『64-ロクヨン-後編』 不幸オーラが足りない? (C)2016映画「64」製作委員会

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(…中編「ドラマ版よりもあっさりしすぎで物足りない」より続く)
【元ネタ比較】前編/豪華キャストでお得感? 映画ならではのカタルシス得られる『ロクヨン』:オジサンだらけの内部対立が醍醐味
【元ネタ比較】中編/豪華キャストでお得感? 映画ならではのカタルシス得られる『ロクヨン』:「ドラマ版よりもあっさりしすぎで物足りない」

【元ネタ比較】『64-ロクヨン-』後編
原作やドラマ版とも違うオリジナルラストが!

「クライマーズ・ハイ」などの横山秀夫原作によるミステリー「64(ロクヨン)」が映画化された。県警内部の警務部と刑事部、マスコミの記者クラブの三つ巴の関係が絡み合うなか、時効が1年後に迫る少女誘拐事件、通称“ロクヨン”を追っていく。だが、主人公の警務部広報官の三上がジリジリと事件の真相に近づくなか、“ロクヨン”を模倣した誘拐事件が起こる。

原作では上下巻あるうちの下巻も後半に入ってから事件が起こり、ドラマ版でも全5回のうち、第4回頃だったように記憶しているが、映画版は前後編2部作の前編最後のあたりに事件が起こる。2部作の映画として第1作目のラストに盛り上がりを見せて第2作目も見たくなるように仕向けるのは当然のこと。流れとして悪くないと思うが、この配分が小さなエピソードの積み重ねに影響しているため、割愛や調整が起こったのかもしれない。

また、映像化において大切なのはキャスティングだ。ドラマ版では主人公の三上にピエール瀧、妻には木村佳乃、部下の三雲には山本美月、元上司の松岡には柴田恭兵と、バラエティかと思うようなチャラい面々が多かったが、それにも関わらず重厚なムードがあり、なおかつリアリティも感じられた。リアルを追求したため手紙の文字がピエール瀧本人による丸文字だったが、それさえも人間くさく感じられるほどだった。

対して映画版は、三上には佐藤浩市、妻には夏川結衣、三雲には榮倉奈々、松岡には三浦友和という映画らしい実力派が顔を揃えている。ただ、なんだかバリッと固められ過ぎた感があって、「映画でござい!」という過剰にドラマティックな雰囲気が充満している。極めつけは“ロクヨン”の被害者の父親である雨宮がドラマ版では段田安則であったのだが、映画版は永瀬正敏なのだ。

雨宮は、世間に忘れられた存在でありつつ傷を癒せていない、なんとも不憫でしょぼくれた漬物工場のオヤジであり、段田安則の場合は頬の縦ジワからも不幸オーラが出ていてハマっていた。しかし、永瀬正敏は腐っても鯛、老けても永瀬正敏。漬物工場のオヤジとしてはカッコよくて不幸というより映画スターのオーラのほうが勝ってしまう。全体的にドラマ版と比べ、リアリティよりも“映画”を感じさせるキャスティングとなっているのだ。思うに、こちらのキャスティングのほうが豪華さがあって、「チケット代のもとを取る」いうお得感はあるかもしれない。

そして映画版で大きなトピックは、実はラストがオリジナルであるということ! 原作にもドラマ版にもない「その先」があるのだ。知らずに見ていたもんだからビックリした。確かに原作やドラマ版では完全に気分スッキリとはいかずに多少のモヤモヤ感が残るラストではある。ただ、そこがまたリアルでもあるのだ。

一方、映画版のラストは、原作やドラマ版を知るものにとっては「じゃあ、いっそのこと、必殺仕事人に依頼すればいいんじゃない?」と思えてくる。このほうが映画としてのカタルシスは得られるとは言えるが……。キャストといい、ラストといい、映画らしい見ごたえが欲しい方にはもってこいだろう。(文:入江奈々/ライター)

『64-ロクヨン-前編』は公開中、『64-ロクヨン-後編』6月11日より公開される。

入江奈々(いりえ・なな)
1968年5月12日生まれ。兵庫県神戸市出身。都内録音スタジオの映像制作部にて演出助手を経験したのち、出版業界に転身。レンタルビデオ業界誌編集部を経て、フリーランスのライター兼編集者に。さまざまな雑誌や書籍、Webサイトに携わり、映画をメインに幅広い分野で活躍中。

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