消費者にとって、これは試してみるべき優れた選択肢となるでしょう」

ただし、これまでのところCoca-Cola Lifeは大きな成功を収めていない。2015年からCoca-Cola Lifeの売上げは下落している。おそらく多くの人は、この商品を見たこともなく、ましてや試してみたこともないだろう。それでもCoca-Cola Lifeは、未来に向けたコカ・コーラの展望にうまく合致する(なお、Pepsiも、ステヴィアを多用した同様の商品「Pepsi True」を2014年から発売している)。

Coca-Colaの流通システムは世界全体に強固に築かれている。アフリカではその流通システムを利用して医薬品を配布する試みまで行われているほどだ。

しかし、人々が病みつきになるほど強力な単一の甘い商品に、多国籍企業が依存できる時代は終わった。新しいコカ・コーラの時代は、多数のブランドを抱えるものになるだろう。そして砂糖に依存しない商品が増えるほど、コカ・コーラのビジネスはより甘くなっていくのだろう。

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