米中の緊張が高まる南シナ海で、中国が防空識別圏の設置に踏み切るかに関心が集まっている。中国が設置を強行すれば、軍事的な緊張が一挙に高まるのは必至だ。写真は南シナ海の地図。

写真拡大

2016年6月10日、南シナ海で実効支配を強める中国が、いつ「防空識別圏」(ADIZ)の設置に踏み切るかが焦点になっている。ADIZが時間の問題とみる米国は「安定を破壊する行為」(ケリー国務長官)などと繰り返しけん制。中国側は慎重にタイミングを計っているとみられる。

南シナ海のADIZについて、香港紙サウス・チャイナ・モーニング・ポストは1日、中国軍に近い筋の話として「中国が東シナ海に続き、南シナ海に防空識別圏を設定する準備を整えた」と報じた。設置発表の時期は、米国の軍事プレゼンスや周辺諸国との外交関係など地域の安全保障情勢次第としている。

中国外交部の洪磊(ホン・レイ)報道官も6日の記者会見で、質問に答える形で「世界の多くの国々が防空識別圏を設定しているが、これは各国の主権の範囲内のこと」と言明。時期については「各方面の要素、特に空の安全の脅威の程度を総合的に考慮する必要がある」と述べた。

これに対し、AFPなどによると、米国のケリー国務長官は5日、滞在先のモンゴルで「中国による南シナ海でのADIZ設定は挑発であり、安定を破壊する行為だ」と発言。国防当局者も「ADIZ設定は安定を破壊する行動だと中国に明確に伝えている。米国は南シナ海におけるあらゆる領有権争いが話し合いを通じて解決できると期待している。武力やどう喝で解決すべきものではない」(ワーク国防副長官)などと再三、警告している。

ADIZは海洋に接する国・地域が防空のため独自に設定できる空域。領空(沿岸から約22キロの領海上空)よりも外側に張り出して設定されることが多い。領空に向かって空域内を飛ぶ航空機には飛行計画の事前提出が求められる。事前通告なしに空域内に侵入した航空機は、戦闘機による緊急発進(スクランブル)の対象となる。

日本のADIZは、レーダーサイトや早期警戒管制機などによって24時間体制で警戒。千歳基地(北海道)、百里基地(茨城県)、小松基地(石川県)、那覇基地(沖縄県)などでスクランブルに備え、戦闘機が待機している。

一方的にADIZを宣言しても、防空体制が整っていなければ「張り子の虎」。このため、欧米の軍事専門の一部は中国がADIZを設置する場合、軍事拠点がある海南島に近い西沙(パラセル)諸島周辺から手を着ける可能性を指摘している。

南シナ海をめぐっては、今月初め、シンガポールで開催されたアジア安全保障会議で、カーター米国防長官は中国を「自らを孤立に招く万里の長城を築きかねない」と非難。中国軍の孫建国(スン・ジエングオ)連合参謀部副参謀長は「少数の国が混乱を引き起こすことは座視しない」と反論するなど、対立の深刻さが改めて浮き彫りになった。

6、7日に北京で開かれた「米中戦略・経済対話」でも、中国の習近平(シー・ジンピン)国家主席が協調を迫ったのに対し、南シナ海について、ケリー長官は「法と外交を通じて解決すべき」と応じるなど、火花が散った。こうした中で中国がADIZ設置を強行すれば、軍事的な緊張が一挙に加速するのは必至だ。(編集/日向)