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●ワクチンで予防できる感染症を知る
各地で梅雨入りが確認されており、いよいよ夏到来の足音が近づいてきた。その一方で、そろそろ8月のお盆休みの予定を立て始める人もいるのではないだろうか。例年、この時期に海外旅行へと出掛ける人も少なくない。

ところで、そんな楽しい海外旅行に行く際、現地での感染症を警戒してワクチンを接種した経験がある人はいるだろうか。胃腸薬や風邪薬などといった常備薬を持ち込む人は珍しくないが、感染症予防のためにワクチンを打っている人は少ないはずだ。

本稿では、このいわゆる「トラベルワクチン」に対応している感染症の種類や、ワクチン接種時のポイントなどを千駄ヶ谷インターナショナルクリニックの院長・篠塚規医師の解説をもとに紹介する。

○致死率の高い恐怖の感染症

まず、ワクチンで予防できる感染症は「A型肝炎」「B型肝炎」「破傷風」「狂犬病」「ポリオ」「日本脳炎」「腸チフス」「髄膜炎菌性髄膜炎」「ダニ脳炎」などがある。

これらの感染症名だけを聞いてもピンと来ず、自分の健康と結びつけることができない人もいるだろう。だが「予防接種国別推奨リスト」によると、日本人の多くが好んで行くであろうシンガポールは「A型肝炎」「B型肝炎」「破傷風」のワクチンが、ピラミッドが有名な観光地・エジプトは「A型肝炎」「B型肝炎」「破傷風」「狂犬病」のワクチンが、それぞれ「強く推奨」されている。

例えばまひや幻覚、精神錯乱などの神経症状が出る狂犬病は、日本国内での感染例は近年報告されていないが、発病したら致死率は100%だ。日本脳炎は感染して発症した場合、致死率はおよそ20〜30%。運よく死を免れても、ひどい神経障害や認知障害、精神障害などの後遺症が残る場合がある。これらのリスクを回避するため、各種感染症発生国に渡航する前にはワクチンを接種しておいた方がよいというわけだ。

ちなみに、B型肝炎はアフリカや東南アジアなどの衛生管理の悪い場所やレベルの低い医療機関が、A型肝炎とチフスは水や生ものなどの食べ物が、日本脳炎やマラリアなどは蚊が原因となって感染しやすいという。

●ワクチン接種を決めるための判断指標
このような事実を知ると、海外に行く前にワクチンを接種していないことへの不安を覚える人もいるかもしれない。そこで、ワクチン接種の是非や、打つとしたらどの種類を打つべきか検討する際の判断指標について篠塚医師に解説してもらった。

■どの地域へ行くのか
■いつ(季節)行くのか
■どれぐらいの期間行くのか
■どのような場所に宿泊するのか(安モーテルなのか、きちんとしたホテルなのか)
■食事はどのようなものを食べるのか
■ワクチン接種用の予算はいくらあるのか
■これまでにどのようなワクチンを接種しているのか

これらの複数の指標を総合的に勘案して、ワクチンは接種する必要がある。すなわち、「バックパッカーとして3カ月現地に滞在する人」と「駐在員として現地の高級マンションに1年間滞在する人」では、ワクチン接種の必要性や打つべき種類も異なってくるというわけだ。

予算に関していえば、ワクチンは保険適用外なので、旅行先での複数の感染症に対応するように接種したら数万円の費用が必要になることも珍しくない。ただ、感染症に罹患(りかん)して1カ月入院したと仮定すると、決して高くない安全への"投資"ととらえることもできる。

実際、同クリニックには母国で接種済みのワクチン接種を再度希望したり、これから渡航する国の感染症に備えてワクチンを接種したりする外国人患者が多く診察に訪れるという。

○感染症の知識を持つ外国人と持たざる日本人への危機感

外国人がこのように感染症の情報に詳しく、積極的にワクチンを接種する一方で日本人はそうではない。感染症の知識に乏しく、トラベルワクチンの概念も一般的に浸透しているとは言いがたい日本のこの現状を、篠塚医師は憂いている。

「例えばネパールにトレッキングに行くとなったら、ヨーロッパ人は100%近くが狂犬病と肝炎、チフスのワクチンを接種していきます。日本人は逆に99%がやっていかない。その前提として、旅行用のガイドブックなどを見ても、『こういう地域にはこういう感染症がある』という情報を与えられていないんですよね。だから無知のまま何の対策もせずに現地へと行って、大変な目に遭うわけです。一方で、海外版の旅行ガイドブックにはきちんと情報が掲載されているから、外国人たちは与えられた情報から自己責任でワクチンを接種するわけです」。

渡航先の感染症に関する国内外の「情報格差」が、大多数の日本人と外国人の行動の差となって現れているのではないかと篠塚医師はみている。

有事の際に「感染症が流行しているなんて知らなかった」と嘆いても後の祭り。そんなことがないよう、渡航前に厚生労働省の「海外渡航者向け感染症情報」を見たり、しかるべき医療機関を受診したりして、自らの安全・健康は自ら守るように努めよう。

※写真と本文は関係ありません

○記事監修: 篠塚規(しのづか ただし)

千駄ヶ谷インターナショナルクリニックの院長。性感染症学会認定医。千葉大学医学部卒業。米国ピッツバーグ大学医学部勤務、医療法人社団松弘会三愛病院副院長・外科部長を務めた後、日本旅行医学会を設立。2013年5月 WHOの「INTERNATIONAL TRAVEL AND HEALTH(ITH)」の編集会議に編集委員として参加するなど、日本における旅行医学の第一人者として活躍する。

(栗田智久)