【妄想】もしかしてプロポーズ……?彼の部屋で見つけた「あるもの」とは

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ユウヤとは、付き合い始めてもうすぐ3年になる。あっという間なのか、それとも長いのか、私にはよくわからない。一般的に「3年間」と考えると、高校生が大学生になり、生まれたての赤ちゃんは一人で歩けるようになる。つまり3年間で人は大きく変わるのだ。

しかしユウヤと私はどうだろう。「成長」とか「発展」とか、人として成長できたかと聞かれたら、はっきり言ってわからない。それでも私たちは、お互いを深く「理解」できるようになった。少なくとも、私はそう思っている。

ユウヤとの出会いは、友人に誘われて行った3対3の合コン。当日は、友人の大学時代のサークルの先輩と、会社の後輩2名来ていた。その中で、ユウヤは一番年下。

場の空気を盛り上げて話題を提供する先輩たちに反して、ユウヤは無口だった。ニコニコしながら料理を取り分けたり、ドリンクの注文をしたり、話がふられた時に「そうですね」と相づちを打つ程度しか口を開かなかった。

「この人は、どんな人なんだろう」

その場で作られたグループLINEでも、当たり障りのないスタンプを送るだけのユウヤに、私は純粋な興味が湧いた。

Close up of woman with smartphone

合コンが終わってから1週間経った頃、彼から直接メッセージが来た。「今度あなたの会社の近くに行くので、ご飯でもどうですか?」当たり障りのない内容に、なぜか好感を抱いた。

それから3回デートをした。3回目の映画デートの別れ際には「お付き合いしてください」と告白された。こんな当たり障りのない告白、今までだったら「つまらない男」と断っていた。それなのに、ユウヤに対しては幻滅するどころかますます興味が湧き、その告白を受けてしまったのだ。

それから3年間、当たり障りのない関係を続けてきた。友人からは「大人な付き合いだね」とか「安定しているね」と言われてきたけれど、それが愛情なのか思いやりなのか、私にはわからなかった。ただ、ユウヤを理解したいと思っていた。

梅雨入りしたばかりの週末、久しぶりに彼の家に泊まりに行くことになった。大きなプロジェクトのメンバーになったユウヤは、ここ1ヶ月は終電で帰宅する毎日を過ごしていた。その日も「何時に帰れるかわからないから、合鍵で部屋に入ってて」と言われた私は、溜まっていた仕事を片付けてから21時過ぎに彼の部屋についた。

Door lock

部屋に干しっぱなしの洗濯物、飛び起きた跡が残るベッド、チラシやコップが置かれたガラステーブル。ユウヤの忙しさを感じるものはあったけれど、きちんとした性格を感じるものばかりだった。

少し整理しようと思い、ガラステーブルのチラシ類をまとめ始めた。新聞購読の勧誘、近所のスーパーの広告などが雑多に置かれたチラシの一番下から、男性の部屋に似つかわしくない、白くてキレイなデザインのパンフレットが見え、思わず手が止まった。

正方形に整った表紙から、3つの付箋が覗く。表紙には、「Engagement Ring」と書いてある。

これまでユウヤの口から「結婚」という言葉を聞いたことはなかったし、今は仕事が一番大切なようだったから、今の関係が続くと思っていた。当たり障りのない彼が、大きな変化を自ら起こすことはないはずだから……。

私は、この3年間でユウヤのことを理解してきた。

彼は決して器用な人間ではない。高校時代は部活にも入らず受験勉強をした。それでも、早稲田大学の建築学科に一浪で入学し、一年留年もしている。就職先も第一希望ではないうえ、希望の部署にはなかなか配属されなかった。デートの約束はいつも私からだし、サプライズなんて一度もしてくれなかった。

それでも彼は、何事も一生懸命に取り組む。大学には学科主席で入学。就職後は5年近く勉強し、専門資格を取得した。そして今そのスキルが買われて、会社では新しいプロジェクトの一員として期待されている。デートも、土日に仕事が入りがちな私の予定を最優先に調整してくれたし、ワガママでこだわりが強い私のために、気に入るものが見つかるまで一緒にプレゼントを探してくれた。

それがユウヤという人間なのだ。

でも、彼がカタログに貼った付箋の先には、何があるのかまったくわからない。私が知らない彼を見つけに、表紙を開きかけて、手を止めた。

solitaire ring

きっと、当たり障りのない婚約指輪があるのだろう。当たり障りがないけれど、ワガママな私でも文句の付けようがない、シンプルでキラキラ輝く指輪が。

きっと、これ以上彼だけでは絞りきれなかったのだろう。一緒に結婚指輪を見に行こうと、初めてのサプライズをしてくれるのかもしれない。

きっと、その時の私はびっくりした瞳で彼を見つめるのだろう。そして、その時に沸き上がる感情が愛情なのだと気付くはず。

カタログを元の位置に戻し、散らかったチラシの順番は変えずにガラステーブルの端に寄せた。このことは、彼には内緒にしておこう。ユウヤが話してくれるまで、ドキドキしながら心に留めておこう。こんな私の一面に、彼が気付く日がやってくるかもしれないから。