酒井宏樹が09年のブラジル留学時代に仲良くしていた親友と、ブルガリア戦のピッチでまさかの再会――。写真:滝川敏之(サッカーダイジェスト写真部)

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[キリンカップ]日本代表7-2ブルガリア代表
6月3日/豊田スタジアム
 
「ヒロキ! ヒロキ!!」
 
 日本対ブルガリア戦の試合開始前だった。両チームの選手が整列をしたあとに握手を交わす際、酒井宏樹はブルガリアの選手から自分の名前を呼ばれたのに気付いた。
 
 一人ひとりと握手するなか、歩み寄ってきたのはブルガリア代表11番のマルセリ―ニョ(本名マルセロ・ナシメント・ダ・コスタ)。その顔を見て、酒井はすぐに記憶が蘇った。
 
「僕が留学していた時代に一緒にいた選手です。7年ぶりになりますかね」
 
 酒井は面食らった。まさか日本で開催されるこのカードで、彼と再会するとは思ってもみなかったからだ。
 
 2009年、柏のユースからトップチームに昇格した19歳の酒井が、6月から4か月間留学したのが、ブラジルのサンパウロ州選手権1部リーグのモジミリンだった。
 
  そこで出会って意気投合したのが、モジミリンに所属していたマルセリーニョだった。
 
「とても優しい選手だったんです。まさか、ブルガリアに帰化しているとは……、ビックリしましたよ」
 
 マルセリ―ニョは84年8月24日生まれで、ブラジル北西部のアマゾンにあるマナカプルの出身。将来有望視されたアタッカーのひとりだ。02年から03年には、ブラジルU-20代表にも選出されている。
 
 ブラジルのモジミリン、ブラガンチーノを経て、11年にブルガリアのPFCルドゴレツ・ラズグラドへ移籍。さっそく1年目に中心選手としてリーグ25試合出場・9得点と大活躍し、国内3冠獲得に大きく貢献した。その後、リーグ戦は5連覇を達成し、14-15シーズンのチャンピオンズ・リーグではレアル・マドリーやリバプールと対戦している。
 
 その活躍が認められて、マルセリ―ニョは13年7月にブルガリアの国籍を取得(ブラジルとの二重国籍)。今年からブルガリアA代表での出場が認められて、3月のポルトガルとの親善試合でデビューし、いきなりゴールを決めている。この日本戦が2試合目の出場だった。
 
 ブラジルで出会ったふたりが地球の反対側の日本で、奇跡的な再会を果たした。しかも、同じサイドでマッチアップするという、願ってもみなかった構図に――。
 
  お互いの成長ぶりを、これ以上ない最高の形で感じ合い、試合後はユニホーム交換もした。奇跡としか言いようがない。長友佑都のアモーレ発言が様々な巡り合わせをもたらしているのか、日本の右サイドでは思いがけないささやかながらも運命的な友情劇が起きていた。
 
「アジア予選で対戦する相手とは、サッカーがまったく異なる。決して弱い相手ではなかった。僕らは集中を欠いた2失点は課題にしないといけない」
 
 そう語った酒井は、改めて気を引き締めていた。内田篤人が負傷により長期離脱するなか、右サイドバックの争いはいまだ混沌としている。酒井高徳、遠藤航……それぞれ特長があるが、まだなにか物足りず、ポジションを奪い切れていない。
 
 そして酒井はこのオフ、12年から4シーズン在籍し契約満了を迎えたハノーファーを退団することが決定的だ。ドイツ以外でのプレーを考えているそうで、ギリシャ強豪オリンピアコスなどから触手が伸びている。ターニングポイントのシーズンになることだけは間違いない。
 
 そんな大切な時期を前に、まさかのマルセリ―ニョとの邂逅――。ブラジルの地での若かりし10代の頃の感情を思い出した酒井宏樹が、改めて純粋かつ燃えたぎった想いを胸にただ前進する。
 
 
取材・文:塚越 始(サッカーダイジェスト編集部)