今季、野村敏京(のむら・はるきょう/23歳)が好調だ。

 2月にオーストラリア女子オープンで米女子ツアー初勝利を挙げると、4月にはサンフランシスコ郊外で開催されたスインギングスカートクラシックでツアー2勝目を飾った。現在(6月4日時点)、米女子ツアー賞金ランキング3位。世界ランキングは24位と、一躍日本勢トップに躍り出て、8月のリオ五輪出場もほぼ確定的となった。

 日本人の父と韓国人の母を持つ野村は、神奈川県横浜市で生まれて幼少期を過ごした。その後、韓国・ソウルに移住。10歳のときにゴルフをはじめ、アマチュア時代は日本のアマチュア大会や女子プロツアーにも積極的に参戦し、数々の輝かしい実績を残してきた。

 そして2011年、野村は米ツアーに参戦する。その前年に韓国の高校を卒業すると、すぐに予選会に挑戦し出場権を獲得した。

 当時は、飛距離を武器にしたパワーヒッターで、小技に関してはやや粗削りな部分があるように見えた。結果、シード権を失って、2012年、2013年シーズンは日本ツアーで戦ってきた。それでも、再び米ツアーに挑戦。2013年の予選会を通過して、2014年からメンバーに復帰した。

 そんな野村に、今季大きな飛躍を果たした要因を尋ねてみた。すると、第一にショートゲームの上達を挙げた。

「私、本当に負けず嫌いなんですよ。だから、このオフは徹底的にパターとアプローチの練習に取り組んできました」

 野村は、スイングコーチを務める母方の叔父が住んでいるハワイに拠点を持つ。このオフはそこで、かなりトレーニングを積んできたという。

「本当はね、オフは韓国で遊ぶのが好きなんです。でも今年は、ゴルフに集中しようと思って、ハワイで練習していました。特にずっとやっていたのが、小技の練習。それが、よかったのだと思います」

 その言葉どおり、今季のスタッツでは平均パット数が29.02でツアー5位。バーディー数3位という数字も、パッティングの向上によるものが大きい。

 実際、初優勝を挙げたオーストラリア女子オープンでは、最終日の勝負どころでバーディーを連発。17番ホールでは10m強のバーディパットを沈め、リディア・コー(19歳/ニュージーランド)の追撃を振り切った。2勝目を飾ったスインギングスカートクラシックでも、最終日は強風が吹き荒れる中、7番から3連続ボギーを喫して崩れそうになったものの、10番パー4で難しいグリーン周りから絶妙なアプローチを披露。鮮やかなパーセーブで流れを引き戻すと、12番パー3では20mのパットを決めてバーディーとし、2位以下に4打差をつけて圧勝した。

 野村のブレイクは、まさにアプローチとパッティングの飛躍的な進歩によるものであることは間違いない。加えて、落ち着いてプレーできている精神力の成長も大きな要因のひとつだろう。

 昨年夏から野村のキャディーを務めるジェイソン・マクディードが言う。

「ハルのメンタルは、すごくフラット。どんなときでも下を向かないで、諦めない強さがある。ハルは、これからもどんどん強くなるよ。目指すは、世界一さ」

 このマクディードとタッグを組む前、実はスイングコーチの叔父がキャディーを務めていた。しかし、何でも言い合える身内ゆえの弊害か、ラウンド中に口論するなど、度々トラブルを起こしていた。昨年の春先だっただろうか、叔父から叱責された野村がラウンド中に涙をこぼす姿を目撃したこともある。

 そうした状況の中、自らの甘えをなくす意味もあって、野村は家族からの独立を決断した。新しくプロのキャディーを迎え、それまでツアーには必ず同伴していた母ソヨンさんも、ツアー会場に毎週足を運ぶようなことはなくなった。

「お母さんはたまに来てくれますけど、洗濯も、食事も、今は自分で全部やっています。これまでとは(周囲の環境が)確かに変わりましたけど、叔父さんは私の大事なコーチだし、お母さんのことは大好き。そこは、何も変わりません。初めて優勝したときはお母さんが(会場には)いなかったんですが、2勝目は母の前で勝つことができました。それが、何よりうれいしいです」

 ツアー2勝を飾って、世界のトッププロの仲間入りを果たした野村。これから目指すものは、当然メジャー制覇である。そして、夏にはリオ五輪も待っている。

「メジャーも、五輪も、もちろん勝ちたい。でも、どんな試合でも同じ気持ちでやるのが、今の私の一番の目標」

 野村は、そう言って愛らしい笑顔を見せた。

 あくまでも平常心で戦いに臨む――その姿勢もまた、野村の強さなのだろう。メジャー大会、リオ五輪とビッグイベントが目白押しのこの夏。野村の活躍からますます目が離せない。

武川玲子●文 text by Takekawa Reiko