リオデジャネイロ・オリンピック(8月5日開会式)まで2カ月。ところがブラジルは経済危機、感染症「ジカ熱」の発生、現職のルセフ大統領の弾劾法廷開設と暫定政権設置など異常事態に見舞われている。ブラジル政治経済に詳しい専門家に聞いた。

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2016年6月6日、リオデジャネイロ・オリンピック・パラリンピック(8月5日五輪開会式、9月7日パラリンピック)まで2カ月。ところがブラジルは経済危機、感染症「ジカ熱」の発生、現職のルセフ大統領の弾劾法廷開設と暫定政権設置など異常事態に見舞われている。ブラジル事情に詳しい堀坂浩太郎上智大学名誉教授が、「リオ五輪を控えどこへいくブラジル−大統領弾劾裁判に発展した政治経済情勢」と題して、このほど日本記者クラブで講演した。ブラジルの政治経済状況は短期的には最悪の状況にあるものの、中間層の拡大や国民参加型の政治、経済自由主義化の道を歩んでおり、「長期的に見れば良い方向に向かっている」と指摘。また「ブラジルは多民族国家であり、リオ五輪はふさわしいイベントになる」と期待を込めた。同教授は日本経済新聞社サンパウロ支局長を務めた後、上智大で研究・教育に長年携わってきた。発言要旨は次の通り。

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感染症「ジカ熱」の発生が懸念されたが、これから南半球は真冬に向かうのでそれほど心配していない。内政的には、現職のルセフ大統領の弾劾法廷開設と暫定政権設置に発展するなど政治が大混乱、「それどころではない情勢」が続いている。秋の地方選挙に向けて選挙運動がオリンピック開催時期と重なる点も懸念材料だ。

さらに好調だった経済が悪化、2015年の国内総生産(GDP)はマイナス3.8%に沈んだ。人口2億人のうち、失業者は1100万人に達し、失業率は10%以上。しかもインフレ率は10.7とスタグフレーション(不況下の物価高)に陥っている。16年のGDPもマイナス3.5%と予測され、出口が見えない。

初の女性大統領として人気が高かったルセフ氏が14年の選挙で、僅差で勝利したものの、有権者の半分が反対票を入れた。その後与党労働者党の汚職発覚をきっかけに「ルセフ降ろし」旋風が巻き起こった。同氏は弾劾法廷にかけられ、テメル副大統領(ブラジル民主運動党)が大統領代行を務める暫定政権が発足した。5月に始まった弾劾法廷は最長180日で、成立すればルセフ大統領が辞任、テメル副大統領が大統領に就任。否決されればルセフ氏が職場復帰する。ルセフ氏は徹底抗戦の構えで激しい法廷闘争が展開されている。テメル氏は弾劾成立後に本格政権を目指し、双方が一歩も引かない状況だ。

ブラジルは1980年代に軍政から脱却し、中間層の拡大や国民参加型の政治、経済自由主義化の道を歩んできた。汚職は以前からあるが、法律で裁く意識が根付いてきた。市民社会も形成され、民主主義が根付き、軍事クーデターは考えにくい。短期的には混乱に陥っているが、長期的に見れば良い方向に向かっている。

ブラジルが直面する課題として、(1)エリート層によるトップダウンの政治から国民参加の政治への移行、(2)貿易自由化、市場開放などにより国家主導の経済運営委からの脱皮、(3)多様な国民の包摂、中間層の拡大、(4)市場、国家、市民社会の3つが相互に協同する多元主義的な経済社会の形成―などが挙げられる。

中南米地域で左派の退潮が言われるが、ブラジルの労働者党政権は社会的な施策を進めたのであって、ベネズエラやボリビアなどの社会主義を指向した国とは異なる。

ブラジルはリオ五輪でメダルの数で10位を、パラリンピックは5位を目標としている。ブラジルは多民族国家であり、リオ五輪はふさわしいイベントになだろう。(八牧浩行)