■WEEKLY TOUR REPORT
【米ツアー・トピックス】

 6月3日、モハメド・アリがこの世を去った。74歳だった。

 元ヘビー級チャンピオンのプロボクサーは、最期まであらゆることと戦い続けた伝説のアスリートだ。引退後は32年もの間、パーキンソン病と戦い続けてきた。

 モハメド・アリとゴルフ――このふたつは、無縁なもののように感じるかもしれないが、決してそんなことはない。プロゴルファーは、毎週戦い続けるアスリートである。そんな彼らにとって、ずっと戦いを続けてきたアリはまさしく"偉大なるチャンピオン"であって、その影響を受けた選手は少なくない。リング上で奮闘する姿だけでなく、リング外でもさまざまなことに立ち向かっていった彼の姿勢、そして彼のユニークかつ愛すべきキャラクターに、多くのプロゴルファーが魅了された。

 その"英雄"の早過ぎる死のニュースが流れると、ソーシャルメディアなどを通じて世界中から追悼メッセージが寄せられた。その中には、ゴルフ界を代表する面々からのメッセージも数多く見られた。各々がアリとの思い出などを綴り、アリに対する熱き思いを世界に向けて発信していた。

 タイガー・ウッズ(40歳/アメリカ)は、自身のツイッターアカウントからすぐさま言葉を寄せた。

「あなたはリング上で達成したこと以上に、常に偉大だった。本当に大勢の人にとって、多くの意味でチャンピオンだった」

 ジャック・ニクラウス(76歳/アメリカ)は、自身がホストを務める先週のザ・メモリアル・トーナメントの会場でこう語った。

「私は、ずっとモハメド・アリの大ファンだ。その理由は、彼がリングの中で偉大なチャンピオンだっただけでなく、リングの外ではそれ以上に、極めて偉大だったからだ。彼がこれまで世の中に貢献してきたことに感謝し、これからもモハメド・アリの精神を継承していきたい」

 また、エミリアーノ・グリオ(23歳/アルゼンチン)は、「蝶のように舞い、蜂のように刺す」と、アリが戦う前にいつも口にしていた言葉をツイートした。

 2008年、アリの生まれ故郷であるケンタッキー州ルイビルのバルバラCCで、ライダーカップ(欧州選抜vs米国選抜の対抗戦)が行なわれている。その練習ラウンドの最中、突然コースにアリが訪れた。そして、アリは米国チームの各選手を激励した。アリはその後、同様に欧州チームの練習にも顔を出して、各選手にエールを送った。

 アリの訪問は、予期せぬ出来事であり、思いもよらぬことだった。ゆえに、両チームの選手たちは皆、偉大なチャンピオンと一枚のフレームに収まろうと躍起になった。

 当時、その現場にいたジャスティン・ローズ(35歳/イングランド)は、自身のインスタグラムにアリとの2ショット写真を投稿し、哀悼の意を捧げた。

「(2008年)ライダーカップで最も偉大な人と会うことができた。(アリは)驚くほど紳士で感動した。安らかに眠ってください」

 1942年、ケンタッキー州ルイビルに生まれたアリ。本名は、カシアス・クレイ。イスラム教に改宗してから、『モハメド・アリ』と改名した。

 アマチュア時代、1960年ローマ五輪で金メダルを獲得。その後、プロに転向し、1964年にソニー・リストンを倒して世界ヘビー級王者となった。しかし、ベトナム戦争での徴兵を拒否したことから、アメリカ政府と対立。あらゆるタイトルをはく奪され、ボクシングライセンス停止といった圧力まで政府からかけられた。最終的には、アメリカ最高裁判所の無罪判決が出るまでの4年間、アリは戦いの場を失っていた。

 リングに上がれない日々、アリはベトナム戦争に反対し、人種差別撤廃のために、さまざまな運動を行なった。これらもまた、彼の"戦い"のひとつである。

 そして、再びボクシングのライセンスを手にしたアリは、1971年に復帰。以降、伝説となる名勝負を繰り返し、通算3度のヘビー級王者に輝くとともに、19度の防衛に成功した。

 そんなアリが、初めてゴルフクラブを握って、ショットをしている秘蔵写真がある。1974年、カリフォルニア州のゴルフコースで、アメリカの『ゴルフダイジェスト』誌によるインタビューを受けたときのものだ。

 同誌のヘッドプロから8番アイアンを手渡されると、「どうやって握るんだ?」と尋ねたアリ。プロからクラブの握り方を教わると、「それからどうするんだ?」と再び聞いた。

 その問いには、隣にいたアリのトレーナーが答えた。「チャンプ、それでボールを打つんだ」と。すると、アリは我流のスイングながら、ありったけの力でボールを引っぱたいた。

 アリが放ったボールは、140ヤード先まで真っ直ぐ飛んでいった。それを見た彼は、「ほら、飛んだじゃないか」と言って大喜び。それからもう一球、見事なショットを放つと、アリはこう叫んだ。

「こんなに遠くへ飛ばせるヤツは他にいないだろう。オレだけだ。モハメド・アリだけだ。モハメド・アリを誰も負かすことはできない。アーノルド・パーマーも、ジャック・ニクラウスも、だ!」

 戦う前に大口を叩くのは、わざと相手を怒らせる戦法である。アリのその態度はときにひんしゅくを買うこともあったが、あくまでもアリは「オレこそが、史上最も偉大でなければおかしい」と、常に胸を張って生きてきた。その堂々たる姿に、多くのアスリートが共感するのだろう。

 偉大なるチャンピオンであるとともに、社会活動家でもあったアリ。競技こそ違うが、ゴルフ界にも大きな影響を与えてきた。そんなアリの精神を、ゴルフ界でも継承していくことができたら、彼もきっと天国で喜ぶに違いない。

 ご冥福をお祈りいたします。

text by Reiko Takekawa/PGA TOUR JAPAN