セリエAでプレーするFWたちのゴールに対する執着心は凄まじく、「ラスト3分の1のところの要求レベルはすごく高かった」という。写真:小倉直樹(サッカーダイジェスト写真部)

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 現在の日本代表に合うFWとはどんなタイプなのか。そして世界を見据えたうえで必要なFW像とはどんなものなのか。日本代表で数々の死闘をくぐり抜け、イタリアやスコットランドで様々なタイプのFWとプレーしてきた『ファンタジスタ』中村俊輔に話を訊いた。

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 2002年7月、中村俊輔は24歳で海を渡り、イタリアはセリエAに戦いの場を移した。所属していたレッジーナは強豪クラブではなかったが、自身のサッカー観は大きく変わった。自身を『ファンタジスタ』と称し、ゴールを演出することを生業とする中村は、カルチョの国で異彩を放つストライカーたちに衝撃を受けたという。
 
「イタリアでプレーしているFWは、練習からゴール前だけは絶対に手を抜かない。なぜかというと、彼らはヒーローになれることを知っているから。だからラスト3分の1のところの要求レベルはすごく高かった」

 ラストパスのタイミングや精度が少しでもズレれば、ゴールは生まれない。ましてや毎シーズンのように残留争いに巻き込まれるレッジーナにおいて、それは死活問題にもなりかねない。厳しい環境に身を置くことで、最終局面の重要性を体感した。

 横浜に帰還した今も、時間を見つけては欧州各国のリーグを視聴し、自身の血肉に変えている。15-16シーズンでいえば、レスターの一員としてプレミアリーグ制覇を成し遂げた岡崎慎司のプレーを見る機会も多かったようだ。日本代表でもともにプレーした後輩FWについても賛辞を惜しまない。
 
「岡崎は守備の部分ばかりがフォーカスされているけど、それだけではない。プレーを見ているとゴールの匂いもする。どうしても(ジェイミー)バーディーの陰に隠れてしまうけど、彼はゴール前での“嗅覚”という武器を高いレベルで持っている」
 
 中村はチャンピオンズリーグでの日本人初得点者という一生色褪せない肩書を持っており、日本代表の中心選手としても長きに渡り世界と戦ってきた。そして、様々なタイプのストライカーとタッグを組み、ゴールを演出してきた。
 
 おそらくFWには武器が必要だ。では、その強さがいかにして決まるか。稀代のファンタジスタはひと呼吸置いたあとに、独特の言い回しで表現した。
 
「どの選手にも特徴がある。ただ、ストライカーに限って言えば、相手DFに対して相対的に上回っている能力が必要。それがないと脅威にならないし、仲間からの信頼を勝ち取ることもできない」
 その持論に従って言えば、Jリーグで活躍している選手が必ずしも世界レベルで結果を残せるとは限らない。日本人CBのレベルアップも重要な要素で、イタリアでは屈強CBを相手にFWが腕を磨く様子を目の当たりにしてきた。
 
 日本人FWもそれぞれが武器を持っている。そのなかで、中村はかつてチームメートとして戦ったひとりの選手の名を挙げた。
 
「今は真っ先に岡崎の名前だろうけど、それ以前に欧州リーグでしっかり結果を残していた選手といえばタカ(高原直泰)」
 
 磐田で圧倒的な得点力を示して得点王に輝き、ブンデスリーガ1部のハンブルガーやフランクフルトでも結果を残したストライカーは、どの点が優れていたのか。
 
「タカはとにかくゴールの形がたくさんある。ヘディングひとつ取っても、ファーサイドに入れば高さがあるし、ニアサイドに入って泥臭くねじ込むプレーもできる。ボレーシュートは左右両足遜色なくミートが上手い。そういう選手は出し手としてもゴールのイメージを作りやすい」
 
 豊富なシュートパターンでゴールを量産してきた高原は、局面における戦いで相手CBに勝ってきた。対峙するDFをいかにして上回るか。日本人FWが、ひいては日本代表が世界で戦うための最重要課題かもしれない。

取材・文:藤井雅彦(ジャーナリスト)