“絶対に語ってはいけないラスト12分間” に映し出された世界とは? 疑惑のベートーベン・佐村河内守を追いかけたドキュメンタリー映画『FAKE』【最新シネマ批評】

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[公開直前☆最新シネマ批評]
映画ライター斎藤香が皆さんよりもひと足先に拝見した最新映画のなかから、おススメ作品をひとつ厳選してご紹介します。

今回ピックアップするのは森達也監督のドキュメンタリー映画『FAKE』(2016年6月4日公開)。

「現代のベートーベン」と呼ばれながら、18年間にわたって音楽家の新垣隆氏がゴーストライターを務めていたことを暴露された佐村河内守氏を、ドキュメンタリー映画監督の森達也監督が追いかけた作品です。

2014年に世間を大騒ぎさせた「佐村河内守のゴーストライター騒動」の謎に迫ります!

【内容】

聴覚障害を持ちながら、ゲーム音楽や交響曲などを発表し、人気の音楽家となった佐村河内守氏。しかし、音楽家の新垣隆氏が、佐村河内氏に依頼を受けて18年間、影武者のように作曲をしてきたことを週刊誌に暴露。佐村河内氏は疑惑の人物となりました。

この映画は、その騒動後の彼を追いかけたドキュメンタリー。

耳は聞こえないのか、作曲はできるのか……という疑問を投げかけながら、森監督が映し出す、佐村河内守とは……。

【謎めいた佐村河内夫妻】

映画の舞台のほとんどは、佐村河内氏のマンションの一室です。昼間でもカーテンで閉め切った部屋は薄暗く、ほぼ引きこもりのように夫婦は暮らしています。

森監督のインタビューに対して、佐村河内氏は「耳が聞こえない」というのがウソのようにしゃべります。実は耳の障害があるのは事実で「感音性難聴」といって、まったく聞こえないわけではなく音が歪んで聞こえるそうです。

作曲についても、新垣氏についても、佐村河内氏は、彼自身が信じる真実を語りますが、しゃべればしゃべるほど、腑に落ちないというか、モヤモヤが晴れないというか。なんかストンと落ちない。納得できないんですよね。

そんな佐村河内氏にピッタリ寄り添う夫人も謎です。新垣氏が作曲していることは知らなかったそうですが、これも「本当に〜?」と思う。

とても愛し合っている夫婦なのですが、浮世離れしているというか、自分たちの世界の中だけで生きているように見えるのです。来客のたびに奥さんが出すケーキも最初は美味しそうに見えるのですが、だんだんケーキと置かれている状況がかみ合わなくて、奇妙に見えてくるんですよ〜。

【ドキュメンタリーの嘘】

ドキュメンタリーは、実在の人物や本当にあった出来事を映し出していますが、そこには演出もあります。ただ目の前にあることを映しているのではなく、監督がこの映画を通して伝えたい思いも存在するはずなのです。つまり、監督のフィルターを通した世界を観客は見るわけです。

この映画も、佐村河内氏を映した膨大な映像の中から、森監督が見せたい佐村河内守氏というわけです。でも森監督は「これが佐村河内守なんだよ」と決めつけはしません。ただ疑惑の追及はしていきます。

特に、外国人記者の取材のシーンは圧巻です。佐村河内氏の痛いところをガンガン突いてきますからね。あのシーンは本当にドキドキしました。そこで佐村河内氏がどう答えたかは、映画で確認してください。

【ラスト12分間は絶対に誰にも言わないでください】

試写が始まる前に「ラストは誰にも言わないでください」とスタッフに言われたので、いったい何が起こるのかと思ったら、そういうことかと。

このラストを見ると、森監督がこの映画について語っている言葉

「入り口はゴーストライター騒動だけど、出口は違います」

ということの意味がわかります。そして、森監督自身が、このラストシーンを見たかったんじゃないかと思ったりしました。

この映画のタイトル『FAKE』は、佐村河内氏だけのことではなく、新垣氏も、メディアも、世間も……すべてに当てはまります。真実ってナニ? 佐村河内守をウソつきよばわりしているアナタ、人のこと言えるの? と。

おそらく見る人によって感想は全く変わってくるけど、だからこそ、見たあと絶対に誰かと話したくなる映画であることに間違いありません。友達や恋人など、誰かと一緒に見て、鑑賞後、大いに語り合ってください!

執筆=斎藤 香(C)Pouch

『FAKE』
(2016年6月4日より、ユーロスペースほか全国順次ロードショー)
監督:森達也
出演:佐村河内守
(C)2016「Fake」製作委員会

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