伊勢志摩サミットに参加したG7の首脳 (c)朝日新聞社

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 サミットで世界経済がリーマン級危機だとし、非難を浴びる安倍首相。“伝説のディーラー”と呼ばれた藤巻健史氏は日本の財政ににこそリーマン級危機が迫っていると危惧する。

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 かつて、中学生の次男ひろしに私の中学・高校時代の日記を読ませたことがある。「人生の参考にせよ」との思いだったが、読後の反応は「なんだ、お父さん。いつも偉そうなこと言うくせに、人生の節目、節目に女性が出てきて、女性で人生を決めているじゃないか」。ムムム、まずい。

「(高校入学直後)テニスを初めてやった。おもしろい。うまくなれば彼女と打ち合えるから、テニス部に入る」「オレの目標はなにか。やはり東大だ。受かれば、彼女の尊敬を得られる。東大へ入るぞ!」

 日記にはこんな言葉が並び、ひろしの言うとおり。しかも、私はテニスが上達せず、東大にも入れなかった。人生の参考どころか、親の権威は台無しだった。

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 5月26日、主要7カ国(G7)首脳会議で「安倍首相が『(世界経済が)リーマン級危機に陥るのを警戒』と発言した」とニュース速報が流れた。「おいおい、何を言いだすんだ」とあぜんとした。数ある経済指標のうち、悪い数字だけをいくつか取り出して経済政策を論じれば、ひろしどころか世界中の笑いもの。裏方の振り付けなのだろうが、あまりにも無理筋だった。

 翌日の各紙報道によると、ドイツのメルケル首相は「『危機』とまで言うのはいかがなものか」と異議を唱え、キャメロン英首相も「そうした状況にはないのではないか」と発言したそうだ。安倍首相は「大きなリスクに直面している」とトーンダウンした。

 海外マスコミはさらに辛辣(しんらつ)な論評をしたことを、5月29日付毎日新聞は伝えている。仏ルモンド紙は「安倍氏は『深刻なリスク』の存在を訴え、悲観主義で驚かせた」と報じ、「自国経済への不安を国民に訴える手段にG7を利用した」との専門家の分析を紹介したそうだ。米経済メディアのCNBCは「増税延期計画の一環」「あまりに芝居がかっている」などとする市場関係者らのコメントを伝えたという。これらの指摘は、まさに私の第一印象そのものだ。

 金融市場は年明け後、中国経済の先行き懸念や原油価格急落から、不安定になった。しかし、今は落ち着きを取り戻している。中国経済は安定に向かいつつあり、1=27ドル台に一時下落したWTI原油先物価格は、50ドル近くに回復した。米国は利上げを考えるほど堅調だ。

 それらを反映し、年明け後に急落した世界の株価は今や急回復している。欧米株は2月11日前後に昨年末比10〜15%安の年初来最安値をつけた後、昨年末価格をほぼ取り戻した。米株価は5月末現在、史上最高値に迫りつつある。

 投資家は能天気に株を買うわけではなく、世界経済を総合的に判断して決断する。リーマン級危機が迫っている、との認識ならば株なぞ買いはしない。

 一方、日経平均は昨年末比12%安と大きく落ち込んでいる。今回の金融不安の発生地の中国・上海株の20%安に次ぐひどさだ。

 中国国営新華社通信は「日本の巨額債務は巨大なリスクで、世界経済を攪乱(かくらん)しかねない」と指摘したそうだ。「リーマン級危機」が迫るのは世界経済ではなく、日本の財政だという点を忘れてはならない。

週刊朝日  2016年6月17日号