会社は「北極星」を見失ってはいけない──Kickstarter創業者ペリー・チェン

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クラウドファンディングサイト「Kickstarter」を手がける同名企業は、2015年、「B-Corp」として認定された。これによって、法的にも公益を担うことになった同社ファウンダーの言葉から、「これからの会社」のありうべき姿を探る。6月10日(金)発売の『WIRED』VOL.23「Good Company」特集の発売にあわせてお届けする、「キックスターターの会社論」。

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PERRY CHEN|ペリー・チェン
世界最大規模のクラウドファンディングサイト「Kickstarter」創業者兼会長。2009年にヤンキー・ストリックラー、チャーリー・アドラーとともにキックスターターを創業。2010年にはTEDフェローを務める。2013年、『タイム』誌が選ぶ「最も影響力のある100人」に選ばれている。PHOTO: AP/AFLO

2015年9月、ニューヨークに拠点を置くキックスターターは、PBC(Public Benefit Corporation)として「再編」された。PBCとはつまりは、株主の利益よりも公益を優先することが法的に認められた企業形態で、一般的には「B-Corp」として知られるものだ(B-Corpについて、詳しくは本誌『WIRED』VOL.23をご参照)。

これによって、同社は、株主だけでなく社会への影響を考慮する責務を法的に担う営利企業となったわけだ。

B-Corpの定款には、利潤追求という動機に左右される局面において、キックスターターがどのように振る舞うべきかが明確に記されている。

その条件には、ユーザーデータを第三者へ販売しないこと、税金逃れのための「抜け穴や脱法的税務戦略」を利用しないこと、そして税を引いた利益の5パーセントを芸術や音楽教育、あるいは不平等と闘う組織に寄付することといった内容が含まれている。

キックスターターの創業者兼会長のペリー・チャンが、彼らの会社哲学を語ってくれた。

INFORMATION

『WIRED』VOL.23「GOOD COMPANY いい会社」

ちゃんと稼いで、ちゃんと社会の役に立つ「未来の会社」の姿を解き明かす「いい会社」特集。ビジネスデザイナー・濱口秀司をはじめ、Beats by Dr.Dreプレジデントや新井和宏(鎌倉投信)、椎野秀聰(ベスタクス創業者)らが、これからの会社のあるべきかたちを指し示す。世界で広まりつつある「B-Corp」のムーヴメントや、シャオミ総帥の語る「エコシステム」哲学、Android OSを生んだ男が目指す新たなビジネスを育むプラットフォームづくりを追う。そのほかにも、弁護士・水野祐が語る「21世紀の法律」特集をはじめ、川田十夢による新連載など、盛りだくさんでお届けする。

B-Corpになろうとしていることを株主たちに伝えたとき、誰も驚きはしませんでした。いま働いている従業員、かつて働いてくれた人たち、そして投資家たちに対して、B-Corpへの転換を投票で諮りましたが、反対票はただ1つとしてなかったのです。

B-Corpという仕組みは、われわれが何者なのかを明確に表現する助けになります。「クリエイティヴなプロジェクトに命を与える」というキックスターターの長期的なミッションはもちろん、そのための行動規範や価値観、Kickstarterユーザーや公共、さらには社員たちにどうコミットメントしてくか。そういった姿勢・あり方を明示できるのです。

新たな定款をつくるにあたってわれわれが定めた指標すべてが、B-Corpになるために必ずしも必要だったわけではありません。しかし今回、法的にも会社の形態を変えるのは、われわれの信念を揺るがないものにするまたとない機会だと思いました。B-Corpへ転換することは、キックスターターという会社の土台に、意思を長期的な視点で組み込む最も強力な方法だったのです。

B-Corpのしくみの下では、ミッションと価値観を差し置いてまで利益を追求しなくていいことになります。「利益の最大化」は、われわれが信じるマントラでもなければ、よりよい社会をつくるために必要な考えでもありません。

確かに、Kickstarterはビジネスです。しかし利益とは、数ある考えるべき事柄のひとつにすぎません。われわれはこれまでも常にそう考えてきましたが、いまではそれが、法的にも認められたということになります。

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B-Corpという企業形態は、実質的な効力をもっています。投資家や従業員たちとの会話の基盤となり、みんなが同じ方向を向くために必要なものです。またKickstarterから生まれるこれからのリーダーたちに、利益よりも目的を優先して行動するという自由をもたらすものでもあります。

パタゴニアはわれわれよりも数年先にB-Corpになりましたが、それはこのムーヴメントを先導するものでした。パタゴニアの定款のなかでぼくが好きなのは、次の部分です。

パタゴニアは、環境に対してポジティヴな影響をもたらす決定が役員会でなされた場合、それを行うための情報とベストプラクティスを、競合を含むほかの企業と共有するだろう。

──ここから、パタゴニアにとって、環境こそが「北極星」であることがはっきりとわかります。

われわれはアートとカルチャー、そしてクリエイティヴィティこそが何よりも大切だと信じています。われわれはモノカルチャー(単一文化主義)のリスクを感じています。だからこそ、どのようにしてアートとカルチャーの活気と多様性を維持していくことができるか?ということを考えているのです。

残念なことに、「北極星」たるミッションをもたないこと、利益の妨げにならない範囲で都合のいい価値観を掲げることは、多くの会社にとって普通のことになってしまっています。あらゆる規模の会社が、社会にはびこる「利益最大化のパラダイム」から脱却しなければいけません。そうでなければ、われわれはいったいどこに向かっているというのでしょうか?