武蔵はどうして常子を守ろうと思わなかったのか「とと姉ちゃん」60話

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連続テレビ小説「とと姉ちゃん」(NHK 総合 月〜土 朝8時〜、BSプレミアム 月〜土 あさ7時30分〜)第10週「常子、プロポーズされる」第60話 6月11日(土)放送より。 
脚本:西田征史 演出:大原拓


ロケはいいなあ。
常子(高畑充希)と武蔵(坂口健太郎)の別れの場面はセットではなく、ロケ。
とんびを着た武蔵(似合う!)と手編みのマフラーの常子が、大きな樹が生えた林道を、たわいない話をしながら歩いていく。ふたりが一緒に歩くこの道がどこまでも続いたらいいのにと思わせるようなストロークが必要だから、やっぱりロケでないと。それにしても常子と武蔵の家、どれだけ離れているんだ? 

ふたりが結婚できない理由を、武蔵が考察。
自分のことは後まわしにして家族のために全力で走る常子が好きだった武蔵。
「矛盾した話ですが、つまり、僕を選ぶ常子さんは僕の好きな常子さんじゃない。僕の好きな常子さんであれば、結婚よりもご家族を選ぶ。そんな気がしていました」と言う。
この時、向かい合ったふたりには微妙な距離がある。広い空間にぽつりとふたり。埋められない矛盾が哀しい。
やがて、このへんでお別れしましょうと、別れの挨拶をして、武蔵は常子を通り過ぎて、今来た道を帰っていく。
そのまま黙って歩いて行く常子。まばたきもせず。
ふりかえると、そこにはもう武蔵はいず、遠くに風に揺れる大木があるだけ。
ずいぶん遠くに離れてしまったふたり。
常子の表情を短くしか映さず、場所はいつもの深川のセットへ。
武蔵について、樹の向こうへ行くことを選ばず、変わらない箱庭のような町と家に常子は戻ってきてしまったのだ。
2週間後、武蔵は汽車で大阪に向かう。箱庭のような町を出て。

川を超える時、ふと目をやった岸辺に、常子が立っている。
必死で名を呼ぶ武蔵に、常子は静かに頭を下げる。おくゆかしい。
頭をあげた常子の決意の表情。改めて、自分の宿命を認識したという重いものがあった。
娘の気持ちをかか(木村多江)だけが悟り、その哀しみを受け止める。
「こうしていれば誰にも聞こえないよ」と言って常子を抱きしめたかかは、母親の役割を立派につとめている。
こんないい話に水を差すのもなんだけれど、言ってしまえば、武蔵は自分のことを全力で支えてくれる人として常子が必要だったのだと思う。武蔵は常子とその家族をまるごと自分が支える気持ちはなく、研究をとったのだ。常子も家族も僕が支えるという人だったら良かったのに。

常子がとと化せざるを得ないのは、ととが亡くなったのは仕方ないとして、出会った男がいわゆる家長としての役割を果たしそうにないせいであり、でもそれは、べつに男が女を食わせることが当然ではない役割の多様化だ。
そうは言っても、いつか武蔵が甲斐性のある男として常子を迎えに来てくれたらいいのに。
坂口健太郎の不在は惜し過ぎる!!
(木俣冬)