6月15日から19日にかけて、「ラオックス卓球ジャパンオープン荻村杯」が東京体育館で開催される。世界ランキング上位の強豪選手が出場するこの大会には、リオ五輪代表の日本人選手・男女6名も参加する。女子は石川佳純、福原愛、伊藤美誠。男子は水谷隼、丹羽孝希、吉村真晴。彼らのプレースタイルや長所などを、日本人初のプロ選手として活躍した松下浩二氏に解説してもらった。

■日本人初のプロ選手・松下浩二が語る「リオ五輪戦士」@女子編

 10年前、福原愛選手だけがメディアに取り上げられていた時代と比べると、卓球人気が向上していることを実感します。人気となった要因のひとつは、ロンドン五輪で女子団体が銀メダルを獲得したように、「世界で戦える」ということが挙げられるのではないでしょうか。

 現在の日本女子は、中国に続いて世界で2番目の位置をずっとキープしています。しかし、「ロンドン五輪はたまたまだったんだ」と言われないように継続してメダルを獲得することが、卓球人気を継続させるため、さらには2020年の東京五輪での金メダルのためにも非常に大切なことだと思います。

 それでは、リオ五輪の代表に選ばれた女子3名のプレーについて解説しましょう。

 石川佳純選手は、現時点で世界ランク4位。リオ五輪では第3シードか第4シードが有力で、準決勝まで中国人選手と当たる可能性は低い。日本人選手初となるシングルスでのメダル獲得の最有力候補と言っていい存在でしょう。

 彼女は中国人選手ともいい勝負ができるし、何が起こるかわからないのが五輪ですから、一番いい色のメダルを獲得する可能性もないとは言えません。間違いなく言えるのは、石川選手はロンドン五輪のときよりも、この4年間で確実に強くなっているということです。

 10代で出場したロンドン五輪での石川選手は、表情や身体つきにも子どもっぽさが残っていました。しかし今では、身体つきが変わり、プレー自体も迫力が増し、ボールにスピード感が出てきました。

 以前は、「福原選手や平野(早矢香)選手の後についていっている」という印象があったのですが、今では完全に彼女が日本のエース。その自覚を、本人も持っているのでしょう。「自分が勝たなければいけない」という意識が見受けられます。また常に、「中国に勝つためには」ということを念頭に置いて生活を送っていることが、この4年間での成長を促しているのではないでしょうか。

 技術的な面で彼女の長所は、「オールラウンドで穴がないところ」です。卓球は、ドライブ型、前陣速攻型、カット型など、さまざまなスタイルが存在し、さらに現在はいろいろなタイプのラバーがあります。プレースタイルが偏ると、「この選手には勝てるけど、この選手には......」と得手・不得手が出てきてしまう。しかし、石川選手は卓球台に張りついて速くプレーすることも、台から距離を取って遅くプレーすることもできる。状況に応じてプレースタイルを変えられることは、対戦相手にとって脅威です。

 また、サービスも彼女の大きな武器なので、相手のレシーブが甘くなると、3球目攻撃での決定率も非常に高い。3球目攻撃を返されたとしても、先手を取って有利に試合を展開することができます。今の石川選手のレベルなら、中国人選手を準決勝・決勝で倒すことも十分に起こり得ます。シングルスでは、銀メダル以上を期待したいところです。

 続いて、4大会連続出場となる福原愛選手。男子選手よりも世代の入れ替わりが早い女子選手のなか、息の長い活躍は素晴らしいことです。誰もが、「彼女が日本卓球界を背負ってきた」と思っていることでしょう。ロンドン五輪で団体・銀メダルこそ獲得していますが、リオ五輪ではぜひ、シングルスでメダルを獲得し、彼女のキャリアに華を添えてほしいところです。

 オールラウンダーの石川選手とは対照的に、福原選手は速さで勝負するタイプ。台にひっつくほど近づき、バウンドしたボールをすぐに打ち返すのが、彼女の持ち味です。特にバックハンドが速い。このスタイルは中国選手と対戦する際、ハマる可能性が非常に高い戦い方です。

 中国が世界のナンバーワンに君臨しているのは間違いありませんが、以前の中国人女子選手は台の近い位置に立ち、速い卓球を武器としていました。しかし最近では、女子選手も男子選手のように、ダイナミックなプレーをするようになっています。大きくスイングし、パワフルなボールを打つ。その球威に圧倒され、対戦相手は「強い」という印象を持ちがちですが、私は逆に、「付け入る隙ができた」と感じています。

 それは、台から離れてプレーするようになったため、以前の速さが影を潜めたからです。かつては"速さ"対"速さ"の争いになると、速度で勝る中国に勝つことは不可能に近かった。しかし、今の中国の"力強さ"を押し出すスタイルなら、"速さ"で対抗すれば付け入る隙は十分にあります。

 現に福原選手も速さを武器に、中国人選手を下した経験があります。彼女は最近、大きな大会での優勝からは遠ざかっているものの、ここ一番勝って欲しい試合・大会で力を発揮するタイプ。ここぞという場面で何かをやってくれるのが、まさに福原という選手です。

 そんな彼女ですから、リオ五輪でもサプライズな勝ち星を挙げてくれるのではないでしょうか。組み合わせ次第な面はありますが、シングルスの決勝が福原選手と石川選手の「日本人対決」という可能性もなくはないですし、ぜひそうなってほしいと願っています。

 そして、今年4月のリオ五輪のアジア大陸予選で"速さ"を武器に、ロンドン五輪シングルス銀メダリストであり世界ランキング2位の丁寧(中国)を倒したのが、リオ五輪では団体戦で出場する15歳の伊藤美誠選手です。

 彼女は身長150cmしかありませんが、速さ、戦術、駆け引きで大人たちを負かしてしまいます。最大のウリは速さです。福原選手とほぼ互角ですが、打球の速度は伊藤選手のほうが上。思い切りのよさがあり、誰が相手でも勝つ可能性を秘めた"パンチ力"も持っています。

 15歳での五輪初出場となりますが、彼女の世代は小さいころから国際大会に出場し、場数も多く踏んでいます。そもそも、競技のスタートが3歳なので、15歳といっても競技歴は10年をゆうに超えています。さらに彼女は「鉄の心臓」とも呼ばれるように、強いメンタルを持っているので、五輪初出場といえども、自身のプレーをやり切ってくれるのではないでしょうか。

 卓球は室温や湿度に影響を受けるスポーツで、乾燥するとボールが弾み、湿気ているとボールが滑るような感覚があるなど、フィーリングに若干の違いが生じます。ただ、日本代表は1週間前には現地に入るというので、ラバーの厚みを変えるなどして、すぐに対応できると思います。

 ベテラン2選手は、経験値がありますからまったく問題ないでしょうし、伊藤選手は環境の変化に動じないタイプ。世界のどこに行っても、ラケットケースから、さっとラケットを出して、そのままパンパンと何気なく打つでしょう。

 女子にはロンドン五輪に引き続き、団体でのメダルを期待しています。そして、日本人として初となるシングルスでのメダル獲得も可能性が高いので、目が離せません。

(男子編につづく)

【profile】
松下浩二(まつした・こうじ)
1967年8月28日生まれ、愛知県出身。1993年、日本人初のプロ卓球選手となり、全日本選手権シングルス4度優勝。スウェーデン、ドイツ、フランスの欧州3大リーグでプレーし、2009年に現役を引退。オリンピック4度出場(1992年〜2004年)。シェークハンドのカット主戦型。現在は卓球用品総合メーカー「ヤマト」の代表取締役社長を務めるかたわら、卓球の発展のためにさまざまな活動をしている。

水野光博●構成 text by Mizuno Mitsuhiro