仕事で自分のクレジットカードや携帯を使うことはよくあるもの。なかには会社のパソコンでプライベートの旅行の予約をしたり、備品のポストイットを家に持ち帰って使ってるなんて人もいるかもしれません。今回の大人のためのリーガルレッスンは、よくよく考えると「これってアリなのかな?」と思うことの多い、会社の経費や備品の問題。アディーレ法律事務所の篠田恵里香(しのだ・えりか)先生の監修のもと、気になるグレーゾーンのモヤモヤを解決していきます。

ひょんなことから、デザイン事務所勤務の会社員リリコのポケットに棲みついた「六法全書」の妖精にして辣腕弁護士のエリカちゃん(モデルは篠田先生です)に、みなさんがもっと自由に、もっと幸福に、人生を謳歌するためのスパルタ・リーガルレッスンを展開してもらいましょう。

【ポケット弁護士エリカちゃんシリーズはこちら】


〈今回のポイント〉
【1】会社のパソコンにコーヒーをこぼしちゃった! これって賠償……?
【2】会社のコピー用紙を持って帰るのはアリ?ナシ?
【3】経費を立て替えて溜まったマイレージ、旅行に使ってOK?

〈登場人物〉

リリコ(32歳)
小さなデザイン会社に勤める中堅デザイナー。基本的に他力本願。趣味はネイル、お酒(ワインと焼酎)、サイゼのお気に入りメニューは「ミラノ風ドリア」。例えれば、だらしない石原さとみ。

エリカちゃん(永遠の30歳)
「六法全書」の妖精。本名はオピストコエリカウディア・スカルジュンスキィ。辛口で正論をバシバシ言うが、困っている人は放っておけない姉さんキャラ。例えれば、リカちゃん人形サイズの真木よう子。

会社のパソコンを壊してしまった!

時計はもうすぐ23時。静まり返ったオフィスで、うんともすんとも言わなくなったパソコンとにらめっこを始めて2時間になる。ここ数日徹夜が続いていたせいか、データ納品したあとデスクでうとうとしてしまい、あろうことかパソコンにコーヒーをこぼしてしまった。

最悪なのは、いつもは定時で帰る経理担当のナナミ先輩がたまたま残っていてそれを目撃されたってこと。普段からソリの合わないナナミ先輩は、慌ててパソコンを拭く私に勝ち誇った顔で「それ、弁償だから」と告げて、帰って行った。あーーームカつく!!! でも、これって本当に弁償しなきゃいけないんだろうか……。今月来月は友達の結婚式ラッシュだし旅行の予定もあるし、正直そんな余裕ないよ……。

「ぐすんぐすん……どうしよう〜〜〜〜!!!!」

「ちょっと〜リリちゃん、また泣いてるの〜? 32歳の女が泣いて解決することなんて世の中にはないわよ〜」

「エリカちゃん!一体どこに行ってたの!?……って酒臭っ!」

「接待よ、接待! 私も暇じゃないの! 前にも言ったけど、社長賞がかかってるんだから……」

「え、社長賞……?」

「今回は何なの? 簡単に説明してちょうだい」

「実はかくかくしかじか……」

「なるほどね。ズバッと言うけど今回の場合は、賠償する必要はないわ」

「そ、そうなの? 酔って適当なこと言ってない?」

「失礼なこと言わないで! もちろんコーヒーをひっかけちゃったことに対してものすごい過失があった場合、賠償責任は出てくるわ。けれど、徹夜で仕事をしていてうっかり手を滑らせてしまったというのは、そんな重大な過失だとは思えないわ。なんなら、相変わらず残業代をもらってない方が問題ね!」

「そうなんだ。ちょっとホッとしたよ……」

会社のコピー用紙を持って帰って懲役10年!?

「それにしたってリリちゃんの机、汚いわね〜。よくこんないっぱい物があって仕事できるわ〜。あら?この紙……ファンタスティック台湾4日間3万円……」

「ぎくっ」

「これ、個人的な旅行を会社で予約して、しかもそこのプリンターで印刷したわね?」

「わ、悪い? 昼休みにちょっと使っただけだけど?」

「う〜ん。こういうのって微妙な問題で、就業規則でパソコンの個人的な利用について禁止している場合、懲戒処分の対象になる可能性があったりするわけ。あと、この紙、家に持って帰るでしょ? そうすると窃盗罪ね。懲役10年」

「えええええええええ!?!?!?」

「例えば会社のポストイットやクリップを家に持って帰るって結構みんなやってると思うんだけど、本来それって窃盗罪なのよ。まあ、黙認している会社が多いと思うけど。ただ、あなたの場合、ナナミ先輩だっけ?そういう重箱の隅をつつくような人がいるんだから、ちょっとでもリスキーなことはしないようにした方がいいんじゃない?ストレスが増えるわよ」

「な、なるほど……。気をつけます!」

経費立て替えで溜まったマイルは誰のもの?

「そういえば、リリちゃんって会社から支給された携帯って持ってないの?」

「持ってるよ。でもガラケーで使いにくいから自分のスマートフォンで仕事してることが多いかな。あ、そういう場合は会社で携帯を充電してもいいよね?」

「いいところに気がついたわね。そうね。業務で使用している場合、問題ないわ。もちろん、完全にプライベート用の携帯を充電するのは電気窃盗罪にあたる可能性があるわよ」

「ふむふむ」

「ちなみに、自分の携帯を業務で使用しているんなら、その分の携帯代は会社に請求可能なこともあるわ」

「そうなの!?」

「使用料があんまり高額になる場合、会社に相談してみるのをオススメするわ」

「ねえ、エリカちゃん。ついでに聞きたいんだけど、私こないだ会社の備品を自分のクレジットカードで買ったの。合計10万円くらいだったからカードのマイルが結構貯まったんだけど、こうやって貯まったマイルを個人的に使うのってマズいのかな……?」

「リリちゃんもだんだんいい質問をするようになってきたじゃない。リーガル・マインドがちょっとは備わってきたって感じがするわ! 私のおかげね!」

「う、うん……ありがと(またエリカちゃんを調子に乗らせてしまった……)」

「今の質問だけど、会社が立て替え払いの方法を指定していない場合や、個人のクレジットカードの使用を許している場合は、従業員がマイルを取得することも許しているってことになるわ。だからこれはセーフ」

「よかった!これで心おきなく台湾に行けるよ!」

「補足しとくと、高額な経費を立て替えること自体は法律で決められているわけじゃないし、就業規則によるから違法ってわけじゃないわ。でも本来“お金を立て替える”ってことには、基本的に利息が付くの。だから高額な立て替えを従業員にさせる場合、利息の支払いや、何らかの手当てがあってしかるべきだと私は思うわね」

「そうなんだ〜!経費の立て替えって当然だと思ってたから考えたことなかった……」

「リーガル・マインドがないせいで、損することって本当に多いの。だからリリちゃんにはもっと法律の知識を身につけて、ちゃんと幸せになってもらわないとね! 何と言っても私の社長賞がかかってるんだから!」

「ねえ、こないだから言ってる社長賞って本当に何なの?」

「あ〜私も台湾って行ってみたかったのよね〜楽しみ〜」

「え!?エリカちゃん、ついてくる気なの!?」

「当たり前でしょ! リリちゃんのことだから海外旅行なんて、絶対リーガル・トラブルがあるはずだもの」

「そんな〜〜〜」

とはいえ、絶対大丈夫!と言えない自分が悲しい……。でも、さっきまでの絶望的な気持ちが、エリカちゃんのおかげでググッと前向きになれた。そうだ!こんなことで落ち込んでいられない! 私は台湾旅行に行くんだから!! 週末は一緒に行く予定のララコと旅行の打ち合わせだ。ファンタスティックな台湾を心に描いて、今週も頑張って乗り切るしかない……! 

やはり酔っ払っていたのか、ポケットの中に戻ったエリカちゃんはすやすや眠っている。動かなくなったパソコンは明日修理に出すとして、今日のところはひとまず帰ることにしよう。

〈今回のまとめ〉
【1】 会社のパソコンにコーヒーをこぼしちゃった!これって賠償……?
重たい過失があった場合は賠償する必要があるけれど、今回の場合は大丈夫!でもケースバイケースだから、トラブルにつながりそうだったら弁護士に相談するのがオススメよ!
【2】 会社のコピー用紙を持って帰るのはアリ?ナシ?
本来はナシ! 窃盗罪になり、10年以下の懲役になる可能性だってあるわ。訴えられることは稀だと思うけど、会社の備品は業務に使うためのものっていう基本は忘れずにいるべきね!
【3】 経費を立て替えて溜まったマイレージ、旅行に使ってOK?
会社が立て替えの方法を指定していなかったり、個人のクレジットカードの使用を認めていたりする場合は横領罪に該当しないわ! だからOK!

(阿部 洋子)