資産形成の一つに勤務先の株式を積み立て購入する自社株買いもあるが、もし倒産したらどうなるか。分散投資の考え方からすると、リスクがあることを知っておきたい(撮影:今井康一)

前回は金融資産を1000万円以上保有している20代の特徴から、投資理論の重要性を理解し、そのなかでも「長期投資」と投資対象への信頼度を高める方法を紹介しました。今回は、「信頼度を高める重要な方法」として紹介した「分散投資」についてさらに踏み込んで、一緒に考えていくことにしましょう。

第1回:金融資産だけでなく自分への投資も大切です
第2回:20代で「金融資産1000万円以上」はこんな人


投資の理論でよく言われる「分散投資」の重要性。これを説明するのに頻繁に使われるのが、「卵をひとつのカゴに盛るな」という格言です。どういう意味で使われているかを絵で説明したのが、下の図です。



卵が残っていれば、いつかまた増える

卵をひとつのカゴに盛って運んでいて万一落としてしまうと全部割れてしまう。だからカゴをいくつかに分けて運べば万一ひとつを落としても全部割れてしまうことはない、ということです。図表では、卵は9つで、ひとつのカゴに盛るか、3つのカゴに盛るかを説明しています。

でもちょっと納得できないことがあります。「9個割れても、3個割れても、どっちも損じゃないか」と思いませんか。

実は、本当はこの話はここで終わってはいけないのです。残った6個の卵はその後に雛に孵って、親鳥になってまた卵を産む。そうすると卵の数は増えていくというプロセスが隠れているのです。これによって、9個あった卵が、一部割れてしまっても残った卵をもとにいつか卵が増えていくと言えるのです。


言い換えると、分散投資には長期投資が前提として不可欠なものなのです!



そう、ここでは割れないで残った卵が雛に孵って、親鳥に育ち再び卵を産むという時間とプロセスが必要なのです。言い換えると、「長期投資」が必要だということです。分散投資には長期投資が前提として不可欠なものなのです。


長期投資を前提とした考え方と不可分

さらにもうひとつ重要な前提があります。そう、卵という存在です。これは卵が雛に孵って、親鳥になって、再び卵を産むという「成長」する存在、または「収益をもたらす」存在として例示に使われていることです。これがカステラだったらどうでしょう。9個のカステラを1つのカゴに盛るか、3つのカゴに盛るか。それぞれ1つのカゴを落としたとして、前者では9個のカステラが食べられなくなり、後者では3つのカステラが食べられなくなる。でもどちらも損になった。これでおしまいです。これでは資産運用の理屈には合いません。

やはり収益をもたらす資産として「卵」が重要になるのです。「分散投資」は「収益をもたらす」投資対象に対して、「長期投資」を前提にした考え方と不可分なものだということを理解することが非常に大切です。

さて、ここでちょっと分散できる対象は何かを改めて考えてみましょう。まずはこの連載の第1回目を思い出してください。運用する「資産」には金融資産だけでなく、人財としての「自分」も入っていましたよね。お金をどこにつぎ込むか。将来のお給料アップのために「自分」という資産にお金をつぎ込む、将来、必要になった時に引き出せる「金融資産」にお金をつぎ込む。


分散することでリスクを和らげる


そのほかには何があるでしょうか。よく聞くのが「家族は私の財産です」という言葉です。とすると、家族、親や配偶者や子どもたちも自分を支えてくれる資産かもしれません。

そういったものにも「分散投資」の考え方が必要になります。たとえば、自分の勤めている会社の株式を毎月購入する「自社株買い」は資産形成のひとつとして挙げられることがあります。自分が働く会社の株式を持つというのは、自分が一生懸命働いて会社が成長すると、それによって株主としての自分にもメリットがあると考えられます。しかも会社が毎月の投資額の一部分を補助するところもあります。


自分と株式が同じ会社に依存するリスク

良い制度ではありますが「分散投資」の考え方からすると、少し考えておく必要があります。人財としての「自分」と金融資産としての「株式」が同じ会社に依存しているのです。万一、会社が倒産すると、お給料を得る先と金融資産の両方がなくなってしまいます。これでは資産の分散にはなりませんよね。

もちろん、会社が上向きのときには株価も上がるし、お給料も上がる可能性が高くなりますから、両面でメリットを受けるという良い面もあるのですが、リスクをどうコントロールするかという面からみると、要注意と言えそうです。

結婚するときには、同じ会社だと夫婦そろってお給料を受け取る先が同じということになりますね。さらに子どもがどんな会社に就職するのか、まさかみんな同じ会社ということはないでしょうが、そんな視点で就職を考えることも必要かもしれません。もちろん今や働く場所は世界中に広がっていますから、日本だけをターゲットにする必要はありません。家族がそれぞれに世界を活躍の場にしているというのは、金融資産で世界中に投資しているのとどこか似ている気もします。

結婚や家族といったことを金銭面や投資の視点でとらえることは、必ずしも正しいこととは言えませんが、こういった一面もあるということを承知していてほしいところです。

前回のコラムで、私が就職した会社が倒産したことにふれましたが、この時はお給料を受け取る先がなくなり、保有していた自社株は紙くずになり、そして退職金も勤続年数が短かったことからあまり出ませんでした。こうした資産分散の見方は自分の体験からほかの人よりも強く意識しているのかもしれません。


著者
野尻 哲史 :フィデリティ退職・投資教育研究所所長

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