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●現代のママが産後に養生できない理由
出産という大きな人生のイベントを終えたママの身体は疲労でいっぱいです。まず、うまれたばかりの赤ちゃんの面倒を24時間寝る間もなく、お世話しなくてはなりません。でも、それだけではないのです。自分の身体も、大きくなったおなかが急速にしぼむことで起きる「産後痛」や赤ちゃんが出た後の子宮から発する「悪露(おろ)」などに見舞われ、痛みや苦痛で大きな負担がかかっています。

本来であれば、4週間くらいは布団で休む生活をして身体を回復させる時間がほしいところですが、さまざまな事情で実現できないのが現状だと思います。そうしたママたちを労る「産後ケア施設」というものがあるのをご存知でしょうか? 今回、日本初の24時間型ケアセンターである「武蔵野大学付属 産後ケアセンター桜新町」へ入所したママの体験をご紹介します。

○「床上げ」は理にかなったしきたり

女優の小雪さんが韓国の施設(産後調理院)を利用したことで、日本でも話題となった「産後ケア施設」。「ぜいたくだ! 」と思う人もいるかと思われますが、かつては日本でも、"産後床上げ1カ月"といい、その間は布団を敷きっぱなしにし、産婦はできるだけ横になって身体を休めるというしきたりが一般的でした。その間は家事を休み、上膳据膳で産室にこもっていたそうです。

というのも当時は、産後の身体は「不浄」とされ、けがれが取れるまでの約1カ月間は産室から出ることを禁じられていたそう。それだけ聞くと、むごい風習に感じるかもしれませんが、実はこれ、産後の身体を守るために必要な、理にかなったことだったのではないでしょうか。

昔の人は経験上、産婦には十分な養生が必要という認識があったものの、「表立って嫁を休ませるわけにはいかないから」ということで、けがれという理由をつけて産室に引きこもらせ、養生を促したのではないかと推測されます。それが近代になるにつれ、裏にある産後ケアへの配慮を省き、「けがれなんてないから大丈夫」という認識に変わったように思われます。

○里帰り出産ができても養生が難しい訳

近年は核家族化が進み、地域との関係も希薄になりました。夫の手を借りたくとも、仕事に奔走していて帰ってくるのは夜中。育児に悩んでいても、身体がしんどくても、ひとりで全てを抱え込んで途方に暮れる。これが現代の育児シーンだと思います。

里帰り出産も本来は、産後に産婦の身体を家事などの負担から守り、休ませる手段として、実家で産んで世話をしてもらうというものなのですが、なかなかそれができないのが現状です。最近の祖父母世代はまだ現役としてフルタイムで働いていて、産後の娘の面倒まで見られないという声も聞きます。

また、高齢出産の増加によって、高齢者になってから孫をもったという人も少なくありません。孫はかわいいけれど、世話となると体力的にキツイという人も多いようです。なので、里帰り出産で実家へ戻ったとしても、上膳据膳でお世話してもらえるというのは、本当に恵まれた人のみでしょう。実母ではなく、義母にヘルプをしてもらうという考え方もありますが、夫の実家が遠方だったり、実母同様に高齢だったりの理由で、義母からもヘルプを受けられない場合もあります。

つまり、現代のママは産後といえども、十分に養生する機会も時間もとれないというわけです。その結果、妊娠・出産を機に、心身ともに壊してしまうママも少なくありません。そこで注目されているのが、滞在型産後ママのケア施設です。日本国内にもいくつか施設がありますが、今回は日本初の24時間型ケアセンターである武蔵野大学付属 産後ケアセンター桜新町での4泊5日の体験をご紹介します。

●食事にエステに育児テク指南……ママの気持ちに寄り添うケア
武蔵野大学付属 産後ケアセンター桜新町では、助産師をはじめ専門スタッフが産後のママをバックアップ。出産後4カ月未満のママと赤ちゃんが利用でき、プランには宿泊・日帰りのコースがあります。宿泊プランは、各種ケア・相談・食事・居室使用・寝具使用・雑費を含み、1泊税込3万2,900円(世田谷区在住者は要件により利用料が軽減される場合もあります)。24時間体制で助産師や保育士によるケアが受けられます。今回、4泊5日で利用したママの体験をレポートします。

○1日目(入所)

14:00産院からそのままチェックイン、何はともあれ睡眠から

完全母子同室の産院から、我が子を抱いてセンターへ直行。入所後、助産師に何より先に促されたのが睡眠。24時間体制で慣れないことだらけのお世話に加え、睡眠不足で疲れがたまっていたようで、赤ちゃんを預けて夕食までぐっすりと寝てしまったのこと。産後のママにとって、まとまった睡眠が何よりのケアになることを実感したそうです。産院からその足でそのまま入所したため14時に入所となりましたが、本当は10時から入れます。

18:00夕食、食事時間もしっかり確保

食堂で他のママたちと食事をします。赤ちゃんはスタッフにお願いし、落ち着いて食事をきちんととることが体力回復への近道という考えから、40分間の食事時間をしっかりと確保してくれます。「人が作ってくれたごはんをゆっくり味わえるうれしさったら! 」とのこと。

夕食後〜翌朝、夜間授乳もサポート

まだまだ睡眠不足を実感。その解消のため、授乳から次の授乳時間までの間は、スタッフが赤ちゃんを預かってくれます。ママ自身、赤ちゃんの寝ぐずり等の心配もなく、しっかり眠れたのこと。加えて、深夜でも助産師におっぱいの悩みを相談できたり、希望すれば赤ちゃんの寝かしつけの仕方を教えてもらえたりなど、きめ細かいサポートが受けられるようになっています。

○2日目

8:00朝食、しっかり寝た後の朝ごはんのおいしさ

まとまった睡眠がとれたことで、この日の朝には疲れが取れてきていることを実感。同時期に出産したママたちとのおしゃべりも最高の気分転換になり、リラックスしながら楽しい朝ごはんタイムを迎えられたとのこと。

9:00赤ちゃんの沐浴、初めてのスポンジバス

一般的な沐浴のやり方ではなく、初めて「スポンジバス」にチャレンジ。助産師さんが声がけしながら、手際よく沐浴をこなしていきます。

このスポンジバスは、防水シートやバスタオルなどの上で、少量のお湯と泡でベビーの汚れを洗い、お風呂場で流すやり方。一般的な沐浴の場合、片手でお湯の中へ入れた赤ちゃんを支え、逆の手で赤ちゃんを洗うため、手にかかる負担が大きくなります。一方、スポンジバスだと両手を使ってしっかりベビーを洗え、流すお湯は大人と同じバスタブで沸かしたさら湯を使うことができるので負担を軽減することができます。

午前中、個々の体調を見ながらケアが決まる

助産師さんと相談しながら、体調に合ったケアやサポートを決めます。せっかくなので、全身エステを希望したところ、この日はNGに。血行が良くなりすぎて、母乳が過剰に作られることが予想されるからだそうです。「体調を見ながらケアしてくれるので安心&納得」とのこと。

12:00ランチ〜午後、希望のメニューでリラックス

ランチタイムが終わり、午後の時間は授乳のタイミングに合わせながら育児相談やベビーマッサージ、エステやお昼寝など、希望のメニューでゆったりとした時間を過ごします。

18:00夕食〜翌朝、赤ちゃんとのリズムが確立してくる

2日目の夜にして、夜間授乳のリズムをはじめ、赤ちゃんとの生活リズムがだんだんとできてきていることを実感。「自分ひとりで試行錯誤していたら、なかなかスムーズにはリズムづけができなかっただろうな」と感じたそうです。

○3〜4日目

体力も気持ちの面でもすっかり元気に

基本的な流れは2日目と同じ。睡眠時間の確保と、規則正しくゆったりした時間で食事をすることでしっかりと体力が回復。育児の悩みや不安をすぐに相談して解消できたり、助産師さんから赤ちゃんのお世話のプロのテクニックを伝授してもらったりすることで、気持ちにも余裕ができたそう。「これなら帰宅後には自信を持って育児ができそう」という前向きな気持ちにもなれたようです。希望していた全身エステも、体調をみながら施術してもらえました。

テクニックその1……おひなまき
おくるみで、赤ちゃんがおなかにいた時と同じ姿勢を保つように巻くやり方。モロー反射(新生児に見られる原始反射)で寝つかない子にも有効です。

テクニックその2……爪切り体験
赤ちゃんの爪切りは、最初は怖いもの。切った爪が目に入ったり、肌を傷つけたりしないよう、爪切りは赤ちゃんの顔から離し、切った爪は黒色の布の上に載せて紛失防止するなど、注意すべきポイントを教えてもらいました。

○5日目(退所)

疲労も抜け、自宅でのお世話も大丈夫そう

最終日は、夕食後の19時までセンターで過ごせます。すっかり疲労がとれ、育児に対していろいろと不安ばかりだった入所前とは変わって、「自宅でもがんばろう」という希望がわいてきたとのこと。「24時間体制の綿密なケアのおかげで心身共に充実! 同時期にセンターで過ごし、悩みや喜びを共有できたママ友は心強い存在です」とコメント。

○産後ケアで精神的にも前向きに

体験したママがこの4泊5日間で気づいたのは、「睡眠と食事が養生する上でのカギとなっている」ということでした。実際、体力を取り戻すために大切なこの2つを、まずはしっかりとサポートしてくれる体制になっています。スタッフが24時間体制で見守ってくれて、プロの目で必要な心と体の両面からのケアやサポートを施してくれることで、退所時には精神的にも安定できたことが一番の成果になったようです。「自宅に戻ってからの育児も、前向きに取り組めるきっかけになっています」と話してくれました。

武蔵野大学付属 産後ケアセンター桜新町では、産後すぐのママだけでなく、4カ月までの赤ちゃんのいるママも対象になっています。料金的に誰もが気軽に利用できるものではないかもしれませんが、ママの育児不安が育児困難へとつながらぬよう、そして、ママも笑顔で赤ちゃんのお世話ができるよう、産後ケアセンターを活用するのもひとつの方法ではないでしょうか。

※記事中の情報は2016年6月時点のもの

○筆者プロフィール: 回遊舎

"金融"を専門とする編集・制作プロダクション。お金に関する記事を企画・取材から執筆、制作まで一手に引き受ける。マネー誌以外にも、育児雑誌や女性誌健康関連記事などのライフスタイル分野も幅広く手掛ける。近著に「貯められない人のための手取り『10分の1』貯金術」「J-REIT金メダル投資術」(秀和システム 著者酒井富士子)、「NISA120%活用術」(日本経済出版社)、「めちゃくちゃ売れてるマネー誌ZAiが作った世界で一番わかりやすいニッポンの論点10」(ダイヤモンド社)、「子育てで破産しないためのお金の本」(廣済堂出版)など。

(回遊舎)