連続テレビ小説「とと姉ちゃん」(NHK 総合 月〜土 朝8時〜、BSプレミアム 月〜土 あさ7時30分〜)第10週「常子、プロポーズされる」第58話 6月9日(木)放送より。 
脚本:西田征史 演出:大原拓


結婚・・・の言葉を受けて、頬の涙を指で拭う仕草が愛らしい高畑充希。
「僕と大阪に行ってください 共に植物に囲まれて暮らしましょう」
武蔵(坂口健太郎)のオリジナリティあふれるプロポーズ。
見ているほうとしては、すこぶるあたたかい気持ちになる。優しく話の合う、いっしょにいて楽しい人と生涯を共にできればどんなに嬉しいだろう。
だが、常子(高畑充希)は、その日からから高熱を発して寝込んでしまう。
武蔵と結婚して子供を作ったものの、貧乏生活になって借金とり(歯磨き粉のエピソードに出てきたひとたち)に追われる悪夢を見てうなされる常子(セットをといたストレートの横一本結びも可憐。氷嚢を吊るす道具も素朴でいい)。

結婚とは、楽しく会話して植物に囲まれているだけでは済まないことを「とと姉ちゃん」はやんわりと提示する。
すでに、一家の大黒柱として家族の生活を支えている常子だから、研究者としての武蔵の生活をも支えないとならない現実が見えてしまうのだろう。もしや、いずれ立派な教授になって家を建ててくれるやもしれないという打算は働かない。かの植物学者・牧野富太郎先生も相当経済的にご苦労されたようだから、簡単にはいかないだろうし。
武蔵が、お父さん代わりになっている常子を救いたい、僕が君を幸せにするという気持ちであったら、どんなにいいか。でも、そうではないところが「とと姉ちゃん」。おしとやかなわりに、なかなか手厳しい。

いや、もう、ほんとにおしとやか。57回で、名前出されて放置された鞠子(相楽樹)は、58回で「私まで巻き込まないでよね」と美子(杉咲花)にやんわり言った。昨今のドラマは、心のオンオフを同時に見せてしまうことが多く、小気味好い反面気ぜわしい。それに比べて「とと姉ちゃん」はゆったりしている。
美子を叩いたことを三つ指ついて謝るかか(木村多江)、同じくちゃんと謝る美子という親しき中にも礼儀ありなところも好感がもてる。

自分が裁縫することを「おやつのため」と言われてむくれる美子の本音を「そんなことで怒ってるの」と鞠子に呆れれてしまうたわいのなさも、日常あるある。新しさや奇をてらったことを求めすぎてとりこぼしてしまいそうなささやかなできごとを「とと姉ちゃん」はていねいに掬い上げている。
(木俣冬)