「元々このチームは、ファーストチーム・セカンドチームはない。いろんな選手を試す機会が、たまたま決勝の前日だっただけ」
 
 そう淡々と話した指揮官の期待に応えるように、松原の堅実な守備と、宮川の黒子のようなサポートによって、決勝の相手・北朝鮮の多彩な攻撃を許さず、2大会ぶりのアジア制覇へつながった。
 
 加えて、才能の発掘も得意とする。
 
「普段は目に付かないチームにも隠れた存在がいるのではないかと、スタッフでいろんな大会を見るようにしている」と話す高倉監督の姿を、筆者はユース年代指導者の頃から全国さまざまな会場で目にしている。そして、その後には視察した数人の選手が実際に候補合宿に招集された。
 
 今回のなでしこジャパンでも、高木ひかり(ノジマステラ神奈川相模原)、千葉園子(ASハリマアルビオン)という、なでしこリーグ2部の選手を招集されたことでも指揮官のスタイルは一貫していると言える。
 
 ただ一方で、高倉監督は、年齢制限のない代表チームを率いるのは今回が初で、その点で手腕は未知数と言える。中堅・ベテラン選手の実績はさまざまで、個々にプライドや自信もあるはずだ。高倉監督のチームマネジメント力が問われることになる。
 
 FIFAランキングで4位から7位に後退した日本に対し、FIFAランキング1位のアメリカはリオ五輪に向けて最終調整に入っている。通算成績は日本の1勝6分24敗。
 
 力の差は、高倉監督が一番分かっているのかもしれない。しかし、それでも「サッカーというのは思いがけない要素が出てくるもの」と、指揮官は虎視眈々と初陣での勝利を狙っている。
 
取材・文:馬見新拓郎(フリーライター)