奇跡のプレミアリーグ優勝を成し遂げての凱旋帰国――。注目度は非常に高いが、日本代表のエース、岡崎慎司はそのことに対するプレッシャーは「一切ない」と言い切った。

「自分が大活躍したわけでもないし、悔しい想いをたくさんしたシーズンだったから、納得できたわけでもない。それに、終わってから10日ぐらい休んで、今はフレッシュにサッカーがしたいと思えてもいるので、そういうプレッシャーはないですね」

 レスター・シティのチームメイト、FWジェイミー・バーディーとMFリヤド・マフレズが次々とゴールを積み重ねていく一方で、岡崎自身は5ゴールにとどまった。チームを率いるクラウディオ・ラニエリ監督やチームメイト、イギリスのメディアから、ハードワークや守備意識を高く評価されたものの、岡崎が欲していたのは、そうした評価ではない。

 とりわけ2015年12月から2016年1月にかけて、「ゴールこそ、すべて」「我を強めてゴールを獲りに行く」と誓ってからは、ひたすらゴールを狙い続けた。

 しかし、思い描いたほどゴール数を伸ばせず、「岡崎は点獲り屋ではない」「ハードワークをしてチームを助けてくれれば十分」といったチーム内での評価や固定観念を覆すことができぬまま、シーズンを終えた。

 チェルシーとのリーグ最終節を終えたとき、「チームは最高の結果を残したけれど、自分は、不完全燃焼、不満足、悔しさ、怒り......といった想いに支配されている」と振り返った岡崎が、プレミアリーグ優勝メンバーとして見られることにプレッシャーを感じないのは、ある意味当然のことだろう。

 しかし、だからといって岡崎が、キリンカップ初戦のブルガリア戦にノープレッシャーで臨んだかというと、そうではない。彼は別の種類のプレッシャーを感じながらピッチに立っていた。

 必ずゴールを奪わなければならない、自分がチームを勝利に導かなければならない、というプレッシャーである。

 レスターで岡崎に与えられたポジションは、セカンドストライカーだった。ファーストストライカーであるバーディーのサポート、攻撃の組み立てへの参加、前線からのプレッシング、相手の中盤に対するプレスバックなどが託された任務だ。

 岡崎はそうしたタスクをしっかりとこなした。チームのためでも、バーディーのためでも、ラニエリのためでもなく、自身がゴールを奪うために。

「自分がハードワークしないと、このチームは機能しない。チームが機能しなければ、結局、自分にゴールチャンスは訪れない。だから、僕がハードワークするのは、自分がゴールを奪うための"下地作り"。手間はかかるけど、そうしないと、このチーム(昨季のレスター)で自分はゴールを奪えない」

 一方、日本代表では、託されるポジションも役割も、ゴールゲッターとしての信頼も、チームのスタイルも、レスターとは大きく異なる。

 ブルガリア戦では4−2−3−1の1トップ――つまり、ファーストストライカーの任務を託された。チームメイトは岡崎の動きを見逃さず、ボールを届けてくれるし、ブルガリア相手に主導権を握って、ゲームを支配することができる。

 それゆえ、岡崎に求められるのは、ゴール。もちろん、相手の間に顔を出し、パスを引き出してさばくなど、攻撃を活性化させたりもするが、期待されているのはゴール......、それもチームを勝利に導くようなゴールなのだ。

「(日本代表で託される)ゴール前で待つという役割は、それだけ責任が生じるもの。いわば、バーディーぐらい点を獲らないといけないわけです。それぐらいの覚悟と自信を持って臨まなければいけないし、迷いが出たら一発で終わる。自分が最終的に目標にしているのは、このポジションで点を獲ることで、レスターでもこの立ち位置を掴みたい。だから、代表でこの役割をやるなら、ゴールは必須だと思っています」

 その点で、ブルガリア戦での岡崎は合格点の出来だったと言える。

 プレミアリーグ最終節を終え、チーム行事であるタイへの慰安旅行、ロンドンでの束の間の休息を経て日本代表に合流したのは、8日前の5月26日。「トップコンディションと比べたら、動くとキツい部分もあった」という状態だったが、前半4分に柏木陽介からのクロスを呼び込んで、ヘディングで先制ゴール。これがブルガリアの出ばなをくじき、試合を優位に進めやすくしたのは、間違いない。

 このゴールは、岡崎にとって国際Aマッチ通算49個目となるゴールだった。

 6月7日に行なわれるボスニア・ヘルツェゴビナとのキリンカップ決勝で、記念すべき50ゴール達成の期待が高まるが、「そんなに意識してないです。50点目、51点目とかって考えてプレーしたことは一度もないので、いつもどおりゴールを狙いに行きます」と語る岡崎にとって、通算ゴール数はそこまで大きな意味を持つものではないのだろう。

 むしろ、50ゴール目が日本代表をキリンカップ優勝に導くゴールになったとき、岡崎にとって大きな意味を持つことになるはずだ。

 レスターでハードワークをこなすのも、日本代表でシンプルにさばいてゴール前に飛び込むのも、すべてはゴールを奪うため、チームを勝利に導くため――。ボスニア・ヘルツェゴビナ戦で50ゴールを達成しようとも、それは、岡崎にとって通過点に過ぎない。

飯尾篤史●取材・文 text by Iio Atsushi