卓越したテクニックと戦術眼で左サイドを制圧した宇佐美。多くのチャンスを作り出し、清武の先制点をアシストした。写真:茂木あきら(サッカーダイジェスト写真部)

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[キリンカップ]日本代表1-2ボスニア・ヘルツェゴビナ代表
6月7日/市立吹田サッカースタジアム

 ボールを持てばなにかが起きる――そんな予感と期待を抱かせてくれたのが、宇佐美貴史だった。
 
 ボスニア・ヘルツェゴビナとのキリンカップ決勝では、4-3-3の左ウイングで先発。序盤から相手にペースを握られる展開も、徐々に日本が主導権を奪い返していく過程で、背番号11の存在感は際立っていた。

 12分、岡崎慎司の仕掛けが失敗に終わり、こぼれたボールを拾うと、狙いすましたシュートで相手GKを慌てさせる。

 15分、裏への動き出しで森重真人のロングフィードを引き出し、そこからの流れでペナルティエリアの角付近でマイボールにすると、絶妙なタメを作りながら、長谷部誠に預ける。長谷部はこれをダイレクトで前にいる清武弘嗣に叩き、清武の際どいシュートが生まれる。
 
 25分、センターラインから清武をスペースに走らせる正確な浮き球パスを供給。相手に囲まれた清武からバックパスを受け、エリア内でスタンバイしていた浅野拓磨にライナー性のクロスをピンポイントで合わせて決定機を演出。

 そして28分、日本に待望のゴールが生まれる。左サイドをスルスルとドリブルで持ち運び、背後で攻め上がる長友佑都を囮に使いながら、一気に加速してエリア内に侵入。左足で折り返したところを、清武が叩き込んだ。

 さらに前半終了間際には、緩急のある切り替えしで相手の逆を取り、惜しいシュートを放つなど、とりわけ前半に限って言えば、文字通り“手がつけられなかった。”
 
「あれだけボールが入ってくれば、良い形でやれるなとは思いました」
 
 ハイパフォーマンスの要因として、宇佐美自身が左サイドへの高い供給率を挙げるように、“パスが来るから、チャンスに絡める”という分析は確かに正しい。ただ一方で、“チャンスに絡めるから、パスが来る”との見方も成り立つはずだ。左サイドへの供給率を高めていたのは、宇佐美自身の高いパフォーマンスにほかならない。

 試合会場が、普段から馴れ親しむG大阪のホームグラウンドだっただけに、特別なモチベーションでやれたかといえば、「そんなに気負うことなく、いつもどおりにやれました」と自然体だったという。
 自らのプレーを振り返れば、「楽しかったですね」と素直な感想を述べる。ただ、言葉とは裏腹にその表情が曇りがちなのは、試合に勝てなかったからだろう。
 
「崩せない相手でもなければ、負ける相手でもなかった」
 
 悔しさを滲ませるが、「結果、負けているのは、“そういうところ”が足りなかったのかなと思います」と、冷静に敗戦を受け止めている。

 宇佐美が言う“そういうところ”とは、後半の戦い方を指す。
 
「良いテンポではなかったし、カウンターも食らった。もう少し、時間を使いながら、工夫をして、揺さぶりをかけながら隙を突いていく感覚でやれれば良かった」

 前半は、自身がいる左サイドに攻撃が偏り過ぎていた。そのバランスを正そうと、後半は「(右ウイングの浅野)拓磨のほうをもっと使おう」という狙いのなか、「右でシンプルに行きすぎたのかもしれない」と反省を口にする。

 このアンバランスさを改善しようと努めたが、74分に小林祐希との交代を命じられる。
 
「自分は全然、疲れていたわけではなかったので」

 後半はまだ1本もシュートを打っていなかっただけに、後ろ髪を引かれる思いでピッチを後にしたはずだ。
 
 この日、やり残したことは、9月から始まる最終予選で思い切りぶつけてほしい。
 
取材・文:広島由寛(サッカーダイジェスト編集部)