土曜ドラマ「トットてれび」は優等生なのか「青春編」を振り返ってみた

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「トットてれび」(NHK 総合/土/よる8時15分〜)
脚本:中園ミホ 演出:井上剛、川上剛、津田温子


「8時15分です」と黒柳徹子(本人)の合図ではじまる「トットてれび」。女優、タレント、文筆業と多彩な顔を「玉ねぎ頭」でポップアイコンとしてまとめあげ、半世紀以上活躍し続ける黒柳徹子の黎明期を、テレビが「テレビジョン」と正式名称で呼ばれていた黎明期と重ねて描く「青春編」が4週に渡って放送され、6月4日(土)からは「友情編」がはじまる。
劇中劇やミュージカル的演出など、とても贅沢な作りだった「青春編」の後の「友情編」に期待が高まる中、前半を振り返ってみたい。

なんといっても、圧倒的に個性的な黒柳徹子を演じる若い女優に満島ひかりをキャスティングしたことは大正解だった。型破りで演技も巧い満島はカリスマ黒柳徹子を演じるプレッシャーをはねのけ、のびのびとチャーミング、かつ知性的に演じている。型にはまらない人物といっても知性と教養は感じさせないとならないから、若くてフレッシュな女優なら誰でもいいとはならない中で、満島は適材だった。
黒柳徹子がNHK出身であるもNHKのドラマとしては強み。NHKの過去の名作を次々とリメイクして劇中劇として挿入し、モノクロの劇中劇パート、それを制作している最中のあれやこれやをカラーのドラマパートとして交互に映しながら、最後はセットが動いてミュージカル調のお祭り騒ぎとなってエンディング。とても手間ひまのかかることを心血注いでやっていることを感じる。音楽は、「あまちゃん」ですっかり全国区に知られるようになった大友良英だ。
劇中劇や歌を混ぜながら流れるようにドラマを紡いでいく演出家のひとりに、これまた「あまちゃん」で注目された井上剛がいる。

ミュージカル調のインパクトは1話が大きかったが、ライブ感にあふれていたのは3話。当時なんでも生放送だったことによるハプニングを描きながら、ショー・マスト・ゴー・オンとばかりに放送を続けていくエピソードは前半のハイライトだと思う。
1〜4話を通じて、若いディレクター役の濱田岳の働きがいい。最初は「NHKなんで」(これは「LIFE!」ですね)的に型にはまった仕事をしていたのが徹子に振り回されて次第に変化していく役割を的確に演じている。3話でチーフ・ディレクター役の北村有起哉もいかにも感を出していて良かった。
毎回、昭和を彩ったスター・森繁久彌(吉田鋼太郎)、渥美清(中村獅童)、永六輔(新井浩文)、沢村貞子(岸本加世子)、坂本九(錦戸亮)、三木のり平(小松和重)、人気脚本家・向田邦子(ミムラ)、カリスマ写真家・篠山紀信(青木崇高)などが顔を出し、当時を知る視聴者にはたまらない。

朝ドラ「花子とアン」をはじめとして女の人生を描くことに定評のある脚本家・中園ミホは、徹子や沢村貞子や向田邦子は仕事に対して厳格なまでに向き合っているところを描いているのに対して、男性たちは飄々と描く。4話の朝ドラ「繭子ひとり」の人気キャラ・田口ケイの役作りを徹底する徹子や、アクシデントで顔にケガをした時、腫れる前に次のシーンも撮ろうと言う沢村貞子の芸への執念が印象的だった。

とまあ、こんなにすこぶる出来のいいドラマになったワケは、なんと言ってもスタッフ体制だろう。
制作統括(チーフ・プロデューサー的なもの)が「花子とアン」の加賀田透、プロデューサーに「あまちゃん」の訓覇圭と、「まれ」の高橋練。取材という肩書きで「おひさま」の小松昌代が参加している。朝ドラのチーフ・プロデューサーをやってきた豪腕が4人も名前を連ねている、いわばオールスター戦のようなものなのだ。
加賀田は「花子とアン」で中園ミホと仕事をしている。訓覇は「あまちゃん」で音楽とドラマの融合を大友、井上などと試行錯誤してきた。ナレーションのパンダの声・小泉今日子も「あまちゃん」人脈だろう。高橋は朝ドラではなく土曜ドラマ「胡桃の部屋」で向田邦子ドラマをリメイクしている。小松は「おひさま」で黒柳徹子と満島ひかりを出会わせている(満島の演じた役の晩年を黒柳が演じた)。きっとそれぞれのスキルを駆使して、全力で「トットてれび」を作っているのだろう。

だからなのか、朝ドラプロデューサーズ(皆さん、土曜ドラマや大河ドラマなどほかのドラマも手がけているのだが)がそろって土曜ドラマを作ったら、短めの朝ドラになってしまいましたみたいな感じもしなくてはない。そういえば、かつて朝ドラのはじまる時間は朝8時15分で、土曜ドラマの8時15分と呼応しているのかもしれない。
どうせなら、黒柳徹子の冒険に近いドラマは朝ドラで長く観たいところだが、彼女の母親が主役の朝ドラ「チョッちゃん」(1987年)があったからやれないのだろうか。それに、朝ドラでミュージカルは、現在再放送中の「てるてる家族」(2003〜4年)がすでにしっかりやっていて、朝ドラでは今さらもうやる意義は見出せないだろうから、土曜ドラマでこそやる意義があったのかもしれない。ただ、笠置シヅ子のインパクトでいったら、土曜ドラマ「ロング・グッドバイ」(14年)の3話がある。

脚本も演出もキャストもスタッフワークもひとつひとつすばらしいが、「トットてれび」はなんだかこれまでのNHKの検証をしているかのような優等生作に見えるのだ。あまりにもクオリティーが高すぎて、隙がなさ過ぎて、NHKの技術と精神性を誇る番組のようにも見えてしまう。少なくとも1〜4話に関しては。もちろん、NHKはこんなにも素晴らしいという広報的な側面だけでなく、型破りの女の子が、組織のセオリーをぶち壊していきながら、やがてその個性も「使い捨て」にされそうな危機を感じて軽やかに逃亡していくという流れは自己批判のようにも見えるのだが。
後半の「友情編」では、NHK によるNHK のテレビ論の枠を超えて、有機的に人間ドラマが動いていくのか、さらに自己探求を深めていくのか。どちらにしてもそれこそ、型破りでいってほしい。
(木俣冬)