ホテル事業に積極的な「カラオケパセラ」の運営会社

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 ホテル業界は活況を呈している。従来の常識では考えられないコンセプトを打ち出すホテルも増加。シティホテル、ビジネスホテルといった区分では説明できないクロスオーバーなカテゴリー戦争・グレード合戦が激化する中、いま進化系ともいえるコンセプトホテルが利用者の圧倒的な支持を受けている。

 そんなホテルで見られる特徴のひとつが、ホテル事業をメインとしない「異業種運営会社」による徹底した“無料サービス”だ。ホテル評論家の瀧澤信秋氏がレポートする。

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 話題のホテルが誕生すると全国各地へ取材に出向き、独自のチェックシートで得点やコストパフォーマンスなど算出する。そんな評論家の仕事を続ける中で殊に近年、凄い!というホテルの共通点が、ホテル事業をメインとしない経営会社や運営会社が手がけるホテル、言うなれば「異業種ホテル」だ。

 例えば、群馬県高崎市の「ホテル ココ・グラン」高崎。2012年8月に誕生した全国チェーンでもない地方都市の一ホテルが脚光を浴びている。じゃらんアワード2013をはじめ、利用者の口コミ高得点での受賞が相次ぎ、いまやその名は全国区になっている。

 しかし、経営会社はホテル専業ではなく人気スイーツを全国各地で販売する製菓メーカー。これまで都内で小規模なビジネスホテルを所有・運営してはいたが、全国にその名を轟かせるホテルを誕生させたのには驚きだ。

 実際ホテルを取材すると、ホテル業界の常識では考えられない発見が多い。ホテルの開業にあたり数々のホテルを巡りひたすらチェック、“ホテルのプロ”の手を借りることはほとんどなかったという。

 一方、都内の繁華街一等地で目にする「カラオケパセラ」。人気カラオケ施設としてご存じの方も多いことだろう。運営会社の「ニュートン・サンザグループ」は、カラオケパセラ以外にも、レストランやウエディング施設、フォトスタジオからいまブームのコワーキングスペースまで幅広い事業展開をしている。ホテル専業の会社ではないが、近年ホテル事業への取り組みにも積極的だ。

 展開する施設はいずれも人気を博し口コミ得点もハイスコア。都心の進化系カプセルホテルから宿泊主体型ホテル、伊豆方面のリゾートホテルといまや宿泊事業は同社のメイン事業のひとつに成長した。共通するのは“バリ”をイメージした非日常感の演出、そして無料サービス続出のお得感だ。

 都心(秋葉原、新宿、新橋)に展開する「豪華カプセルホテル安心お宿」は、調度品をはじめとした施設全体の豪華さ、無料アメニティの豊富さで人気。チープ、無機質といったカプセルホテル業界のイメージを塗り替えた施設といわれている。

 また、宿泊主体型ホテルといえばビジネスホテルをイメージするが、「ホテルパセラの森 横浜関内(横浜)」や「ホテルバリタワー大阪天王寺(大阪)」は、やはりバリがコンセプト。都市部の立地にしてリゾート感を重視。館内着で施設内を移動できる気軽さや、ワインやデザートまで無料提供する驚きの宿泊主体型ホテルだ。

 さらに、伊豆(伊東市)へ展開する5つのリゾートホテル群は異彩を放つ。都市部と比べ施設の条件など恵まれた面もあるが、ニュートン・サンザグループのコンセプトが凝縮した施設が集まる。

 全客室に露天風呂のある「風の薫」はラグジュアリー。愛犬と宿泊できる「愛犬お宿」「ウブドの森」は犬との快適宿泊ステイを徹底研究。「アンダリゾート 伊豆高原」「アンダ別邸 伊豆一碧湖」もリピーター続出の人気施設だ。

 人気の理由は各施設様々であるが、共通点として挙げられるのが“フリードリンク”の提供。伊豆の5施設に共通するのは、夕食/夜食/朝食の3食付きにして、夕食・夜食時はビール・ワインに日本酒や焼酎、各種カクテルといったアルコール類を無料提供する。

 また、客室冷蔵庫内のドリンクも無料で、「ホテルで飲むドリンクは高い」という常識を打ち破る。宿泊料金とは別途累進的に加算されるホテルステイ特有な精算時の不安がない。一方で無料サービスの提供を極めつつ、スタッフサービスのクオリティやホスピタリティの高さにも定評がある。

 サンザ広域事業部 部長の松田一宏氏は、各施設で注目される無料サービスについて、「無料尽くしのジャブ攻撃」と表現する。無料とはいえ宿泊料金に転嫁されているのは言うまでもないが、サービスの質も含め、支払われる料金に対するゲストの納得性を日々追求しているという。

 前述したホテルココ・グランに特徴的なサービスがある。貸し出し品をテレビの画面上でリクエストできるのだ。無料貸し出し品目をザッと見ても、低反発枕、消臭スプレー、水枕に体温計、コンタクト保存液に携帯充電器からブルーレイディスクプレイヤーなど30品目以上に及ぶ。

 種類や品数もそうであるが、リモコンのボタンひとつで客室に届けられることに驚く。在庫確認にコールバックという手間はゲストにとっても負担であるが、当然人件費が発生し料金に転嫁されている。高級シティホテルのような人的サービスの追求もホテルサービスの魅力だが、一般の利用者からすれば、サービス料その他別途料金の支払いはホテル利用時の杞憂でもある。

「いかに料金を加算するか」はホテル運営の肝であるが、多彩なコンセプトのホテルが誕生し、ホテルサービス合戦の様相を呈する中、サービスに見合わない料金の支払いに利用者は敏感だ。ホテル運営の常識から外れる「無料尽くしのお得感」の打ち出しは、異業種で成功をおさめていた運営会社だからこそ実現できたのだろう。

 何を無料にするか有料にするのかはさておき、ホテルココ・グラン、ニュートン・サンザグループに共通するのは、利用者の声を徹底的に吸い上げ現場へスピーディーに落とし込こむところにある。

 大規模なホテルでは成し得ないスピード感で次々と特徴的なサービスを実現する。ホテル業界の活況は、多様なホテルを生み出すとともに伝統的なホテル運営の常識を変えつつあるようだ。

●写真提供/瀧澤信秋