警戒強化を告知するポスター

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 5月26、27日に行なわれた伊勢志摩サミットに合わせて、会場近辺だけでなく東京、大阪、名古屋の主要ターミナル駅では自動販売機やごみ箱、コインロッカーが使用停止になってアテが外れた人も多かっただろう。鉄道会社はなぜ、サミットにあわせてこれほどの態勢を敷いたのか、2020年の東京五輪ではどんな対応が予想されるのか、フリーライターの小川裕夫氏がリポートする。

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 各国の首脳が一堂に介した伊勢志摩サミットが5月27日に閉幕した。今回のサミットでは、全国から7万人の警察官がかき集められ、東京では1万9000人が警戒にあたったとされている。

 東京で厳重な警戒態勢が敷かれるのは、東京が日本の首都だからにほかならない。首都が混乱に陥れば、当然ながら政治や経済などにも大きな影響が出る。サミットの開催地が遠く離れた三重県の伊勢志摩でありながら、東京のいたるところで警察官などが配置されたのは、政治・経済で混乱を起こさないためだ。

 首都圏の鉄道各線・各駅でも、テロを未然に防ぐ名目で、さまざまな対策が講じられた。

 例えば、東京の大動脈でもある山手線などを運行するJR東日本は、治安対策のために25〜27日の3日間、主要駅のゴミ箱とコインロッカーの使用を停止した。

 JR東日本がカバーしているエリアは広大で、北は青森県から西は静岡県や長野県にまでにわたる。

 東京だけでも、日本を代表する山手線や東海道本線といった大幹線から、ローカル線然とした五日市線まである。画一的にこれらで厳重な警戒態勢を敷いているとは思えない。

 東京駅や新宿駅といった1日に200万人以上もの利用者がいるターミナル駅ならば治安対策でゴミ箱が撤去されたり、コインロッカーを封鎖したりすることは納得できる。

 JR東日本は、どういった基準でゴミ箱やコインロッカー、自動販売機の使用停止を決めたのか? 使用を停止した駅・しない駅の判断基準は何だったのだろうか?

 JR東日本広報部によると、「警備上の問題もあり、JR東日本としては主要駅としか申し上げられません。駅数についても公表できません」とのこと。なので、独自に調査してみると、山手線の駅でもゴミ箱やコインロッカーの使用を停止している駅・していない駅とがあった。これらの判断は、「各駅の現場レベルや支社で決めているのではなく、JR東日本の本社が判断している」(JR東日本広報部)と言う。

 JR東日本以外にも、東京には鉄道を運行している事業者は多数ある。なかでも、東京メトロは、霞ヶ関駅や永田町駅といった政治の中枢に駅がある。東京メトロにも同様の質問をしてみた。

「東京メトロでは、管理している170駅すべてでゴミ箱を撤去したほか、コインロッカー140か所の使用を停止しました。ゴミ箱の撤去とコインロッカーの使用停止期間は、5月16〜27日までの1週間です。そのほか、主要駅では25〜27日の3日間でドリンク自販機を使用停止にしています。警備上の問題もあり、コインロッカー140か所の使用を停止した駅がどこなのかはお答えできませんし、自販機の数も申し上げられません。また、その駅を選んだ理由についても回答できません」(東京メトロ広報部)

 安全第一を是とする鉄道会社にしてみれば、万が一にも不測の事故を起こしてはならない。こうした取材に対して、口が重くなるのは当然と言えるだろう。

 今回、サミット開催を理由に鉄道の駅や車両内で厳戒態勢が敷かれたが、2020年の東京オリンピックでは、さらに厳重な警戒態勢になることは想像に難くない。特にオリンピックともなれば、その範囲は今回のサミットよりも広範囲になる。なかでも多くの人が利用する新幹線は警戒が必要になるだろう。

 昨年、東海道新幹線の車内でガソリンをまかれて男が焼身自殺を図る事件が起きた。同様の事件を防止するため、JR東日本は東海道新幹線車内の防犯カメラを増設。JR東日本や西日本も車内の防犯カメラを増設し、運用ルールの変更もしている。

 また、同事件の際には新幹線でも乗車前に手荷検査を実施すべきとの意見も出た。検査の時間を考えると現実的ではないが、安全を優先せよとの世論が高まれば実施するようになるだろう。もしくは、「東京オリンピック開催期間のみ実施」という可能性だってある。

 鉄道各線・各駅で厳重な警戒態勢が敷かれるケースは、サミットやオリンピックといった諸外国から賓客が多く来日する国際的な式典やイベント時だけではない。

 国内事情によっても、厳重な警戒態勢が敷かれることもある。直近の例を出せば、2015(平成27)年7月16日に東京メトロの国会議事堂前駅の一部の出入口の利用が制限された。

 この日、衆議院本会議で集団的自衛権の行使を可能にする平和安全法制が採決されている。それを受け、法案に反対する人たちが首相官邸前に詰めかけてデモを実施する予定だった。事前に混乱が予想されたことから、衆議院と警視庁は国会議事堂前駅の一部出入口を封鎖している。

 また、2012(平成24)年には首相官邸前で原発反対デモが毎週金曜夜に催行されていた。このときも、国会議事堂前駅がたびたびロックアウトされている。

 国会議事堂前駅が安全確保を名目にして封鎖するのは、同駅の管理権限が鉄道事業者の東京メトロにないからだ。同駅は衆議院が管理権限を有している。また、国会議事堂前駅は、60年安保のときにも封鎖された過去がある。

 政治問題に絡んでいる例は、ほかにもある。東成田駅−芝山千代田駅間の2.2キロメートルしか営業距離がないミニ鉄道、千葉県の芝山鉄道でも似たような光景を目にすることができる。沿線はのどかな田舎町。テロが起こるような雰囲気はない。

 それでも警察官が車内に乗り込んで警戒にあたる。その理由は、成田空港の開港前後に起きた激しい反対運動にある。

 成田空港の建設によって分断される東西の交通を補償する意味合いから芝山鉄道は建設された、空港建設そのものを象徴するような存在のため反対運動の標的にされる可能性がある。かつて、成田空港にアクセスする京成電鉄の特急列車が放火される事件が起きているため、開港から40年を迎えようとしている現在でも、「鉄道がテロの標的になるのではないか?」という不安から警察官が同乗しているのだ。

 サミットが閉幕し、鉄道の厳戒態勢は解かれた。鉄道の車内や駅は日常的な光景を取り戻し、コインロッカーやゴミ箱は使えるようになった。

 これまで、それらが使えるのは当たり前だと思い込んでいた人たちは多いだろう。しかし、それらは当たり前のことではない。その利便性を存分に感じて、明日からも鉄道を快適に利用してほしい。