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すでに納車もはじまっているホンダの燃料電池自動車(FCV)「クラリティ フューエル セル」。5月に開催された自動車技術の展示会「人とくるまのテクノロジー展 2016 横浜」(主催 : 自動車技術会)では、同車のカットモデルなどでその技術が紹介されたほか、開発責任者による特別講演も行われた。

○「セダンは5人乗れるべき」ユーザーの声が開発の原動力に

「クラリティ フューエル セル」は3月10日に発売され、すでに経済産業省や埼玉県などに納車されている。当面は自治体や企業向けのリースとなるが、一般ユーザーへの販売も予定しているという。

「人とくるまのテクノロジー展 2016 横浜」では、開発責任者である本田技術研究所四輪R&Dセンター主任研究員、清水潔氏による特別講演も行われた。次世代型エコカーの象徴的存在である「クラリティ フューエル セル」だが、清水氏は講演の中で「めざしたのはFCVの普及期を見据えたクルマ作り」であることを説明していた。

近年、省エネルギーとCO2排出量の削減を目的に、世界各国の燃費規制は強化の一途をたどっている。その対策のひとつとなりうるのが、CO2をまったく排出しないFCVの普及だろう。そのFCVの研究に、1980年代後半から着手していたのがホンダだ。

2002年開発の「FCX」は、世界で初めて市場に導入されたFCVとなった。さらに2008年、セダンタイプの「FCX クラリティ」が開発されると、米国で個人向けのリースも積極的に実施。その際、ユーザーから寄せられたのが、「(4名の乗車定員に対し)セダンは5人乗れるべき」「航続距離が短い」などの声だったという。これによって、FCVという特殊な車両であってもユーザーの要望は手加減のないことがわかり、普及をめざす「クラリティ フューエル セル」開発のドライビングフォースになったと清水氏は述べた。

○発電・駆動機能の小型化でガソリン車に似たレイアウトを実現

そんな経緯で、「クラリティ フューエル セル」の開発コンセプトのひとつに「普遍的価値」つまり「使い勝手の良さ」が掲げられたのだそうだ。結果、同じFCVとして先に発売されたトヨタ「MIRAI」との大きな違いといえる乗車定員5名を実現し、一度の水素充填で走行できる距離はガソリン車に見劣りしない約750kmを達成。前出のユーザーの要望に応えた形となった。

広い室内空間を確保するために、「FCX クラリティ」ではフロア下に置かれていた燃料電池スタックを小型化し、駆動モーターなどとともにパワートレインとしてフロントフード下に収めている。ガソリン車でおなじみのフロントエンジンレイアウトのようだが、FCVでは世界初。この搭載位置を実現するため、燃料電池パワートレインを同社のV6エンジンと同等のサイズにコンパクト化したとのことだ。

この技術により、今後はガソリン車の派生車種としてのFCVの展開も考えられると清水氏。ガソリン車と共通のプラットフォームを使えるとなれば、開発・生産コストも抑えられ、販売価格に反映されるかもしれない……と筆者は期待してしまった。現在、自治体による補助があるとはいえ、それでも高額に感じられるFCV。本格普及のためにも、低価格化は欠かせないはずだ。

○ホンダが自ら水素ステーションを開発・導入

また、室内空間の拡大と、航続距離の延伸の両方に寄与したのが新型の高圧水素タンクだ。従来型に比べて圧力を高めることで、タンク容積を小さくしつつ、水素貯蔵量を増大させることに成功している。

その水素をどこで充填するのか。FCV本格普及のネックとなるのが、水素ステーションの整備だ。ホンダは独自の簡易水素ステーション「SHS」を開発。エネルギー会社が設置を進める商用水素ステーションとは別に設置を進めており、すでにホンダ本社(東京・青山)や埼玉県庁などへの導入事例もあるという。

その他、FCVならではの「使い勝手」も提案されている。外部給電機「Power Exporter 9000」と接続することで、水素が満充填であれば一般家庭約1週間分の電力を供給できるというものだ。これまでにも、電気自動車などが非常用バックアップ電源としての価値を提案してきたが、それほどの多くの電力をまかなえるとなると、移動できる発電機としての需要も喚起できるのでは、と感じた。

このように、FCVの普及に向けたホンダの取組みが、FCVの開発のみにとどまらず、水素社会全体に及ぶことを清水氏は説明した。「人とくるまのテクノロジー展 2016 横浜」の会場で「クラリティ フューエル セル」の試乗会も開催され、FCVが身近な存在となっていく兆しが感じ取れた。

(櫛田理子)