ブルームバーグ会長「日本が女性管理職の割合を30%にできる可能性」

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2001年よりグローバル金融テクノロジー企業「ブルームバーグ」の取締役会長に任命され、社内のダイバーシティ・マネジメントなどの整備を牽引したピーター・T・グラウアー。現在も会長としてブルームバーグの”顔”であり続ける氏に、ダイバーシティの構築方法やグローバルリーダーに必要な資質を聞いた。

--実は私は15年ほど前にブルームバーグで働いていたのですが、とても働きやすい会社でした。というのも、上司が全員女性で、女性が働きやすいシステムがきちんと整っていたからです。ブルームバーグでの経験は、私のその後のダイバーシティ・マネジメント観に大きな影響を与えました(インタビュアー:谷本有香ウェブ編集長)。

ピーター・T・グラウアー(以下P.G.):それはありがとう。以前の社員がそのように言ってくださることは、私たちの誇りです。

ダイバーシティ・マネジメントというのはさまざまな側面から捉えられる問題です。まず、女性というのは世界の人口の50%を占めておりますし、アメリカにおいては「大卒の53%が女性」という統計があります。つまり、才能のプールとして非常に潜在性がある。ブルームバーグのような大きな組織において、優れたプールにアクセスし、ベストな人材を雇用していくことは、ビジネスの世界で効率的に競争していく上で非常に重要です。

また個人的には、人口に対して女性が社会で活躍している比率は、まだまだ十分ではないと思っています。もちろんダイバーシティでは、人種や国籍、宗教、障害、性的指向などさまざまな異なるグループを取り入れていくことが重要ですが、女性というグループというのはそのなかでも影響力が非常に大きいと感じています。

--ブルームバーグでは、ダイバーシティの促進や均等雇用は、具体的にどのように構築されたのでしょうか?

P.G.:ダイバーシティに対しての思考や行動を変化していくためには、シニアリーダーたちがイニシアティブを取ることが重要です。2年ほど前、私はブルームバーグの創業者であるマイケル・R・ブルームバーグに「ダイバーシティは私が個人的に率いていきたい。シニアレベルで根づかせて、組織を変えたい」と直接伝えました。

最初に行ったのは、比較ができるようにベンチマークとなる数字をつくること。23ほどのビジネス部門とサポート部門があるのですが、それぞれ1年、3年、5年のタームでダイバーシティの目標を盛り込み、その後は年2回の会議で目標の達成度を確認し、さらなる目標値を決めることを繰り返しました。ダイバーシティ促進は、各部門長の責任の一部として組み込まれているのです。

現在の男女比は、約19,000人の従業員のうち、男性が6割以上。トップ1,000人に関しては、女性の割合が約18%で、これは2020年までに30%にまで比率を高めたいと考えています。統計によると30%というのがどうやら屈折点となるようで、そこを超えると組織にとって非常に良い決定をくだしやすいということがわかっています。

しかしながら、これらは一夜にして成し遂げられたわけではありません。「ダイバーシティを最適な形で効率的に運用できる会社を目指す」というゴールに向かって、3歩進んで2歩下がるというような動きを繰り返しながら、 少しずつ変化してきたのです。
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--なるほど。日本でも先ごろ、安倍晋三総理が「女性の管理職の割合を2020年までに30%にする」と宣言しました。これを達成するためには、一体どのようなことが必要だと思われますか?

P.G.:安倍首相のように素晴らしいリーダーシップを持った方が、地面に楔を打ち込むように積極的な女性登用を推進するということは非常に有益だと思いますし、重要なことです。ただ、ひとつ言えるのは、「2020年までに30%にする」というのはターゲットの設定であって、そのゴールに向かってとにかくやり続けることが大切です。また、法律でどうこうできるようなものではなく、あくまでも人々の行動が変化していかなければならないものであって、そういった変化が起きやすい、受け入れられやすい環境を国がつくるということが肝心です。成功すれば、日本のみならず、他国にも良い先例をつくることになるでしょう。

ブルームバーグ東京の代表である石橋邦裕もダイバーシティを率先しておりますが、安倍首相が国を挙げて目標を掲げていくことで、企業のさまざまなリーダーにも大きな影響を及ぼし、目標を達成できる可能性も上がっていくのではないかと思います。その結果、2020年には無理かもしれませんが、22年あるいは24年には達成できるといった見通しが立つのではないでしょうか。

--そもそも、女性活用というのは経済成長に繋がるのでしょうか?

P.G.:もちろんです。具体的な項目によって少しずつ変わるかもしれませんが、たとえばアメリカでは品物の購入の75〜80%は女性が行っています。これはきっと日本も同様ですよね? つまり「女性がその商品や会社について何を感じるか?」ということが、購買行動に非常に大きな影響を与えるということです。まさに女性登用の促進は経済効果が高いのです。

アメリカの大手百貨店メイシーズや、大手化粧品会社エスティローダーは、顧客の大半が女性です。メイシーズの会長兼CEOテリー・J・ラングレン氏は、リーダー的なポジションの60〜65%に女性を登用していますし、ボードメンバーの過半数も女性です。エスティローダーも、会長ウィリアム・ローダー氏がシニアリーダーに女性をメイシーズ並みに多く登用しています。このように、「商品や会社を選択する際の決定権は圧倒的に女性にある」という現実を重要視できる洞察力が会社にとって重要だと私は思います。

--日本には「プロのリーダー」がいないとよく言われていますが、理由のひとつとしては終身雇用が考えられます。つまり、リーダーになったとしても、そのスキルを他の会社で活かすことができない。グラウアー会長にとって「リーダー」とはどういう人を指すのか、その定義を教えてください。

P.G.:幾つかの要素が考えられると思います。まず感情的な知的さ(emotional intelligence)が重要です。人間関係をうまく構築し、それを育成するためにきちんと投資をする。シニアリーダーとして居心地の良い場所(comfort zone)から出て、人々に対する応対を誠意を持って行うというのが、重要な資質です。また成功していくためには謙虚さも必要だと思います。
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--「グローバルリーダー」ということでは、必要な資質は違ってくるとお考えですか?

P.G.:いや、いずれにせよ、リーダーになるということは膨大なエネルギーが必要とされます。その重責に耐えられるタフさがあれば、どこでも通用するかもしれません。

私もグローバルリーダーの一員として、人々との関係に重きを置いています。重要なのは、親密さです。人と話をするときには目を見て話すということ。ブルームバーグの場合は世界に9カ所拠点がありますから、1年を通して各拠点すべてを厭わずに廻ることをすれば、組織全体の9割の人と知り合うことができます。その際、誠実に、一人ひとりを大切に、親密な関係をもって対処していくということが重要です。

またグローバルリーダーは人々にインスピレーションを与える存在であらねばなりません。それは自らの日々の行動を通じて発揮できますし、重要なイベントが起きた際の行動で示すこともできると思います。

たとえば2011年3月11日、東日本大震災が起きました。私はそのとき中東にいたのですが、すぐにアメリカ経由で日本にやってきて、3日ほど東京支社に滞在しました。一人ひとりのデスクを廻り、日本人社員の安否確認を自ら行ったわけです。それから5年が経ちますが、いまでも多くの社員たちは、私が個人的な命の危険をおかしてまで「私たちは一体である」というメッセージを身をもって示したことを覚えてくれています。リーダーはロールモデルでなくてはならない。自分よりも先に社員やその他の人々に思いをめぐらせることのできる人でなくてはなりません。

あとは、他の人々の行動を見て、そこから良いものを学ぼうとする姿勢も重要です。リーダーとは、年月を経て英知を学び、成熟していくことのできる存在でなければいけません。

--最後に、アベノミクスのこれまでの進捗をどう見ていらっしゃるか、教えていただけますか。

P.G.:安倍政権は非常に素晴らしい、褒められるべき仕事をして、日本の経済をより良い方向に導いていると考えています。現在予測される日本のGDPは1.25〜1.30%程度と、大きな伸びではありませんが、明らかにポジティブです。インフレに関しては1.5〜2%くらいと予想されますので、デフレの罠から脱却するためには非常に重要な要素でしょう。日銀もマイナス金利政策を続けており、安倍首相は非常に強いリーダーシップを発揮し、断固たるスタンスを示していると感じます。「3本の矢」の政策をもとに、女性登用や少子高齢化など、非常に難しく複雑な課題に果敢に取り組んでおられるわけで、それが経済成長にとって非常に重要な運命を担うことになるでしょう。

また、安倍首相は国会において多数派の支持を得ています。これは非常に重要なポイントです。なぜなら大きな変革を起こすためのさまざまな取り組みや法制づくりには、多数派の指示が不可欠だからです。安倍政権は非常に困難な課題に直面しているのではないかという声もありますが、やはり大きな変化というのは、人々がメリットや影響を認識し理解するまで、時間がかかります。というわけで、私の安倍政権に対する”成績表”は、オール5に近いかもしれません(笑)。

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ピーター・T・グラウアー◎ブルームバーグ エル・ピー会長。ノース・カロライナ大学およびハーバード大学経営大学院マネジメント・ディべロップメント・プログラム卒業。1992年〜2000年までドナルドソン、ラフキン&ジェンレット(DLJ、2000年にクレディ・スイス・ファースト・ボストンにより買収)のマネジング・ディレクターを務める。1996年10月よりブルームバーグ取締役を務め、2001年3月よりマイケル・R・ブルームバーグの後を継ぎ、取締役会長に。常勤の会長、社長兼CEOを経たのち、現職。