世界最大のレース、インディ500を終えたばかりだというのに、インディカー・シリーズはデトロイトでシリーズ第7戦、第8戦が開催された。ダウンタウンのすぐ北に浮かぶ島に特設されるストリートコースでのダブルヘッダーだ。

 開幕戦といえばフロリダのリゾート地セント・ピータースバーグ。次は伝統があり、人気も絶大なロングビーチ・グランプリ。レース通が多く、アメリカとは違った盛り上がりを見せるトロント......ストリート・レースだけをとり上げてみても、インディカーではそれぞれのレースに特徴、個性がある。デトロイトはアメリカ自動車産業の本拠地というだけでもレースの舞台にうってつけだが、サービス精神旺盛なアメリカ人は、シリーズ唯一のダブルヘッダーという特色をプラスした。

 ファンはダブルヘッダー大歓迎だ。2013年から始まったこの方式、2レースをやってもチケットの値段は2倍にならないどころか据え置き! 4年目の今年もお値段はほとんど変わっていなかった。デトロイトのファンだけお得というのも不公平だし、いっそのこと全イベントをダブルヘッダーにしちゃえばいいのに、とも思う。

 でも、オーバルでは難しい事情もある。クラッシュしたらダメージが大きく、修理に時間がかかって2レース目に出場できなくなるし、ドライバーも脳震とうを起こしたら翌日のレースに出場できないルールだからだ。

 レースに出場する側にすると、ダブルヘッダーはなかなか大変だ。ふだんは3日間で予選を含めた1レースを行なうのだが、そこに予選2回と決勝2回を押し込んじゃうのだから、マシンを調整するための走行時間が少なくなる。トラブルは小さなものでダメージ甚大。セッティングがうまく進めば2レースを気持ちよく戦えるけれど、セッティングで躓いたらマシンが不完全なまま2レースを走る苦悩が待っている。

 ドライバーが無理をしてマシンを壊せば、チームに与える悪影響はあまりにも大きい。経済的にも痛いが、4月下旬から休みなく働き続け、疲労困憊しているクルーたちにマシンの修理という仕事を増やしてしまうからだ。デトロイトの翌週はテキサスで第9戦がある。マシンをオーバル用にコンバートする作業も彼らはこなさなくてはならない。

 デトロイトの走行時間の短さは、2週間にわたるビッグイベント、インディ500の直後だから、なおさら強く感じる。インディでは予選だけで2日間、プラクティスは7日間もあった。それも、初日は4時間、翌火曜からの4日間は各6時間、予選後の月曜は3時間半、決勝前の金曜は1時間と、比較にならないぐらい走行時間が多かった。「条件はみんな同じ」と、デトロイトでドライバーたちが不平を口にすることはなかったが、マシンの仕上がりの善し悪しは、こういう短時間勝負でより大きく現れる。

 最速は、間違いなくチーム・ペンスキーだった。デトロイトのレースのプロモーターは、彼らのチームのオーナー、ロジャー・ペンスキー。デトロイトのコースは路面状態の悪さで知られるが、「自分たちが速さを保っている限り、コースがスムーズにされることはないだろう」なんてライバル・チームからはひがむ声も聞こえてきた。彼らのサスペンション・セッティングは、レベルが完全に一段上。モニターで見ていてもマシンの上下動が他より明らかに少なかった。ドライバーの体への負担も小さそうだ。

 レース1(第7戦)はピットタイミングが絶妙だったKVSHレーシングのセバスチャン・ブルデーが優勝したが、レース2(第8戦)ではペンスキーのドライバー4人のうち3人が代わる代わるトップを快走。ちょっとした運も味方につけたウィル・パワーが勝った。1年以上勝てていなかった彼は、表彰式で大喜びした後、安堵感に浸っていた。

 荒削りだが、とてつもなく速いドライバーだったパワーは、ペンスキー入りして勝利を重ねたが、なかなかタイトルには手が届かなかった。3回もランキング2位で終わる悔しさを味わった後、2014年に念願のチャンピオンに。いよいよパワー時代の到来か......と思ったら、2015年は不振に陥った。チーム入りした強力なライバル、ファン・パブロ・モントーヤを意識し過ぎて自分のペースを見失ってしまったのだ。

 再起を誓って臨んだ今シーズンは、開幕戦でポールポジションを獲った後、体調を崩して決勝を欠場。悪い流れを断ち切れず、勝ちたくて仕方のないインディ500もいいところなしで終わり、デトロイトを迎えていた。今回の勝利でスパッと吹っ切れて、また以前のパワーのような速さが蘇ってほしいものだ。開幕5戦で3勝したシモン・パジェノー(チーム・ペンスキー)がこのまま逃げ切ったのではおもしろくない。

 佐藤琢磨(AJ・フォイト・レーシング)はパワーとは逆に、短いプラクティスで思うように力を発揮できなかった。ペンスキー、アンドレッティ・オートスポート、チップ・ガナッシ・レーシング・チームズの3強より2台少ない2カー体制で戦う琢磨。チームメイトのジャック・ホークスワースは、予選1回目と1レース目の両方でマシントラブルに見舞われ、どちらも1周も走れなかった。マシンが決まりきらずに少しでも多くのデータが欲しい状況だというのに、悪い時には悪いことが重なるものだ。

 走るたびにマシンに変更を加え、レース中のピットストップでもセッティングを調整し続けた結果、琢磨は2レース目の半ばになって、トップグループと遜色のないペースで走ることができるようになった。

 レース1は予選も決勝も11位。レース2は予選16位で、決勝はスタート直後の多重アクシデントの中で追突されて最後尾まで下がりながら、大きく巻き返して10位だった。

 過去にはポールポジション獲得、2位フィニッシュと好成績を残してきたコースだけに、満足できない結果だが、我慢強く戦い抜いて、マシンを壊すこともなかった。テキサスからのシーズン後半戦、態勢を立て直して大暴れをしてもらいたい。

天野雅彦●文 text by Masahiko Jack Amano