左・「週刊文春」(文藝春秋)2016年6月16日号/右・「週刊新潮」(新潮社)2016年6月16日号

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 芸能人、政界、企業のスキャンダルや不祥事を次々スクープし、常に話題を提供し続けている「週刊文春」(文藝春秋)。だが、そんな向かうところ敵なしの"センテンススプリング"内部で"トホホ"なトラブルが発生、出版業界に別な形で話題を提供している。

 そのトラブルというのは、なんと、同誌の記者がライバルの「週刊新潮」(新潮社)で記事を書いたことが編集部にバレて、クビになったというもの。

「この記者は、NHK出身のT氏。2013年から『文春』で契約記者をやっています。『新潮』に書いたのが発覚したのは先週で、その段階では謹慎処分だったんですが、今週月曜日にクビが言い渡され、水曜日には荷物を片付けに来ていました。本人はここまで大事になるとは思っていなかったようです」(「週刊文春」関係者)

 たしかに、週刊誌の契約記者は正社員ではないし、他媒体で"アルバイト"をするというのは、特別珍しい話でもない。しかし、それがライバルの「新潮」となると、さすがに掟破りとして、許されなかったということらしい。「文春」の新谷学編集長は先週木曜日のプラン会議で、「裏切られた。巨人のエースが覆面をして阪神で投げるようなもんだ」と激怒していたという。

 しかし、新谷編集長が激怒し、T記者にクビを言い渡したのは、それだけが理由ではなさそうだ。この厳しい処分にはT記者の扱っていたテーマと"アルバイト"の内容、そして、発覚した経緯が大きく関係しているのではないかといわれている。

 そもそも、文春記者T氏が「新潮」で書いたのは、同誌5月19日号に掲載された「こじれた沖縄を牛耳る『琉球新報』『沖縄タイムス』の研究」なる記事だった。

 これは、タイトル通り、典型的な"沖縄バッシング"の記事である。4月1日に芥川賞作家の目取真俊氏が米軍に拘束された(のちに解放)件についての沖縄2紙の報道が〈過剰警備による不当逮捕と印象づける狙い〉〈基地移設への反対運動のためなら法を犯しても良いという論調〉だったという記述から入り、基地に反対する「琉球新報」「沖縄タイムス」を徹底的に攻撃。さらに、米軍キャンプ・シュワブゲート前での抗議活動についても、〈地元住人による反対運動を装った過激派の活動〉などと、ヘイトまがいの一方的な批判に終始していた。

 だが、これが結果的にT氏にとって命取りとなる。「新潮」の記事を受けた「週刊金曜日」が、6月3日号でこれに正面から強く疑義を呈す記事を掲載したのだ。

「金曜日」はその「新潮」記事のトンデモぶりを検証する過程で、実は記事の書き手でジャーナリストという肩書きの「倉田馨」なる人物の"正体"が文春記者であるという情報をキャッチ。「新潮」「文春」双方に質問をぶつけたため、文春記者T氏の"アルバイト"だったことが編集部に知られてしまったらしい。

 このとき、問題になったのは、T記者が「文春」でも、同じような"沖縄バッシング"記事を手がけていたことだった。

 以前、本サイトでも指摘したことがあるが、「文春」は1年以上前から、官邸や内閣情報調査室、公安の情報に乗って、翁長雄志知事や基地反対運動叩きを展開していた。たとえば、「翁長知事を暴走させる中国・過激派・美人弁護士」などのような、ほとんど根拠のない煽り記事を書き立てていた。しかも、こうした記事の多くは新谷編集長が自ら企画したものだったという。

「新谷編集長は安倍首相の著書である『美しい国へ』(文藝春秋)の担当編集者だったということもあって、安倍首相、官邸中枢にかなり食い込んでいる。首相の側近である萩生田光一官房副長官とも高校、大学の同級生で、非常に親しい。そういう関係から、頻繁に官邸のリークに乗っかって記事をつくっている。翁長叩きや反基地運動批判も、新谷さんが官邸からふられて、やり始めたネタだった」(「週刊文春」関係者)

 そして、官邸の意を受けた新谷編集長が沖縄バッシングの切り込み役として使っていたのが、T記者だった。

「T氏はもともと内閣情報調査室や公安に強かったため、基地反対運動叩きの格好の人材と、重用されるようになった。一連の沖縄バッシング記事のほとんどに関わっており、沖縄にもしょっちゅう取材に出かけていた。新谷編集長が官邸から話をとってきて、T氏が内調や公安に取材をして話を膨らませる、というのがパターンでした。ところが、そのT氏の公安、内調人脈に目をつけて、『新潮』のIデスクが原稿を依頼してきた。IデスクはT氏とNHK時代からの知り合いで、断りきれなかったようです」(週刊誌関係者)

 自分たちで記事をつくろうとしないで、ライバル誌の記者に原稿を依頼するとは、「新潮」もえげつないが、いずれにしても、新谷編集長にとってT氏はたんなるいち記者でなく、自分が官邸の意を受けて仕掛けているネタの"共犯者"でもあったのだ。そんな"子飼い"にネタを横流しされたということで、怒りが爆発してしまったのだろう。

 しかし、「文春」の新谷編集長は激怒する前に、そもそも自分がT記者を使ってやってきた記事づくりを恥じ入るべきではないか。

 前述のように、今回の一件は「金曜日」が暴いたものだが、同時に「金曜日」はT記者の取材がいかにずさんで、記事がいかにデタラメだったか、ということも徹底的に検証している。

 たとえば、「新潮」の記事には、「沖縄タイムス中堅記者」の話として、「前もって編集幹部がその日の紙面の方向性をガチガチに決めるので、記者はそれに嵌まる原稿を書くだけ。社内で自由に意見も言えず、昨年にはそんな社風に嫌気が差して、連載記事で高い評価を受けたエース記者が会社を去りました」というコメントが掲載されていた。

 しかし、「金曜日」が、この「会社を去ったエース記者」である、昨年、沖縄タイムスを退職したジャーナリスト・渡辺豪氏にこのコメントについて当てたところ、渡辺氏は「私のジャーナリストとしての生き方、根幹を否定されたようなもので強い憤りをおぼえます」と、完全否定。しかも、T氏が書いた記事を担当した「新潮」のI氏は、渡辺氏と面識があり、連絡を取れる間柄でありながら、このコメントについて渡辺氏に事実の確認していなかったことも判明したのだ。

 他にも、「金曜日」には、「新潮」の記事の嘘が次々と暴かれているが、沖縄バッシング記事がデタラメなのは、これまでの「文春」の記事も同じだ。たとえば、前述した「翁長知事を暴走させる中国・過激派・美人弁護士」なる特集記事などもそうだ。
 
「公安関係者」のあやしげなコメントがいくつも登場し、翁長知事をなんとか貶めようという意図は見えるのだが、肝心の事実がまったく書かれていない。

 同記事には、中国国際友好連絡会という団体が人民解放軍の工作機関で、翁長知事当選の2日後に沖縄入りしたという意味ありげな記述があるが、この団体はたまたま沖縄入りしただけで、翁長知事とは会ってもない。他にも、公安関係者の情報として、翁長知事と何の関係もない琉球独立運動の団体に中国が食指を伸ばしていることや、反対運動に革マル派が入り込んでいることをあげつらい、それだけで、翁長氏が中国と過激派に操られているかのように結論づけるのだ。あげくは、例の「基地反対派の女児暴行デマ」の発信源である"沖縄のネトウヨ"手登根安則氏の基地反対派批判コメントを紹介し、「住民の八割は基地容認」などというデマを喧伝する──。

 まるでネット右翼御用達まとめサイト「保守速報」の記事かと見紛うばかりの内容だが、他の記事も同様だ。全国紙の公安担当記者は「文春」「新潮」の沖縄バッシング記事の作り方をこう警告する。

「もしかしたら、公安のネタだからと、ありがたがっているのかもしれないけど、公安、内調の流している情報なんて、裏をとっていない陰謀論がほとんど。こんなものに乗っかったら、スタンス以前に信用をなくしてしまうと思うよ」

 ようするに、今回の一件は、たんにライバル週刊誌間のトラブルというだけでなく、保守メディアによる反基地運動バッシング記事がいかにずさんな取材によってつくられているかを、白日の下にさらすことになったというわけだ。

「週刊文春」も「週刊新潮」も今回のトラブルを機に、こんな謀略機関との関係は即刻、断ち切るべきだろう。
(田部祥太)