実にスコアは、7−2。

 久しぶりに「強い日本代表」を見た。キリンカップのブルガリア戦は、日本の完勝だった。

 単にスコアだけの話ではない。

 守備では高い位置からのプレスで相手の攻撃を抑え、攻撃では互いが連動してポジションを動かし、きれいに崩し切ったゴールをいくつも生んだ。"日本らしい"という意味においても、非常に質の高い内容の試合だった。

「素晴らしい試合。このようなハイレベル(なプレー)が見られるのは稀(まれ)なことだ」

 試合後、ヴァイッド・ハリルホジッチ監督がそう語ったのも当然だ。特に前半は、これだけ見事な試合内容の日本代表を見るのはいつ以来だろうと、頭の中で記憶を辿(たど)らなければいけないほどの出来栄えだった。

 なぜ日本代表は、これほどの試合ができたのか。その要因を挙げるとすれば、キーワードはふたつ。「2列目の機動力」と「ロングボール」である。

 この試合、本田圭佑をケガで欠いた日本代表は、4−2−3−1の2列目に右から小林悠、香川真司、清武弘嗣を並べた。いずれもスピードや敏捷性といった点に優れた選手たちである。その結果、日本の前線には攻守両面において、「動き」が生まれた。

 彼らは常に足を止めず、スペースを作り、それを生かし合うことで動きの"渦"を作り出した。そこで生まれた連動の渦は、1トップの岡崎慎司、2ボランチの長谷部誠、柏木陽介、さらには左右サイドバックの長友佑都、酒井宏樹を巻き込み、どんどんと大きくなっていった。

 なかでも出色だったのが、清武と香川の関係である。互いに絶妙な距離感にポジションを取り、何度も小気味いいコンビネーションを見せた。清武が語る。

「真司くんと陽介くんが近くにいてくれた。相手のプレッシャーがきついとき、ワンタッチで落とせるところに人がいると、ボールを失わないし、(相手の守備を)はがすこともできる。デカい相手には効果的だと思う」

 清武は試合を振り返り、「もう少しボールを落ち着かせていい時間もあった。せっかくボールを奪っても(急いで攻めて)すぐに失うと、DFはきついから」と反省の弁を口にしたが、裏を返せば、それだけワンタッチでポンポンとバスがつながるシーンが多かったということだ。

 また、どちらかと言えば、清武、香川を中心とした左サイドの攻めが目立った試合ではあったが、だからと言って右サイドが機能していなかったわけではない。

「悠もすごくいい動き出しがあって(パスを)出せたかなというところがあった。彼のよさを生かせればよかったという反省はある」

 ボランチの長谷部がそう話していたように、小林も前線に動きを作り出すという点においては、効果的な働きをしていた。彼が動くことによって生まれるスペースに、右サイドバックの酒井宏樹が気持ちよさそうに何度も攻め上がれたことも、それを裏づける材料のひとつだろう。酒井宏は自身が出場した代表戦の中で最高の出来ではなかっただろうか。

「今日は本田がプレーしなかったが、彼に代わってプレーできる選手がいる。それでも私は本田のことを信頼している」

 ハリルホジッチ監督はそう話していたが、本田に代わって小林が右サイドに入ったことで2列目の機動性が高まり、結果、前述したようなチーム全体でのプレスやコンビネーションにつながったのは間違いない。

 と同時に、この試合では、相手の背後を突く、あるいは大きくサイドを変えるロングボールが効果的に使われていた。

 従来、日本代表はボールを保持していても、足もとでつなぐショートパスばかりが目立ち、相手守備網を崩すことができないという現象がしばしば見られた。要するに、相手の"表"でパスを回すだけで、"裏"を突くことができなかったのだ。これでは相手は怖くない。

 だが、この試合では、例えば1点目は酒井宏の裏への飛び出しに合わせて長谷部が送ったパスが、2点目は柏木が左サイドの長友へ大きく展開したパスが、それぞれきっかけとなってゴールが生まれた。相手の守りが薄い場所をシンプルに狙ったロングボールが、非常に有効に使われていた。

 足もとで細かくショートパスをつないで相手を崩すコンビネーションは、見た目は華麗だが、そればかりにこだわっても成功しない。長いボールを生かしてピッチを縦横に広く使い、相手の守備を広げてこそ、そうした狭い局面での攻撃も効果を発揮する。

 柏木は「(自分が左利きのため)右サイドは見えているけど、左サイドも見えるような体の向きを取らないといけない。もっと両サイドを生かしてあげたい」と不満を口にしながらも、「ああいうの(一発で相手の背後を突くパス)は狙っていきたい」と語る。

 ブラジルW杯での惨敗が影響してか、最近はボールポゼッションに対する否定的な見方も少なくない。つまり、パスをつなぐだけでは点は取れない、ということだ。

 だが、シンプルにゴールへ向かうロングボールもまじえることで、これだけ攻撃の幅は広がり、ポゼッションの威力も増す。決してポゼッション自体が悪いわけではないことを、この試合の日本代表は証明している。

 やや緩慢な対応から喫した2失点は気になるところではあるが、この日、日本代表が見せた試合は、久しぶりに「痛快な」と形容していい内容だった。キャプテンの長谷部もいくつかの反省点を挙げたうえで、こう語る。

「ポジティブ、ネガティブ、両方の部分があったが、総合的に見て素晴らしいゲームだったと言っていいと思う」

 キャプテンの言葉は、そのとおりだったと思う。

浅田真樹●文 text by Asada Masaki