NHK 大河ドラマ「真田丸」(作:作三谷幸喜/毎週日曜 総合テレビ午後8時 BSプレミアム 午後6時)
5月29日放送 第21回「戦端」 演出:木村隆文


全然役に立ってない


久しぶりの北条氏政(高嶋政宏)登場で、家康・内野聖陽との粘っこい芝居対決も見ることができて嬉しいと心躍ったのもつかの間、数回に及んだ大坂城内でのエピソードによって、なんだか世界がすっかり秀吉・小日向文世色に塗り変わってしまったようで、氏政×家康の粘りっ気に対してときめきが前ほど沸かなくなってしまった。
かつてあんなに輝いて見えた誰よりも変わり身の早い男・真田昌幸(草刈正雄)も、沼田城に関する話し合いに家康も北条も来ず、北条からは板部岡江雪斎(山西惇)、徳川からは本多正信(近藤正臣)が出席したため、張り合いをなくしてしょぼくれている顔は魅力的とは言いがたい。昌幸、ここのところずっと精彩を欠いたままだ。
間に入った信繁(堺雅人)も子供のお使いのように、行ったり来たりしているだけで全然役に立ってない。

メインの登場人物たちに元気がない。その分、小日向・秀吉の勢いがあり過ぎる。といってもそれは、目下、世継ぎも生まれて、秀吉の天下状態であるという脚本になっているから俳優たちも演出もそういうふうにしているだけで、決してほかの俳優が小日向に届かないわけではない。俳優たちはむしろ正しい演技をしていて、優秀なのだ。

片岡愛之助なんてとくに、あえて抑制しているような気がする。「半沢直樹」(13年)の押し出しの強いオネエキャラでブレイクしたため、どうしたって我の強いキャラを期待してしまう片岡愛之助が「真田丸」の大谷吉継役では、今のところもおとなし過ぎて、一瞬片岡愛之助なのかわからない時すらある。三谷幸喜の舞台「酒と涙とジキルとハイド」(14年)に出た時もノリの良い芝居をしていた愛之助が、このままずっと三成(山本耕史)と信繁に誠実な男として通す気なのか、逆に気になる。吉継は病気持っていた説などもあるから、どこかでやんちゃ面が出てきたりしないのだろうか。
21回で秀吉に負けず劣らず存在感を放っていたのは、「(北条を)潰しなはれ」と秀吉を焚き付けた利休(桂文枝)と、離縁された途端、がぜん元気になってきたこう(長野里美)、どうしたらそんなにおめでたい勘違いができるのかさっぱりわからないきり(長澤まさみ)、そして、主婦友のように語らう寧(鈴木京香)、茶々(竹内結子)、阿茶局(斉藤由貴)。皆、武士じゃない人たちばかり。戦がないと武士は輝かないようだ。

とりわけ、長野里美に目がいく。いちいちリアクションが可笑しくて、小劇場ブームの中で先頭を走った第三舞台の看板女優としての面目躍如だ。彼女を劇団の主宰・鴻上尚史以外でここまで面白く見せた劇作家、演出家はこれまでいなかったのではないか。いじられればいじられるほど輝く長野里美を生かしきる三谷幸喜、素敵な仕事をしている。
武士の中で唯一、精彩を放っていたのは、大泉洋の信幸。この俳優はネガティブな表情がほんとうに可笑しい。父、新妻(稲・吉田羊)、旧妻たちの勝手に振り回され、どんなに困り顔をしても陰になり過ぎず、ユーモラス。
こうして武士以外のひとたちに目がいってしまった21回ではあったが、サブタイトルは「戦端」だ。本当はほのぼのどころではなく、戦の気配がひたひたと近づいてきている。小さな沼田城をめぐって「真田と北条と徳川、そして豊臣の威信をかけた戦いが今、始まろうとしている」というシリアスなナレーション(有働由美子)。茶々が子供・捨に信長の血が流れていると言ったことにも、単なる主婦トークではない重いものを感じた。

視聴率は16.8%(ビデオリサーチ調べ、関東地区)とここ数回の中では低いほうではあったものの、それだけここ数回は濃密で、21回はここから先の盛り上がりに向けて助走という雰囲気を感じた。利休も「波とは寄せては引くもの」と言っていたし、ここからまた寄せていくだろう。
(木俣冬)