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鉄道車両やクルマの設計でも事情は同じだろうが、外形や構造が決まっている中で、必要とされる機器類を内部にきちんと押し込めて、しかも整備性・保守性も考慮しなければならない。これはかなり大変な仕事である。

○ステルス機の内部はギッチギチ

実物を見たわけではなくて「聞いた話」だが、F-35ライトニングIIの内部は「ギッチギチ」だそうだ。

もともと、コックピットに燃料タンクにエンジンに電子機器と、中に入れなければならないものはいろいろあるにもかかわらず、戦闘機の機内にはそんなにスペースの余裕がない。しかもステルス機だから、必要最低限の兵装は機内に兵器倉を設けて、そちらに搭載しなければならない。

もともとスペースがないところに機内兵器倉が加われば、ますます機内のスペースの取り合いが面倒なことになる。だから、単純に四角いスペースを並べていくだけでは済まず、細かい凸凹が生じて、複雑怪奇な様相を呈することになる。

かといって、機内兵器倉のスペースをケチると、搭載できる兵装のサイズに制約が生じて禍根を残すことになる。たぶん、これから何十年かは使う機体だから、当初にスペースをケチると何十年かは尾を引いてしまう。ステルス機では程度の差はあれ、「兵装に合わせて機体を作る」のではなく「機体に合わせて兵装を作る」必要があるのだが、それも程度問題だ。

F-35の場合、米海兵隊向けのF-35Bは垂直着陸用のリフトファンがコックピット後方の機内にどっかり陣取っているから、その分だけスペースが苦しくなっている。そのしわ寄せが機内兵器倉に及んでいて、米空軍向けのF-35Aや米海軍向けのF-35Cが2000ポンド(約907kg)のMk.84爆弾を搭載できるスペースを確保しているのに対して、F-35Bは1000ポンド(約454kg)のMk.83爆弾が上限となっている。

○実大模型では対応不可能?

といったところで、話はいきなり変わる。

航空自衛隊・浜松基地に隣接する敷地に、「航空自衛隊浜松広報館」、別名「エアパーク」という施設がある。ここにはさまざまな展示品があるが、今回引き合いに出したいのはF-2戦闘機の実大模型だ。

飛行機を開発・製作する際には、実大模型というものを作る。その名の通りに実物大で、外形は本物と同じ。ただし実際に飛ぶわけではないから、コックピットの計器盤のごときは、紙に描いたものを貼り付けて済ませることもある。

その実大模型を作る理由の1つが、整備性などの実地検証だ。もちろん図面の上でも検討はするが、やはり現物を作って実際に人が触りながら検証してみないと、という話なのである。また、コックピットからの視界も同様に、現物を作って中に人が入ってみないと、最終的な確認ができない。

ただ、木製とはいえ実大模型を作るには相応の手間と費用がかかる。第一、設計案を検討する試行錯誤の過程でいちいち実大模型を作っていたら、時間と手間と費用がかかって仕方がない。かといって、図面の上だけであれこれ考えていると、何か見落としが生じるかもしれない。

ということで近年、コンピュータ上で3次元モデルを構築して、機内における空間の取り合いなどを検討する場面が増えてきた。

航空宇宙業界では以前から、ダッソー・システムズのCADソフトウェア「CATIA(Computer graphics Aided Three dimensional Interactive Application)」が大きなシェアを占めている。その「CATIA」は、単に個別のパーツについて3次元で図面を描くだけのソフトウェアではない。パーツの配置や図面の生成、製造工程へのデータ引き渡しに至るまで、設計から製作までの工程をひとととおりカバーする製品だといえばよいだろうか。それを3次元モデルで処理できるから、空間の取り合いを検討するような場面にも役立つはずである。

CATIA V5 (CAD japan.com)

○実用機にすれば中身が増える

といったところで出てくるのが、X-2である。

時々勘違いしている向きが見られるが、X-2はあくまで技術実証機(テクノロジー・デモンストレーター)なので、これをこのまま実用機にすることはできない。機首は黒く塗られているが、あれはレドームではないから射撃管制レーダーが納まっているわけではなく、中は単なる電子機器室のようだ。もちろん、機内兵器倉のスペースもない。

機内兵器倉から兵装を発射する際に生じる可能性がある問題については、別途、防衛装備庁で研究を進めている。実用版の機体を造る時は、その研究成果に基づいて、問題なく兵装を発射ないしは投下できる仕組みを作り込む必要がある。

しかも、前述したように「ステルス機の機内はギッチギチ」だから、実用版のステルス戦闘機を設計する段になれば、機内空間の取り合いという問題に直面する。射撃管制レーダーや電子戦装置やその他のセンサー類、そして機内兵器倉といった具合に、技術実証機よりも多くのモノを詰め込まなければならないのだ。エンジンにしても、今のままでは馬力が足りないから、もっと大型化するだろう。そうなれば燃料の搭載量だって増える。

しかも、単に機内に一式収めればOKではない。整備性が悪い機体はターンアラウンドタイム(※1)を長くしたり、可動率(※2)を下げたりといった問題につながるので、整備性を良くするための配慮も必須である。モノが奥のほうに隠れているせいで、機器やパーツを交換する際にパネルを開けるだけでは済まず、手前にある機器を外したり、どかしたりしないとアクセスできない、なんていうことになれば整備性が悪化する。(他所の業界で似たような話を聞いたことがあるが……)。

だから、3D CADをはじめとするさまざまなツールを駆使して、空間の取り合いやアクセス性などについて検討を重ねなければならない。そこで手を抜いたり、現場に我慢を強いたりすると、「カタログ・スペックが立派でも武器としての有用性が劣る機体」ができてしまう。

※1ターンアラウンドタイム : 帰還した機体が再出撃可能になるまでにかかる時間。燃料補給、整備点検、破損や故障が発生した機器・部品の交換、兵装の搭載といった作業が必要になる。

※2可動率 : 保有する機体のうち、実際に飛べる状態にある機体がどれだけあるか、という指標。混同されやすいが、稼働率とは意味が違うので注意したい。飛べるけれども意図的に飛ばさない場面があり得るので、稼働率が可動率を下回る可能性はある。逆に、稼働率が可動率を上回ったら一大事だ。本来なら飛べない機体を飛ばしていることになるから。

(井上孝司)