忌憚(きたん)のないコメントで知られる、チャールズ・バークレーが大絶賛していた。

「ヤツは本物だ。7試合続けて、近くで見たのは初めてだったけれど、あいつはこのリーグで必ずスターになる」

 バークレーがそう称賛したのは、オクラホマシティ・サンダーのスターティングセンター、スティーブン・アダムスだ。今年のプレーオフでもっとも成長し、評価を上げ、知名度も上げ、人気を集めた選手のひとりだ。

 バークレーも、今季のNBAウェスタン・カンファレンス決勝の名勝負――サンダー対ゴールデンステート・ウォリアーズを見て、すっかりアダムスに惚れ込んだようだ。サンダーは王者ウォリアーズを追い詰めながらも、あと一歩及ばずに敗退したが、それでも、先の可能性を感じさせるチームとして、多くの人に強烈な印象を残した。そして、将来性を感じる理由のひとつに、アダムスの存在がある。

 今シーズン半ばにサンダーと契約したベテランセンターのナジー・モハメドは、シーズン後にアダムスについて聞かれて、「試合中に叫んだりして、変なヤツだと思っていたけれど、2週間前に、まだ22歳だと知って驚いた。27〜28歳ぐらいだと思っていたよ」と笑った。

 たしかに、長髪にヒゲという彼の風貌は、実年齢より上に見える。風貌だけでなく、周囲に動じることなく、相手の挑発に乗ることもなくプレーし続ける様子も、年齢以上にベテランに見える理由かもしれない。

 そんなアダムスは、少し変わった経歴の持ち主だ。出身はニュージーランドのロトルアという街。ロトルアは温泉が多く湧き出ている街で、アダムスいわく、「いつでも、誰かが顔の前で屁をこいたような臭いがしている街」らしい。思ったことを躊躇(ちゅうちょ)なく口にするのも、アダムスの魅力のひとつだ。

 18人の異母きょうだいの末っ子。体格に恵まれ、運動能力に長けた血筋で、姉のひとり、バレリーは北京五輪とロンドン五輪において砲丸投げで金メダルを獲得している。

 アダムスがその運動能力をバスケットボールに向けるようになったのは、14歳のとき。13歳で父が亡くなった後、学校に行かなくなり、地元のギャングとつるむようになった彼を心配した兄のひとり、ウォーレンに引き取られたことがキッカケだった。

 かつて、自身もバスケットボールのニュージーランド代表としてのプレー経験があったウォーレンは、元チームメイトのコーチに相談し、アダムスは奨学金で寄宿舎付きの学校に入学することができた。そこから、彼の人生は変わった――。目標に向かって努力し、達成し、成長するという世界に夢中になり、選手として頭角を現していったのだ。4年後にはアメリカの大学、ピッツバーグ大から奨学金を得て留学。そのさらに1年後には、サンダーからドラフト1巡目で指名された。

 NBA1年目の2013−2014シーズン。まだ髪も短く、髭もはやしていなかったアダムスは81試合に出場したが、出場時間は平均14.8分だった。髭をたくわえはじめた昨シーズンは、手の骨折で約1ヶ月欠場したものの、70試合に出場のうち大半の67試合でスターターとして出場。プレータイムも平均25.3分に伸びた。そして今シーズン、レギュラーシーズン中は全80試合をスターター出場で平均25.2分出場し、8.0得点・6.7リバウンドを挙げた。プレーオフに入ると出場時間は30.7分に伸び、成績も10.1得点・9.5リバウンドと向上させている。

 アダムスの持ち味は、何よりもエネルギッシュなプレーだ。フットワークがよく、反射神経もいい。ラグビー経験があり接触プレーにも慣れているからか、フィジカルな肉弾戦もいとわない。まだバスケットボールを始めて8年だが、NBAに入ってからもメキメキと成長している。

 チームメイトのモハメドは、「彼は、今のNBAが求めているプロトタイプのセンターだ」と言う。さらに「フットワークもよく、1番から5番まで守ることができるから、すべてのポジションでスイッチすることができて、試合に出続けることができる。運動能力もほとんどのセンターより上だ。シュートタッチも、みんなが知っている以上にいい」と絶賛する。モハメドだけではない。他のチームメイトたちも口々に、「彼は特別な選手だ」と期待をよせる。

 スリーポイントシュート全盛の今、リーグ全体でビッグマンの出番は減り、役割も限られてきている。そんななか、相手チームが機動性を生かしたプレーを前面に出してきても対応できるアダムスのようなビッグマンは、貴重な存在なのだ。

 また、アダムスの存在価値は、オフコートでも発揮されている。いい意味で"自由人"な彼は、得点や出場時間、役割の大小といった価値観にとらわれていない。その考え方は、周囲にも好影響を与えている。特に影響を受けたのが、同じポジションで年齢も近い、トルコ人選手のエネス・カンターだ。

 以前所属していたユタ・ジャズでは、ルディ・ゴベールの加入でプレータイムが減ったことを不満とし、トレードを要求した。だがサンダーでは、今シーズンに入って出場時間が大きく減っても不満を言うことはなく、「優勝を目指すためには、犠牲も必要だとわかった」(カンター)と言うようになった。このふたり、コートを離れても仲が良く、カンターもアダムスに説得されて口ヒゲをはやすようになり、ふたりで「スタッシュ・ブラザーズ(口ヒゲ兄弟)」を名乗っていて、ファンの間でも大人気だ。

 アダムス成長の効果は、もうひとつある。4年前にジェームス・ハーデンをトレードで出したことに対する批判が聞かれなくなったことだ。というのも、アダムスを指名したドラフト指名権(2013年全体12位)は、サンダーがハーデンをトレードで出したときに獲得した指名権なのだ。同時に獲得したケビン・マーティン(現サンアントニオ・スパーズ)とジェレミー・ラム(現シャーロット・ホーネッツ)はすでにサンダーを離れたが、この先アダムスがチームの一角を担うようになれば、ハーデンがいたときよりもバランスのいいチームが作れる。

 実際、これまでラッセル・ウェストブルックとケビン・デュラント頼みだったサンダーは今プレーオフで、彼らが崩れたり、抑えられたら終わりというチームから脱却する兆しを見せていた。地元メディアのなかからは、この夏にフリーエージェントとなるデュラントを引き留めるためのサンダーの切り札のひとつが、「若いアダムスの成長」だという声も出ているほどだ。

 もっとも、そう言った記者の言葉に対して、アダムスは目を丸くして、ニュージーランド訛りで返した。

「そうやって言われると......それを彼(デュラント)に売り込むっていうのは、なんだかインフォマーシャル(=さりげない広告)みたいだな、マイト。考えたこともなかったぜ。俺はただ単に目立たないようにして、ハードワークし、鼻を綺麗にしておく(=トラブルに巻き込まれないようにする)だけだよ、マイト」

宮地陽子●取材・文 text by Miyaji Yoko