『火花』 (C)2016YDクリエイション

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(…前編「『火花』に号泣」より続く)
【元ネタ比較】前編/TVドラマとは全然違う! 視聴者への信頼を実感したNetflixドラマ『火花』

【元ネタ比較】『火花』中編
原作本と映像作品を見比べて紹介する【元ネタ比較】。今回は、話題のネットドラマ『火花』を取り上げてみました。

●原作の良さを損なわず、厚みを持たせることに成功

芥川賞受賞した又吉直樹原作の『火花』は、若手芸人・徳永と尊敬する先輩芸人・神谷がお笑い界をもがきながら歩む軌跡を描いた、又吉の芸人としての魂を感じさせる作品だ。話題性からも読む前から映像化されるだろうなぁと思っていた。しかし、Netflixのオリジナルドラマとして配信されると聞いたときは、驚くと同時に不安を感じたことも否めない。日本のネットドラマってあまり見たことがないけれど、クオリティはどうなんだろう? 原作は中編で、大きな起伏はない物語なのに、全10話のドラマシリーズにできるんだろうか? と。

結論としてはいい意味で予想を裏切り、想像以上の出来栄えだった。地上波TVドラマにあるような、説明セリフやわざとらしい表情のアップはなく、全体的には淡々と静かな空気が流れ、遠景や手持ちカメラ映像も多く、セリフの強弱が大きい。CMの中断もないため1時間弱の1話1話が1本の映画を見ているように感じられる。

『ヴァイブレータ』の廣木隆一が総監督を務め、『凶悪』の白石和彌ら映画畑のクリエイタ-が各話の監督を担当。『横道世之介』の沖田修一監督はフランス映画風のカットを挿入して洒落を利かすなど、それぞれの監督の個性も出ており、タイトルの見せ方からして各話によって違っている。

1話目で徳永が神谷と出会い、高揚した思いで徳永がひとり朝方の海沿いの道を走る場面。朝焼けをバックに逆光気味の遠景で、はっきりとした表情は見えないが、主人公の興奮が伝わってくるとても映画的なシーンだ。これから映画的な感触を得ながら物語を見守っていけるのだとワクワクさせられた。

又吉の理屈っぽいといえば理屈っぽいこだわりを示す、美しい文体の原作をどのようにドラマ化するのかと思えば、モノローグを多様したりはせず、こだわりはあっさりと消化し、そのぶんドラマとして盛り上がる部分を増幅させている。例えば、前述の海沿いのシーンなど原作ではもっと温度の低いサラッとした数行だ。

また、原作と大きく違うのは、1シーンだけ登場する脇役がレギュラー化して何度も登場したり、ドラマのオリジナルキャラも多い。おそらく、原作は中編ぐらいの分量だから前後編二部作ぐらいでも収まるはずだが、Netflixとしては新規加入者を呼び込む目玉としては全10話のボリュームをもたせたかったという大人の事情もあったんじゃないかと推測される。

でも、増えたシーンやキャラクターが不快な“かさ増し”だとは感じなかった。それどころかドラマに厚みが出たようにさえ感じられた。とくに、芸人を初めて扱う芸能事務所の田口トモロヲ扮する社長と、染谷将太演じる担当マネージャーは、飄々としていて、主人公と絶妙な距離感を持ちつつ愛が感じられ、2人ともさすがと言いたくなるほどドラマにいい味を出している。

原作の持つ、映像表現では限界のある部分はドラマとして広がりを持たせてカバーし、原作に忠実なわけではないが、『火花』という話題のコンテンツを活かした映像化作品としては十分成功しているだろう。

サルゴリラ(元ジューシーズ)の児玉智洋、パンサーの向井慧という、実生活での又吉の同居人もちょっと顔を出すほか、吉本芸人の若手がちょこちょこと出てきたり、ヨシモト∞ホールなどのお馴染みの劇場で撮影されていたり、お笑いファンは斜めから楽しむこともできる。相席スタートの山崎ケイは由貴役に扮し、“ちょうどいいブス”加減がまさにちょうどいいので、ぜひ見届けて欲しい。彼女と対比的な役どころであり重要なキャラクター、神谷のオンナである真樹は門脇麦が演じ、女神的な存在感を体現している。(後編「Netflixドラマの可能性に期待!」に続く…)

【元ネタ比較】後編/TVドラマとは全然違う! 視聴者への信頼を実感したNetflixドラマ『火花』

『火花』はNetflixで配信中。

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