04年アテネ大会で指揮を執った山本昌邦監督は、「アテネ経由ドイツ行き」とテーマを強調し続けた。五輪は必ずしもゴールではない。五輪をステップにして、さらに2年後のワールドカップで戦う選手を育てていくことが最大の目標だと公言した。

 しかしJFA(日本協会)は、毎度方針は現場任せで明確なスタンスを打ち出してこない。「メダル獲得」は合言葉のようになっているが、結果至上で臨むのか、その先にあるフル代表への足固めが優先なのか、そこが曖昧だからファンの想いも揺れ動く。

 また国際的な五輪の位置付けも、判断を難しくしている。特に今年は五輪直前にEUROとコパ・アメリカが同時に開催されるので、当然所属クラブの意向もあり、五輪との重複出場はほとんど見られない。今回のコパ・アメリカは記念大会で、ブラジルが五輪を自国開催するなど様々な事情が絡むが、本来なら概して大陸選手権のほうが五輪より優先順位が高い。

 しかし日本では、一般的に五輪がスポーツ界最大のイベントだと捉えられているので、サッカーも一角を占める以上、そこで話題を提供できていないと人気にも悪影響が出る。五輪好きの日本だからこそ、サッカーにとっても新規ファン開拓の絶好のチャンスで、結果に拘らなければならない事情がある。

 ただし五輪に結果至上で臨むとしても、やはりOA枠使用の是非を決めるのは難しい。サッカーの面白さや難しさは、プレミアリーグの結末やJ2の途中経過などが十分に証明 している。C大阪や千葉と比べれば、一昨年までJFLに所属していた山口の選手たちは個々の知名度や実績では格段に劣る。ところがJFLから積み上げて来た組織力で、豪華メンバーを集めた千葉やC大阪に快勝している。OA枠の発表はトゥーロン国際大会を終えた後になるわけだが、直前に合流した実力者がすぐに好影響を及ぼすとは限らない。
 例えば、86年メキシコ・ワールドカップを目指した日本代表は、堅守から粘り強い戦い方で韓国との決定戦まで勝ち上がった。しかし決定戦を前に、日本国籍を取得したばかり の与那城ジョージと、当時読売クラブの得点源として活躍していた戸塚哲也を招集し攻撃力を強化する。つまりふたりの補強は、チームカラーの微妙な変化を意味した。

 だが東京でのホームゲームで韓国は予想以上に慎重な入り方をしてきた。むしろ攻勢に出た日本の背後のスペースを戦術的に突き、2ゴールを奪い快勝するのだ。当時国内では最高の攻撃的MFだった与那城がスタメンとしてピッチに立ったのは、ソウルでのアウェー戦だけで「そのまま堅守スタイルを貫いたほうが良かったのでは」という声も出た。

 もはや五輪が近づけば、メディアがOA枠問題で騒ぐのは恒例行事だ。そして現在スポーツ紙が盛んに取り上げるのが、大久保嘉人の招集問題である。確かに大久保なら話題性として申し分がない。J1で3年連続得点王を獲得し、通算得点記録も更新中だ。だがJ1での川崎と、五輪の中での日本の立ち位置は著しく異なる。

 Jリーグ内での川崎は、圧倒的なポゼッションを誇った少し前のバルセロナと似た立場にある。12節の神戸戦を例に取れば、相手にはペナルティエリア外からのFK1本しかシュートを打たせていない。圧倒的なポゼッションで、カウンターでもボックスの中でも流麗に崩し切る。大久保は、そんな絶妙な連係の中でストレスなくプレーし、ワンタッチでゴールに流し込むのだ。つまり大久保を活かすなら、大島僚太とともに中村憲剛や小林悠も必要になる。

 あくまで年齢別世界大会という位置付けの五輪は、最終目標ではない。さすがにJFAが近未来の目標を明示しているのも、フル代表のランキングやワールドカップでの成績である。それならOAの選択も、当然未来への投資を含めた判断が下されるべきだろう。五輪は結果至上でも、思い出作りの場ではない。そこは一線を画しておくべきだと思う。

文:加部 究(スポーツライター)